車の塗装に使われている構造色 | 構造色事始

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構造色の面白さをお伝えします。

生物の話題から少し遠ざかりますが、生物に見られる美しい構造色を利用したり、模倣しようとして、人類は古くから生物の構造色に注目していました。

7世紀に作られたとされる玉虫厨子がその代表です。また、奈良時代に唐から伝わったとされる貝殻を薄く切って貼る螺鈿(らでん)という技法やクジャクの羽飾りなどもそれに当たります。古くは自然にある構造色材料をそのまま使っていたのですが、20世紀後半になってナノテクノロジーが進歩すると、そのような構造色材料を工業的に造れるようになってきました。現在は、これらの材料は塗料に混ぜられ、いろいろなものの塗装に使われています。

ちょっと例をお見せします。

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(以上、関西ペイント(株)提供)

これは車を構造色材料を含む塗料で塗装した例です。場所により微妙に色が変化している様子が分かりますね。

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(マジョーラ 試料提供日本ペイント(株))

これはラバーに塗装したものですが、見る方向を変えていくと、写真のように色が変化していきます。

このような構造色材料は一般に光輝材と呼ばれ、通常薄い小薄片にして、塗料に混ぜられて使われています。構造色以外にもいろいろな材料を混ぜた材料が造られていますが、それらは大きく分けると、次の4つに分けられます。

1.基板に金属を用いたもの
2.基板に透明物質を用いたもの
3.液晶を用いたもの
4.ホログラフィック顔料

ここでは、1の金属を用いた材料について書いてみます。金属を用いたものの中にも、いくつかの種類があります。
a)アルミニウム、銅、亜鉛、錫などの薄片をそのまま用いたもの。シルバーメタリックはこの材料を用いた塗装です。
b)色の付けた金属薄片を用いたもの。
c)金属薄片に透明な膜をつけて干渉色を利用したもの
d)それに、上の写真の塗装に用いられている金属のサンドイッチ構造があります。

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d)は薄片の基板として金属を用いて、その上下に透明な層を付け、さらに金属の薄い膜で覆ったものです。このような構造を持つ材料は、多重干渉性光輝材(OVP®)と呼ばれています。この光輝材は、初めFlex Productsという会社で製造され、主に、お札の偽造防止用の塗料に使われていました。その後、車の塗装にも用いるため、色の変化を大きくした材料が造られ、ChromaFlair®という名前で発売しました。その前後に、光ファイバー会社JDSU社に買収されましたが、現在でもChromaFlair®という名前で世界中で用いられています。

この薄片は裏と表が同じ構造をしているので、塗料に混ぜたときに、どちらの面が表面を向いても良いようになっています。中央の金属には、通常、アルミニウムが用いられて、光はこの層で強く反射されます。一方、その上にはフッ化マグネシウムの透明層が載せられ、これが薄膜干渉を起こして特定の色を反射します。一番の外側の薄い金属の膜にはクロムやチタンが用いられ、薄膜干渉の効率を上げるようになっています。このような構造のため、金属的な強い反射と強い発色を起こします。また、方向により色の変わるフリップフロップ性を持っています。

しかし、これまで説明してきた生物の構造色と比較すると、ずいぶん単純な構造であることは否めません。構造色を作る機構が簡単な薄膜干渉であり、また、それが鱗粉とか小羽枝のような大きな構造の中に組み込まれているわけでもなく、また、発色をするだけの単機能である点などなどです。生物では、色を効果的に見せるために様々な工夫がされていますし、また、発色だけではなくほかにもいろいろな役割を持たせる多機能性を持っています。今後は、生物の優れた機能をもっともっと学ばなければいけないと思います。今後の発展に期待しましょう。(SK)

構造色研究会のホームページ:http://mph.fbs.osaka-u.ac.jp/~ssc/