光と色の違い | 構造色事始

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構造色の面白さをお伝えします。

先日、構造色に関係して「色の違いが分かる仕組み」という記事を書きました。今日は、もう少し話を遡って、そもそも「色とは何だろうか」という話をしてみます。

「色とは何か」という問題に対して忘れてはならないのは、ニュートンの実験です。ニュートンは万有引力を発見したことで有名ですが、光についてもさまざまな実験や考察を行い、それを「光学(Opticks)」という本にまとめています。1704年のことです。この本は今では、ネット上で読むことができます。この中で、ニュートンは次のような実験をしています。

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この図は、上の本の187ページにある実験の模式図です。ニュートンは、太陽からの白色光を細い光線にしてプリズムに導き、白色光をいろいろ色を分けました。さらに、それをレンズで別のプリズムに入れ、今度は白色光に戻します。それを3番目のプリズムで再びいろいろな色に分けるという実験です。

この実験から、色に関して、次の2つのことが分かります。まず、白い色はいろいろな色の集まりであること、もう一つは、色はプリズムを何度の角度で曲がるかという、完全に物理的な現象で決まるということです。今では、プリズムでいろいろな色に分かれる現象は、プリズムを作る物質の屈折率が光の波長で異なる「屈折率分散」という現象で説明されています。

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つまり、色は光の波長と一対一に対応していることになるのです。上の図はそれを表したもので、光の波長が変わると、a)のように色は連続的に変化していきます。色に名前を付ける都合から、b)のように便宜的に色を波長で分けて名付けています。

さて、このような解釈と全く異なる解釈もあります。それは、詩人であり、科学者でもあったゲーテが1810年に出版した色彩論に書かれています。この中で、次のような話が書かれています。ゲーテが暗い酒場で一人で酒を飲み、何気なく入口を見ていると、そこに、赤い胸衣を着た少女が入ってきました。ゲーテがその少女を見つめていると、少女が立ち去った後の白い壁に、黒い顔が明るい輝きに包まれ、輪郭のはっきりした胸衣は淡緑色に見えたと記しています。もともと白かった壁にこのような色が見えたのですから、色は物理的な現象ではなく、視覚現象の一つだという考えになったのです。

この現象は次のような実験をすると、簡単に再現することができます。

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上の図の中心の黒い部分を15秒ほどじっと見続けます。その後、白い画面か紙を見ます。すると、赤い部分が薄青緑色に、青い部分が薄黄色に見えるでしょう。この現象は「色順応」と呼ばれ、前回お話しした目の中の錐体に同じ色の光がずっと当たり続けると、その色の光を検出する感度を落としてしまうという生理作用で説明されています。その色を検出する感度が落ちるので、すべての色を含んだ白色から、その色を抜いた、すなわち、その色の補色が見えるのです。

つまり、色には光の波長で決まる物理的な要因と、人の視覚が関係した生理的な要因が含まれていることが分かります。例えば、緑色は光の波長で厳密に決まりますが、人の目では必ずしも緑色の波長でなくても、人の目が緑色と感じさえすればよいのです。

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この図は少し前まで使われていたブラウン管式のディスプレイ上の文字を拡大したものです。白く見えている字は赤、緑、青の色が合わさって作られています。それぞれの色を光の波長で表したものが右のグラフです。
上のグラフは、それぞれ赤、緑、青の色に対するスペクトルを表していますが、それぞれの色がいろいろな波長の光を含んでいることが分かります。要は、赤、緑、青に見えさえすればよいです。下のグラフは紫、水色、黄色の場合ですが、赤、緑、青の色を組み合わせて作られていることが分かります。

さらに、話をややこしくする現象もあります。次の図を見て下さい。

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上は、黄土色で書いた「モルフォ」という文字です。真ん中は、背景を紫、手前に緑色の縞模様入れたもの、下は、緑色の背景に、手前に紫色の縞模様を入れたものです。字の色は同じなのですが、違って見えませんか。この図を見せると、実は、字の色も違っているのだろうという疑いの目でいつも見られます。それで、縞模様を少しずらしてみました。

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縞模様がない部分はもとの色になりますが、ある部分はやはり変化して見えるでしょう。これでも疑問に思う方は自分で作ってみて試してみて下さい。これは一種の錯視で、「色誘導」という名前で呼ばれています。色は近くにある色の影響を受けるという現象なのです。この現象は、目の中の生理作用だけでなく、脳が関係した現象と考えられています。

こうしてみると、光と色は概念的には一対一に対応していますが、実際に見て感じる色はまったく異なっているということになるのです。構造色にもこのような見る側の視覚を利用した現象がいくつか登場しました。これまで、説明したものの中では、ハトの首の色がそうですし、また、オビクジャクアゲハの模様の色もその一種です。(SK)

構造色研究会のホームページ:http://mph.fbs.osaka-u.ac.jp/~ssc/