ハエの目はなぜ赤い? その1 | 構造色事始

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構造色の面白さをお伝えします。

ハエやアブをじっくりと観察したことがありますか?実は、ハエやアブの目は一般に赤い色をしています。しかし、この仲間には驚くほど綺麗な緑色の目を持つものもいます。また、目に縞模様のようなものがあるものもいます。いったいどのような仕組みでこのような色が付いているのでしょうか、また、それがどういう意味を持っているのでしょうか。こんな疑問に答えようと文献で調べてみました。

まず、ハエやアブの仲間の写真をお見せします。

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ハエは一般に、このような赤黒い目をしています。

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しかし、ハエやアブの仲間には、こんな綺麗な緑色のものもいます。上は、アシナガバエの仲間で、下はアオメアブです。

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また、目にこんな不思議な模様のあるものもいます。上はツマグロキンバエ、下はオオハナアブです。いったい、どのような仕組みでこのような変化があるのでしょう。

そのために、まず、ハエの目の仕組みについて説明してみましょう。ハエの目は複眼と言って、小さな個眼が集まってできています。一つ一つの個眼は次の図a)のような仕組みをしています。

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(Stavenga(2008)と中越による)

図a)は個眼を横から見たところです。個眼の表面には角膜があり、その下には擬晶子体と呼ばれるレンズがあります。その下の長い部分が視細胞で、光を検出する場所になっています。視細胞は不思議な形をしています。図a)のAとBの断面で視細胞を見たものが図b)です。R1からR7と書いてあるのは視細胞の番号です。灰色や赤色の丸で書いてあるものが光を検出する部分でラブドメアといいます。この中にはロドプシンと呼ばれる視物質が入っています。図a)で黒い縦の太線で書いているのがラブドメアです。この中に視物質がいっぱい詰まっています。角膜から入った光はまるで光ファイバーの中を通るように、ラブドメアの部分を通過していきます。

真ん中の赤い丸の部分だけちょっと変わっていて、上と下で異なる視細胞になっています。上はR7で、下はR8と呼ばれています。従って、ハエの個眼には視細胞が全部で8個あることになります。R7とR8は中心軸に入ってきた光を検出するので、光の方向を見分け、また、後で説明するように色の識別を行っています。それに対して、R1-6は中心軸からずれた光を検出するので、動きを検出するといわれています。私たちがハエの傍を通ると逃げてしまうのは、R1-6の働きだったのですね。

これら視細胞を取り囲むように色素細胞があります。光が上から入ってきたとき、色素細胞が狭くなっている部分が絞りの役目を果たします。この色素細胞の中にはオモクロームやプテリジンという赤い色素が入っています。ハエの目が赤いのはこの色素によるものなのです。色素は顆粒状になっていて、色を濃くしたいときには細胞の中で顆粒が分散し、薄くしたいときには凝集します。こうして、明るさの調節もすることができるのです。

ここまでは、構造色はあまり関係していませんでした。もう少し詳しいハエの目の色の仕組みや構造色の話は、長くなるので、次回にします。乞うご期待(SK)

【参考文献】
D. G. Stavenga, J. Comp. Physiol. A 188, 337 (2002).
D. G. Stavenga and K. Arikawa, PLoS Biol. 6, e115 (2008).
中越英樹、ライフサイエンス 新着論文レビュー.
洗幸夫、家屋害虫 18, 112 (1996).

構造色研究会のホームページ:http://mph.fbs.osaka-u.ac.jp/~ssc/