色の違いが分かる仕組み | 構造色事始

構造色事始

構造色の面白さをお伝えします。

構造色は、構造によって色を作り出す現象でしたが、そもそも、人はどのように色を認識しているのでしょう。今回は、構造色そのものについての話ではありませんが、それに深く関係した目の仕組みについて書いてみたいと思います。

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(本郷利憲ほか編、「標準生理学」、医学書院 (2005)を参考にしました)

この図は目の断面を描いたものです。人の目は強膜という膜によって囲まれています。強膜の一部は透明になり、角膜になっています。強膜の内側には脈絡膜があり、その内側に網膜があります。角膜から入った光は、水晶体というレンズにより曲げられ、ゼラチン様の硝子体を通って、網膜上に焦点を結びます。水晶体は脈絡膜に起因する毛様体筋によって厚さを変えられ、近いものを見たり、遠いところを見た時にそれぞれ焦点を合うようにしています。また、水晶体の外側には虹彩があって、カメラの絞りの役割をしています。目には視軸という光学的な中心軸がありますが、網膜のうち、この軸の周辺上を特に黄斑といって、もっとも感度の高い部分になっています。

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(河村悟著、「視覚の光生物学」、朝倉書店 (2010)を参考にしました)

網膜は厚さがわずか0.2mmの薄い膜で、その内部には上図のようにさまざまな細胞が入っています。このうち、光の検出に直接関係しているのは、視細胞と呼ばれる細胞です。視細胞には桿体錐体という2種類の細胞があります。この細胞で光を検出して、その情報を水平細胞双極細胞アマクリン細胞と呼ばれる種々の細胞に渡し、情報処理をした後に、神経節細胞から視神経を通って脳に送られます。

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視細胞は繊毛上皮細胞に由来する細胞で、その先端は複雑に折れ曲がったり、円盤上のディスクが詰まったりして、その中に多量の視物質を持っています。視物質はロドプシンと呼ばれるタンパク質で、レチナールという色素とオプシンというタンパク質からできています。レチナールに光が当たると、エネルギーの高い状態になり、このとき、レチナール分子が変形します。これがきっかけになって、オプシンが形を変えて、ついには、レチナールを放出します。この変化が、光を検出したという信号になるのです。分離されたレチナールはレチノールという安全な形の分子に変えられ、色素上皮細胞に送られて、もとの形の分子に再生され、再び、視細胞に送られてきます。一方、桿体や錐体の先端部分は作られてから時間の経った視物質がある部分で、そこから順に色素上皮細胞により貪食されて分解されていきます。

視細胞のうち、錐体は感度が低い代わりに応答は速く、明るいところでの色の識別や動きの検出を担っています。一方、桿体は錐体より感度が1000倍ほど高い代わりに、応答は遅く、薄暗い環境での視覚に関係しています。さて、色が識別できる理由は、錐体に赤(R)、緑(G)、青(B)を検出する3種類の錐体があることによっています。これらの細胞内部の視物質は同じロドプシンですが、タンパク質のオプシンに少しずつ違いがあって、そのためにレチナールが吸収する光の波長が変化することによっています。

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(本郷利憲ほか編、「標準生理学」、医学書院 (2005)を参考にしました)

この図はR、G、Bという3種類の錐体と桿体がどの色の光をどの割合で吸収するかを示したグラフです。Rは黄色を中心に赤から青まで吸収し、Gは緑を中心に橙から青まで、Bは紫を中心に緑から紫にかけて吸収します。このように、例えば、緑色の光が目に入ってきても、それがR、G、Bという3種類の錐体で異なった割合で検出され、その割合により色を識別しているのです。これに対して、赤はRでしか検出されないので、光の波長が変化しても、私たちは赤であるとしか分かりません。

一方、桿体は青緑を中心に黄から青にかけての光を検出しますが、桿体は1種類しかないので、錐体のように色の識別ができません。夕方、暗くなるとモノクロの世界になってくるのは、錐体が働かなくなって、桿体だけが働くようになったからです。また、桿体には赤の感度がないので、赤色は夕方には見えにくくなってきます。

黄斑の周辺には錐体がたくさん分布しています。一方、桿体は黄斑にはほとんどなくて、むしろ、その周辺に多く分布しています。天体望遠鏡で星を見るとき、中心から目を少しそらすようにするとよく見えるのは、桿体が目の中心に分布していないからです。

【感想】
私は構造色の研究を始めてから、はじめて目の仕組みを勉強しました。もっと詳しく知りたいと思って、視覚の研究をしている研究室のゼミに1年間も出席させていただきました。デジカメ内部ではさまざまな画像処理をしていますが、それと同じようなことが目の中でも行われ、処理された情報が脳に送られているという話を聞き、驚きました。この話はまた次の機会に述べたいと思います。(SK)

構造色研究会のホームページ:http://mph.fbs.osaka-u.ac.jp/~ssc/