セミの翅は光らないのか? | 構造色事始

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構造色の面白さをお伝えします。

暑い夏になってきました。外ではうるさいようにセミが鳴いています。セミを探すときは、声を頼りに木の幹や枝を探していきます。あの透明な翅(はね)が、ガラスのようにぴかぴか光っていると、どこにいるかすぐに分かるのに・・・なんて考えたことはありませんか。そんなセミの翅に関する研究が10年ほど前に行われました。

まず、透明な翅を持つセミの写真をお見せします。

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上からクマゼミ、ミンミンゼミ、ヒグラシです。確かに、これらの写真を見ても、翅がつやつやと光っていることはありませんね。

2004年に、オーストラリアのワトソン博士らは、セミの透明な翅に、蛾の眼に見られるようなモスアイ構造が見られることを原子間力顕微鏡という手段を用いて見つけました。モスアイ構造というのは、蛾の眼について初めて見つかったナノ構造です。蛾の角膜の表面には、多数の突起が規則正しく並んでいて、これが光の反射を防いでいるというのです。その後、蛾以外にも、蝶、トビケラ、ハエなどでも同じような構造が見つかり、現在では、この構造を用いて太陽電池などの表面反射を防ごうという研究が盛んに行われています。モスアイ構造については、以前に書いた記事(モスアイ(蛾の目))を参照してください。

さて、その蛾と同じような構造がセミの翅にも見つかったということなのです。その構造の模式図を次にお見せします。

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図のa)は斜め上から、b)は真上に近い方向から見たものです。翅の表面にできたこれらの突起の高さは225-250 ナノメータで、また、突起と突起の間隔もほぼ同じくらいだったそうです。突起は上から見ると六角形になるように並んでいます。このような構造があると、蛾の眼と同じように光の反射を防ぎ、セミが木に止まっているときでも、鳥などに見つからないようにできると考えられています。

ところで、ワトソン博士は翅にある翅脈という筋の上にも似たような構造があることを見つけました。この場合の突起は、翅の透明な部分に比べて、高さも間隔も倍ほどあり、また、高さや並び方が乱れていたそうです。このことから、ワトソン博士は翅脈の上にある構造は、反射を防ぐというよりはむしろ、機械的な強度を高める役目をしているのではないかと考えています。

その後、ワトソン博士らはいろいろなセミの翅を調べ、これらが、反射を防ぐとともに、ほこりなどを自動的に取る自浄作用や濡れないようにする撥水作用があることに気がつきました。埃が物体につくには、埃と物体との間の接触面積が大きくなることが必要ですが、突起があると接触面積を極めて小さくすることができるからです。また、物体が液体で濡れるときには、液体と物体の表面の性質が近いことが必要です。しかし、翅に突起があると、液体と翅が接するときは、性質の全く異なる空気とほとんどの面積で接することになるので、液体は表面をできるだけ小さくしようとして、丸くなり転がり落ちてしまうのです。これを、ハスの葉の上の水滴と同じ効果という意味でLotus effectと呼んでいます。Lotusはハスを意味します。

このように、翅の表面にある突起は、光の反射を防ぐだけでなく、翅の強度を上げ、汚れを落とす自浄作用、それに、水をはじく撥水作用と、多くの機能を持っていることが分かってきたのです。(SK)

【参考文献】
G. S. Watson and J. A. Watson, Appl. Surf. Sci. 235, 139 (2004).
G. S. Watson et al., Biophys. J. 94, 3352 (2008).
M. Sun et al., J. Exp. Biol. 212, 3148 (2009).

構造色研究会のホームページ:http://mph.fbs.osaka-u.ac.jp/~ssc/