円偏光を反射するコガネムシ | 構造色事始

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構造色の面白さをお伝えします。

光は横波だといわれます。光の波は、海の波のように界面が上下するような波ではなくて、電場(または電界)の向きと大きさが変化する波です。電場という言葉になじみがないかもしれませんが、電気のプラスとマイナスと近づけると互いに引き合いますが、これはプラス(またはマイナス)によって電場が生じていて、その電場によってマイナス(プラス)が引っ張られるのだと考えるのです。(注:本当は、光の進行に伴い、電場の向きと一緒に磁場の向きも振動します。それで、光は電磁波と呼ばれています。でも、偏光は電場の向きで言うことが多いので、ここでは電場だけを考えることにします。)

光の波を描いたのが次の図です。
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この図では、電場の向きと大きさを矢印で表しています。上側の図では、光が右前方に進行するに従い、電場の向きが下を向いたり上を向いたり振動しながら進行しています。このように、電場が一方向だけで振動する光の状態を直線偏光と呼んでいます。以前紹介した偏光板を通ると、こんな直線偏光の光ができあがります。これに対して、太陽や電球などの一般の光では、電場の向きは右を向いたり上を向いたりランダムに変化します。このような光の状態を無偏光と呼んでいます。

さて、上図の下側の図を見てください。この図では電場は一方向に振動するのではなくて、大きさは変化せず、向きだけ順に変化させて、まるでらせんのようになりながら光は進行していきます。こんな奇妙な光の状態を円偏光と呼んでいます。この図の場合、進行方向に対して右回りのらせんになって進んで行くので右回りの円偏光と呼びます。これとは逆に、左回りに進行する光を左回り円偏光と呼んでいます。

人間の目は、右回りも左回りも区別がつかないのですが、実は、コガネムシの仲間は左回り円偏光の光を反射しているのです。

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この写真を見てください。これはコガネムシの仲間のリュウキュウツヤハナムグリです。左側は普通に撮影したもの、右側は左回りの円偏光を通さない特殊な偏光板(右回り円偏光板)を通して撮影したものです。まっ黒になってしまいました。つまり、このコガネムシは左回り円偏光の光だけを反射しているのです。

同様の実験をいろいろなコガネムシについて行ってみました。

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(兵庫県立人と自然の博物館所蔵標本)

左側の写真は普通に撮影したもの、真ん中は左回り円偏光の光だけを通す偏光板(左回り円偏光板)を通して撮影したもの、右側は右回り円偏光板を通して撮影したものです。左側と真ん中はほとんど変わりませんが、右側の写真は大体において暗くなっています。つまり、これらのコガネムシは左回り円偏光の光を反射しているのです。

しかし、種類によっては異なるものもあります。例えば、一番上のPlusiotis resplendens(プラチナコガネ)では、左回り円偏光板を通しても右回り円偏光板を通しても暗くならないので、両方の円偏光の光を反射していることが分かります。しかし、色が微妙に変化していて、左回り円偏光板を通すと緑がかり、右回り円偏光板ではやや赤味を帯びています。どうして、コガネムシは円偏光の光を反射するのか、どうして種類によって異なるのかは、また、次回説明することにします。(SK)

【参考】
左回り円偏光板と右回り円偏光板がセットになったものが、円偏光方式の立体メガネとして売られています。値段は数百円から千円程度です。1個だけ売ってくれるかどうかは分かりませんが、もし、手に入ったら身近なコガネムシで試してください。

構造色研究会のホームページ:http://mph.fbs.osaka-u.ac.jp/~ssc/