オオスカシバの透明な翅 | 構造色事始

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構造色の面白さをお伝えします。

セミとトンボの透明な翅の話をしたついでにオオスカシバという蛾の翅の話をします。

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オオスカシバはスズメガの一種で、長い口吻を持っていて、ホバリングをしながら花の蜜を吸います。この蛾は透明な翅を持っているところが、ほかのスズメガの仲間と異なります。

オオスカシバが羽化したばかりのときは、翅全体が白い鱗粉に覆われています。YouTubeに、羽化して初めて飛び立つオオスカシバの姿が写されていました。確かに翅全体が白い鱗粉で覆われています。この鱗粉は羽ばたいている途中で脱落してしまい、後には透明な翅が残ります。

JT生命誌研究館の吉田昭広博士は、この透明になった翅を調べて、翅一面に蛾の眼で見られたのと同様のモスアイ構造があることを見つけました。1996年のことです。以前にもお見せしたモスアイ構造の模式図をもう一度お見せします。

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オオスカシバの翅に、このような細かい突起が六角形状に整然と並んでいることは、蛾の眼のモスアイ構造と良く似ています。しかも、突起の高さは0.25ミクロンで、これも蛾の眼とほぼ同じです。オオスカシバの翅の場合は、その断面を電子顕微鏡で調べると、突起というよりは、次図のように上下がつながった連続的な構造をしていることが分かりました。

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透明な部分には、翅の表も裏も同様の突起があります。吉田博士は、翅の裏表の突起を紙やスタイロフォームを使ってつぶしてみました。すると、見た目にはあまり変化はなかったのですが、光の反射率を測ると、突起のある状態ではわずか1-2%だったのが、突起をつぶすと4-5%に上昇することを見つけました。また、光を当てると、つぶした方が明らかに光沢があったと記しています。

このようにオオスカシバが反射防止の翅を持つ理由ははっきりとは分かりませんが、おそらく、鱗粉が無い方が高速で翅を動かしてホバリングをするには有利で、一方、透明になった翅の光沢を防ぐことで、捕食者の注意を引かないように工夫した結果なのかもしれません。この研究は、眼以外でモスアイ構造の存在を初めて見つけた研究として注目されています。(SK)

【参考文献】
A. Yoshida et al., Zool. Sci. 13, 525 (1996).
A. Yoshida et al., Zool. Sci. 14, 737 (1997).

構造色研究会のホームページ:http://mph.fbs.osaka-u.ac.jp/~ssc/