エイアル(ライアー・アシュケナジ)はモサド(イスラエル総理府諜報特務局)のトップ・クラス・エージェント。リスクの高い任務を成功させ上司からの信頼も厚かった。
そんな彼の次の任務は、イスラエル国内に移住したドイツ人の姉を元を国を訪れる男アクセル(ナット・バーガー)に接近し、彼の行動を監視すること。アクセルと姉ピア(キャロリーヌ・ピータース)の祖父はナチ高官のアルフレッド・ヒメルマンで、モサドは彼が存命で密かに家族とコンタクトを取っているものを疑いをもっていたのだ。
観光ガイドに成りすまし空港に到着したアクセルと接触したエイアルだったが、やがて寛大で繊細かつリベラルなアクセルなキャラクターへの理解を深めて行く。ナチ高官の孫という過去に苦しむピアの姿に接し、エイアルはドイツ人の若者二人に心を許し、秘密裏の任務の遂行に苛立ちを覚えるようになるのだが…


2004年のイスラエル・フィルム・アカデミーで8部門にノミネートされたという、去年中盤に米国公開になったイスラエル映画。言葉の壁もあってか、米国の田舎でイスラエル映画を目にする機会はあまりなく、過去「ブロークン・ウイング 」(←普通の青春映画、楽しめました)と「Late Marriage 」(←??正直あんまりよく分かりませんでした)の2本を見た記憶があるくらい。本作の主人公を演じたライアー・アシュケナジはその「Late marriage」でも主演していて、なんでもイスラエルの国民的映画スターなんだとか。演出はまたまた名前しかしらないエイタン・フォックス監督。


お話の構成はよく計算されていて、スムースで冷静・テキパキと物事をこなす諜報部員の主人公エイアルとと対比的な観光客のアクセルのキャラクターの作りこみなど、物語を構築するお膳立ての積み重ねが巧く機能しています。
またエイアルは、ナチの残党を探し出し裁判にかけて殺す行為にはあまり共感を得ていない一方で、国内に居るパレスチナ人の言動には苛立ちを覚えていると設定されています。
論理的に正当性のある過去より、負い目を上回ってのしかかる現実の重み、というスキームが、イスラエル国内から提示されている事に少し驚きました(そしてこの作品がワシントン・ユダヤ人・フィルム・フェスティバルで観客賞を受賞した、という事実にもっと驚きました。ホロコーストやナチ残党狩りに対するユダヤ人の態度はガチガチの一枚岩かと思っていたもので…)


そんな点を含む政治的なメッセージ性を振り返って考えると、スティーヴン・スピルバーグの「ミュンヘン 」や、前回オスカーの外国語部門にノミネートされた「Paradise Now 」より、本作の方が自分個人に与えてくれたインパクトという点でより多くの点を与えたくなります。


題名はもちろん、ガラリア湖の上をイエスが歩いたという逸話から。(最近「ダ・ヴィンチ・コード 」の終わりの方でもオドレイ・トトゥが冗談に使ってましたね)

あまり大きなスクリーンで大規模公開されるような作風ではないのでしょうが、内容もプレゼンテーションもレベルが高く、埋もれさせるのはもったいない佳作だと思います。ドラマ性とメッセージ性も高いレベルでバランスしており、サスペンス要素もあって、面白い作品でした。個人的に強く印象に残る要素が多々あり、ふと思い出して感想を書いてみました。


IMDb: Walk On Water
Official Site: Roadside Attractions

WoW2 WoW3

WoW4 WoW1

WoW5 WoW6

WoW7 Walk On Water

時は2010年、所はパリ。スラム地区の犯罪の多発に手を焼いた政府は、行政区を壁で区切り、治安悪化地域の隔離分離を図った。その中でも最悪のブロックがB13 地区であり、学校、病院、そして警察ですら機能しなくなっていた。
そんなある日、フランス軍が開発した新型爆弾が暴漢の手によって略奪され、B13 地区へと持ち去られた。24 時間以内に解除コードを入力しなければ数百万人の命が奪われてしまう。
暴力が支配する無法地帯に潜入し目標を回収するという極限ミッションに任命されたのは、凄腕の潜入捜査官ダミアン(シリル・ラファエリ)。そしてガイド役として選ばれたのがB13 地区を知り尽くす地元民で、ワケ有りで投獄中だったレイト(ダヴィッド・ベル)。"ミッション・インポッシブル"に挑むペアは、個性の強さから早々にいがみ合うのだが…


原案・脚本がリュック・ベッソン(やっぱり)、演出は撮影畑出身のピエール・モレル監督で、企画発案から製作終了までわずか10ヶ月で製作されたという、予算17億円強と伝えられる肉体派フレンチ・アクション。


スタント出身の主人公二人がCGI なしで魅せる技の数々は流石の切れ味。ビルのベランダや階段、屋上をまるでジャングル・ジムのように飛び移る冒頭のシーンからスクリーンに目が釘付けになりました。


お話は例によってお馬鹿で矛盾もちらほら見えますが、適度なメッセージ性も求心力もちゃんとあって、ここ数年のベッソン作品の中では一・二の出来ではないでしょうか?


荒廃した未来、暴力が支配した街に己の肉体で生き残る、というと、なんとなく北斗の拳(ってか元ネタのマッド・マックスか?)っぽいですが、冷静に考えると元ネタはきっとスネークことカート・ラッセルが活躍する「エスケープ・フロム・xxx 」シリーズなのでしょう。脱線しますが、風の噂によると、NY編が大ヒットし続編のLA編 が製作されるにあたって、カート・ラッセルは「だって皆オレを見に来るんだからさ」と大幅な出演料アップでゴネて大変だったらしい。そんなこんなで、80年90年代を境に、製作会社側はフランチャイズ(続編)化を
見越して、第1作目を作る場合に「もし万が一ヒットして続編を作る場合になった時には出演料はxxx」という条件を付けて役者さんと契約するようになったらしい。(「スパイダーマン 」では、腰が痛いと我侭を言うトビー・マグワイアに対し「だったら2作目はジェイク・ギレンホールに変えるぞ」と SONY 側が脅したらしい。ま、雰囲気はなんとなく似てるっちゃ似てますが)


考えてみると、昔はヒットした1作目から続編を作る場合主役の役者を挿げ替える作品が多く見られました。でも最近は大体同じ役者さんが2作目、3作目にも出てくるのが普通になりました(最近、ヴィン・ディーゼル→アイス・キューブと変わった「xXx 」という例もありますけどね)


米国配給は弱小のマグノリア・ピクチャーで、公開スクリーン枚数もさほど多くなさそうだし、興行成績はちと苦戦しそうです。日本では邦題「アルティメット 」として、秋口に公開になるようですが、この手のすかっとする軽快アクションは最近あまり目にしないので、けっこうヒットするんじゃないかなぁ…

IMDb: Banlieue 13
Official Site: Magnolia Pictures

The District 13

ブルック(ジェニファー・アニストン)とゲイリー(ヴィンス・ヴォーン)は付き合って2年になるカップル。ブルックはアート・ギャラリーに勤める家庭的な女性で、やんちゃなゲイリーは家族で経営するシカゴ・ツアー・バスの花形ガイド。ある夜、ふとしたきっかけでこじれた二人の関係はちょっとやっかいな事に。お互い相手が先に謝るまで、と頑張るうちにズルズルと悪い方へ。後に引けず、かといって共同所有するマンションには二人のローンが残っており、出て行くに出て行けない。そんな二人は、互いに意固地になり張り合うのだが…


ヴィンス・ヴォーンが原案を考え、暖めた企画をペイトン・リード監督が演出。「Wedding Crashers 」の大ヒットによって、ベン・スティラー/オーウェン・ウィルソンらと絡むコメディが注目を集めているヴィンスがまたまた注目を集めているロマンティック・コメディー。一方彼は、この夏に日本公開を控えた「サムサッカー 」に代表されるような真面目な小作品にも多く出演しており、考えてみれば彼のメジャー・デビューとなった「スウィンガーズ 」も、メイン・ストリームとは微妙に違うテイストがありました。その頃からたびたび競演している曲者役者の一人、ジョン・ファヴローも本作に顔を出していますが(ずいぶん太りました)、バーで交わす狂気じみた二人のやり取りには多いに笑わせてもらいました。


ヴィンス・ボーンとジェニファー・アニストン、ブラピとアンジェリーナ・ジョリーの二組のカップルを略して "Vaughniston/Brangelina" (ヴォーニストン/ブランジェリーナ)などと呼ぶそうで、芸能ゴシップからも注目を集めている本作品、自分が見に行った回の混雑具合はなかなかだったし、第1週でまずまずの観客を動員することは間違いないでしょう。ただ、2週目以降の失速も予感できるような気がします…


客の一部にはTV「フレンズ 」での、レイチェル(演じたのはもちろんアニストン嬢)&ロスのようなキュートでドタバタした恋愛コメディを期待しているんでしょうが、本作はもうちょっと大人の苦さが入っている部分があり、TVラブコメほど甘くはありません。
またヴィンス・ヴォーンの真面目な顔の中に見せる錯乱した目の光を楽しみにしている客も多いと想像されます。が、彼自信が原案から膨らましてきた事による弊害なのか、ジェニファーの演じるヒロインの書き込みは厚みがあるのに、一方彼の演じる男主人公は今一つ描写が淡く、キャラクターの立ちがあまありよろしくありません。


脚本の整理が足りないのか、演出の技巧が追いついていないのか、少し物足りないサブ・プロットも多く、「チェイシング・エイミー 」や「ビッグ・ダディ 」のジョーイ・ローレン・アダムスの使い方なども、かなりもったいない気が。またサブ・キャラを演じる役者さんもやや層の薄さが目に付きました。


夏のシカゴを舞台にしたラブコメと言うと、ジュリア・ロバーツ&キャメロン・ディアスの「ベスト・フレンズ・ウェディング 」を思い出しますが(野球やボート遊覧、テーブルで合唱など、被っている小道具も多い)、個人的には本作より"…ウェディング"の方が総・合・的には出来が良かったかなぁ、とも思ったりしました。


期待の入れ方を間違うとあまり楽しめなさそうな作品でもありますが、真面目にしっとりと仕上がっていて、ヴィンスやアニストンのファンなら映画館まで足を運んでも損はしない作品だと思いました。


IMDb: The Break-Up
Official Site: Universal Pictures

The Break-Up

カリフォルニア州立大学バークレー校に通うダン(スコット・メチョロウィック)は、世界クラスの体操選手で将来が有望視されていた。次期オリンピックに向けて調整に余念がない彼は、チーム・メイトもうらやむもどの才能に恵まれていた。学業成績も良く、クールなルックスの彼は学校中の女の子をひきつけており、何一つ困らない学園生活を送っていた。
一見幸せそうに見える彼だったが実は自分の心の底に小さな穴を感じており、ある寝付けない夜、偶然立ち寄ったガソリンスタンドで、初老の男(ニック・ノルティ)の不可解な言動になぜか心を惹かれてしまう。そんな彼は、不慮のバイク事故を起こし、右足を複雑骨折してしまうのだが…


ダン・ミルマンの自伝小説「癒しの旅―ピースフル・ウォリアー」をベースにして、ケヴィン・バーンハートが脚色し、なぜか「ジーパーズ・クリーパーズ 」シリーズのヴィクター・サルヴァ監督が演出した、哲学的スポーツ・ムービー。


出演者の中で一番のビック・ネームであるニック・ノルティですが、相変わらずの存在感で、良くも悪くも期待通りの演技。


眉毛が印象的な主役のスコット・メチョロウィック君、どこかで見たことあるなぁ、とずっと思っていたら、そうそう、「ユーロトリップ 」で友人、弟、元カノなどにイジメられまくっていた(役名)スコット君ではないですか。それほど売れている役者さんではないように思いますが、そう言えばもうすぐ日本公開になる「さよなら、僕らの夏 」(原題"Mean Creek")にも顔を出していました。


出演時間はあまり長くないヒロイン役のジョーイには、売れ方がイマイチ微妙なエイミー・スマート譲。最近はごく細い配給だった「Just Friends 」や「Bigger Than the Sky 」などの極弱小映画への出演が記憶に新しく先行きにやや不安を感じなくもないですが、自分のお気に入り映画「ラットレース 」や「バタフライ・エフェクト 」に出ていたせいか、以前からなんとなく応援している女優さんだったりします。


普通の青春スポーツ映画のようでいて、ちょっぴり哲学っぽかったりするのが本作の特徴。120 分、といささかゆったりした編集のわりには、ヒロインの描き方がえらく中途半端だったり脚本上の練りの足りなさが少し目に付きました。
配給は今やすっかりメジャー・マイナー(マイナー・メジャー)のライオンズ・ゲートですが、これがディズニーだったら PG-13 を無理やり PG にしてより低年齢層の間口を広げ、難しい精神論はきっぱり切って、単純明快さわやかな90分のスポーツ物に仕立ててるんだろうなぁ、なんて事を思ったり。


体操と言えば、「チアーズ! 」の脚本でメジャー入りしたジェシカ・ベンディンガー女史の初監督作品「Stick It 」が最近公開されたばかり。ちゃんとそれらしく見える役者さんを連れてくるのはひどく大変そうに思うのですが、その辺に無理を感じさせない所にハリウッドの役者の層の厚さがうがかえるような気がしました。


米国公開は明日から。日本で…劇場にかかるかな、コレ?


IMDb: Peaceful Warrior
Official Site: Lionsgate

Peaceful Warrior

--The man who said "I'd rather be lucky than good" saw deeply into life. People are often afraid to realize how much of an impact luck plays. There are moments in a tennis match where the ball hits the top of the net, and for a split second, remains in mid-air. With a litte luck, the ball goes over, and you win. Or maybe it doesn't, and you lose. (「有能な人より幸運な人になりたい」と言った男は人生を深く理解している。人は、巡り合わせがいかに重要な役目を持っているのかに気づくのを恐れている。テニスの試合で、ボールがネットの縁に当たり、空中に浮く瞬間がある。ほんの少しの運があれば、ボールは向こうに落ち、試合に勝てる。もし運がなければ、試合に負ける) -- 劇中 クリス・ウィルトンの台詞から引用


元テニス・トーナメント・プロのクリス(ジョナサン・リース・マイヤーズ)は、アイルランドからロンドンに出てきたばかりの若者。家賃の高さに驚くものの、すぐに会員制高級テニス・クラブのコーチの職を見つけ都会生活をスタートさせる。そこで意気投合し友達になったのは、ハンサムで気のいい生徒のトム(マシュー・グッド)。礼儀正しくハンサムなスポーツマンのクリスを、トムの妹クロエ(エミリー・モーティマー)はひどく気に入り、やがて二人は恋仲となる。彼女の強い勧めもあって、やがてクリスはテニスから足を洗い、彼女の父親アレック(ブライアン・コックス)の会社で職を得る。勤勉なクリスは金融の世界でも才能を伸ばし始め、その前途は洋々かと思われた。が、そんな矢先、彼はトムの婚約者ノーラ(スカーレット・ヨハンソン)と出会う。将来を約束したクロエの存在がありながら、クリスは売れないアメリカ人女優の卵ノーラのの妖艶な魅力に惹かれて行くのだが…


ウディ・アレンの第40回監督作品となる本作、例によってシニカルで神経質で気弱な主人公がNYCアッパー・イースト・サイドで繰り広げる色恋沙汰のドタバタ、ではなく、イギリスロケのスリラー・ドラマ仕立てで、イギリス人キャストが主要キャラクターを占める、という異色の作品。上映時間も124分、と彼の作品の中で歴代一番の長さの作品だし、またここ19年間の21作品の中で、初めて米国市場で儲けが出た、という話も。
実際問題、内容を知らせずにいきなりこの作品を見せたら、ウディ・アレンの作品だと気づかない観客も居

るようにすら思えます。


主役のジョナサン・リース・マイヤーズは、欲におぼれ堕ちながらもどこかに冷静さを保つ複雑なキャラクターを好演。キャラクターにリアリティと深みを与える力強い演技力にすっかり見とれました。本作を見たすぐ後に、アクション大作「Mission: Impossible III 」でも顔を見かけましたが、ハンサムで芝居もできる彼の今後の活躍が楽しみです。


ヒロイン?役のスカーレット・ヨハンソンは、相変わらず空気のコントロールが絶妙。あけすけで、甘ったれで、衝動的なノーラの感情のひだを、力を入れすぎずに演じているのに感心。本作、ウディはビジュアルに徹底的にこだわったとかで、彼女の登場シーンでも、ドレス3パターン、ヘアスタイル4パターンをとっかえひっかえで、アレでもないコレでもない、と試行錯誤の撮影だったとか。ところで彼女の名前、アメリカ人が発音すると"ジョハンソン"と聞こえるので、ずっと日本訳の誤りだと思っていたのですが、エミリー・モーティマーのインタビューでは"ヨハンソン"のように聞こえます。どちらが正解なんだか…


エミリー・モーティマーは、「Lovely & Amazing 」(邦題が探せなかったのですが未公開でしょうか?)や「猟人日記 」など、なぜかキワどい役が最近多いかなぁ、という印象もあったのですが、よく考えてみたら「Dear フランキー 」や「ハウルの動く城」の吹き替え声優など、健全な映画にも結構でている事に気づきました。ま、良く考えなくてもそうなんですけど。


ふりかえって考えてみると、本作は「運が人生に関与する大きさ」を大げさに描いてみせる事が主テーマとなっていて、そう括ってしまうといつものウディ作品と同じに聞こえてしまいます。が、シリアスで緊張感が保たれるプレゼンテーションの出来の良さに、いつものウディ作品とは大きく違う観劇の満足度が生まれているのは確か。

スリリングで甘美な大人のエンターテイメントのテイストがありながら、最後の最後でウディらしい、うっちゃったアイロニーのまとめ方がアクセントとして効いていて、久々に大満足して映画館を出てこられた作品となりました。

恋愛、裏切り、殺人、と古典戯曲さながらの重いモチーフを使いながらも、理屈っぽくなく、こじつけ臭くもない、スムースに淀みなく物語が流れる今風の作品で、ウディ・アレンが嫌い・苦手、という層にもぜひ見てもらいたい佳作だと思いました。


邦題は「マッチポイント」で、日本公開は2006/夏の予定だそうです。

IMDb: Match Point
Official Site: DreamWorks

Match Point

夢遊病の娘シャロンの症状悪化に悩んだ母親ローズ(ラダ・ミッチェル)は、娘が悪夢にうなされしばしば口にする地名「サイレント・ヒル」に治療の鍵があるに違いないと考え、娘を乗せウエスト・バージニア州へと車を走らせる。
高速道路から外れた人里離れた小さな炭鉱町は、13年前に大火事で完全に封鎖され、立ち入りが禁止されていた。白バイに乗った女性警官シビル(ローリー・ホールデン)を振り切り、猛スピードで車を走らせるローズだったが、霧の中でハンドル操作を誤り路肩に転落し気絶。気が付けば、娘のシャロンの姿はなく、ゴーストタウンと化したサイレント・ヒルに一人取り残されていたのだが…


ご存知、コナミのプレステ用ゲームの映画化で、オリジナルのゲーム製作者の中から山岡晃氏の名前もクレジットされていたりもします。演出は「ジェヴォーダンの獣 」でフレンチ・アクションに独特のセンスを加えて見せた クリストフ・ガンズ監督。
ほぼ出ずっぱりで、表世界と裏世界を行ったり来たりしながら、ひたすら理不尽に
嫌な目に会うことになる女主人公のローズ役に「マイ・ボディガード 」や「メリンダとメリンダ 」のラダ・ミッチェル女史(監督の希望本命はキャメロン・ディアスだったそう)。
一方、ショーン・ビーン(「フライトプラン 」や「ロード・オブ・ザ・リング 」)が演じる、父親のクリストファーの出番は少なめ。なんでも当初の脚本には父親がまったく登場しなかったために、書き直しになったそう(ゲーム版での父親が娘を探すという設定が、何ゆえ映画では母親が娘を探す、に変更されていたのかは、良くわかりませんでしたが)。


さて、本作を見て感心させられたのは、良く練られたビジュアル・スタイルのセンスの良さでして、特にサイレンと共に行ったり来たりを繰り返す表世界と裏世界の差異がとてもよろしい具合にツボにハマりました。こりゃーすげー、と素直に納得するスタニングなビジュアル・エフェクトがてんこ盛り。これ見た後に、焼肉は食べたく無くなること請け合い。


で、お話を楽しめたかというと、なんだか一方的な「なすすべの無さ感」に押し切られた感じで、今一つ腑に落ちないような印象も。
ひるがえって考えるに、このモヤモヤ感、いわゆるコンピュータ・ゲームと、小説・戯曲・映画脚本の違いに起因するような気もしてきます。
この手のゲームは、キャラクタの動きを操作し、一人称でアクションを起こせる(あるいは遠隔ナビゲートできる)し、またマルチ・エンディング等、流れの分岐の選択を受け手に与えています。一方、本や映画は決まった道筋から外れることなく頭から最後まで流れるわけで、自ずと物語進行に不自然さや強引さ、作為性を隠すテクニックが使われるわけです。
この作品は、ひどくまじめにゲームを映画に起こそうとするあまり、ゲームの文体をそのまま映画に持ち込んでいて、その部分はやっぱり映画として評価すると厳しい物になってくる、というような事なんでしょうか?


近年、人気ゲームの映画化という企画はちらほら目にしますが、なかなか良作にめぐり合えないフラストレーションもあります(ま、アメコミの映画化だって当たりはごく一部ですけど)。この作品のような、3D ゲームから実写映画への昇華をまじめに目指す、というアプローチももちろんありでしょうが、逆に実写映画にゲームの文法を持ち込んで、お手軽に安く作っちゃうという逃げ(最近の例では駄目ダメB級ホラー「Stay Alive 」など)もありかなぁ、とそんな事を考えました。


いろんな意味でまじめに作り過ぎかも、と感じた作品で、例えばこの手の映画で127分はないだろう、と突っ込みたくもなったり(若者向けのホラーなら普通は100分程度まで刈り込むんじゃ?)。予算50億で、全米46億ちょっと、の興行成績は、商売的には失敗作、と分類されるのでしょう。

今後注目したいのは、UFO エンディングのようなぶっ飛び代替エンディングがDVDに収録されるか? と、日本に凱旋帰国上映してどれだけ成績を残せるか? という点だったりします。
邦題は「サイレントヒル」で、7月8日より、丸の内ピカデリー2ほかにて全国ロードショー公開だそうです。


IMDb: Silent Hill
Official Site: Sony Pictures

Silent Hill

時は近未来、場所はアメリカ合衆国。突然変異の遺伝子 X-Factor を持ち、思春期になると超人的な能力を発揮し始める子供達の数は日増しに増え、ミュータントの存在による様々な軋轢は大きな社会現象
と化していた。
マグニート(イアン・マッケラン)らの強行なミュータント運動家が引き起こす衝突に対応するため、アメリカ政府は政府特別機関を設立。その後ろ盾を受け、科学者はX-Factor 遺伝子の働きを抑え、ミュータントを人間化する新薬の開発に成功する。「普通の人間になる治療」を始めた政府に対し、マグニートを筆頭とする一部のミュータント達は猛然と反発。厳重な警備に守られたアルカトラズ刑務所跡地の研究所を強襲しようと計画するのだが…


アメコミ映画化の成功例の先陣を切った、「X-Men」シリーズの最終章。第1作目は全世界で300億、2作目は400億の興行収入を記録し、Fox のドル箱となったフランチャイズ。メインの出演者は前作からの引き続きながら、監督は迷走していたWBの「スーパーマン・リターンズ 」(*米国公開予定6月30日、日本配給予定8月19日)に引き抜かれたブライアン・シンガーが降り、逆に同作品を降板になったブレット・ラトナーがこちらを引き継いだという。そんなせいもあってか、同性愛差別のモチーフを芯にドラマ性が強く出ていた1・2作と比べ、本作は娯楽アクション大作風の仕上がり。


人工中絶や、差別される側と差別する側が逆転する逆差別の構造など、掘り下げればぐっと面白くなりそうなサブ・プロットが多数散りばめられていながら、テンポ良すぎるカットで全部をうっちゃり、どんどん前に走る編集にはやや不満も(.…いくらティーン向けのアクションでも105分まで刈り込む必要もないんじゃなかと思う)。反面、アクション映画として見せ場の立たせ方、見得の切り方、はこの監督流でツボをちゃんと得ていて、第1週の全米興行収入120億という超大ヒットぶりも納得。


パトリック・スチュワートや、イアン・マッケラン(「ダ・ヴィンチ・コード 」みた直後にマグニート役を見るとかなり変)、ファムケ・ヤンセンやハリー・ベリー、ヒュー・ジャックマンなどなどおなじみの役者が勢ぞろい。
少し戸惑ったのは、全く新しいタイプのミュータントのリーチとして登場する天才子役のキャメロン・ブライト君。どの出演作をとってみても演技も雰囲気もすごくいい、のだけれど、近年似た役で映画に出すぎなんじゃないかと心配。 レベッカ・ローミンと競演もしていた「Godsend 」、皮肉の効いたインディの「Thank You for Smoking 」、ポール・ウォーカーの隣ん家の子を演じた「Running Scared 」、そしてミラ・ジョヴォヴィッチの近未来SF「Ultraviolet 」と、ここしばらく演じているキャラクターが被りまくりな気がするんですけど。


本作では、今まで映画版で未登場だったキャラクターも数多く登場。ちょっと驚いたのがビーストを演じたのがTVドラマ「フレイジャー 」で有名なケルシー・グラマーだった事。エンジェルを演じるのは、TVドラマ「Six Feet Under 」で根暗で内気な青年だったベン・フォスターで、これは当初ちょっと違和感ありかも。あと今回壁抜けが特技のキティ・プライドを演じたのは身長152cmのロリータ女優 エレン・ペイジだったのですが、問題作「Hard Candy 」でのとんでもない役が記憶に新しく、ちょっと背中?がむずむずしました。


160億円とも210億円とも伝えられる制作費ですが(媒体によって大きく異なる=ネット上で伝聞される数値は広告宣伝費込みか抜きかが不明瞭だったりもする)、フランチャイズ3部作を締めくくるスケールの大きさに満足。
FOXはウルヴァリンを主役にしたスピンオフを製作するとの噂ですが、さてどうなりますか。邦題は「X-MEN ファイナル ディシジョン」となり9月に公開予定だそうです。


IMDb: X-Men: The Last Stand

Official Site: Twentieth Century Fox


x3

ジェームズ(トム・ウィルキンソン)はトップクラスの弁護士として活躍し、平穏なアッパー・ミドルクラスの生活を楽しんできた。妻アン(エミリー・ワトソン)との間には子供を作らなかったが、平日はロンドンの都心近くのフラットで、週末は郊外の屋敷での生活を楽しんでいた。
そんなある日、屋敷のお手伝いの亭主が森でひき逃げされ死亡する。ジェームズは近郊に住むNY帰りの若者ビル(ルパート・エヴェレット)を疑い、妻アンに相談してみるが、彼女は彼の車には自分が乗っており、しかも事故は自分の運転中に起こったと告白するのだが…


ナイジェル・バルチンの小説「A Way Through the Woods」の原作を、「ゴスフォード・パーク 」の脚本のジュリアン・フェロウズが脚色・演出。原作は1951年に発表された際、「もしかして戻ってきてくれるかも? という期待から妻の浮気を許容する」というプロットが反響を呼んだそうですが、この原作をアンソニー・ホプキンスの元妻から薦められたフェロウズは、物語の骨格だけを借りて彼流にかなり自由に肉付けしたとのこと。


イギリス資本の映画ですが、メイン・キャラクターは米国の観客にも顔なじみのベテラン役者で固めた強力な布陣。情動に揺れ動かされる子無し主婦を演じるのが
ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ 」のエミリー・ワトソン、外国帰りで離婚直後の上流家庭のボンボンには
ベスト・フレンズ・ウェディング 」のルパート・エヴェレット、そして近年大型アクションからホラーまで出演
しまくっている濫作気味のトム・ウィルキンソンが「イン・ザ・ベッドルーム 」で見せたすばらしい演技力を久々に画面にぶつけてくれます。


この映画の面白い所は、犯罪ミステリーのような出だしで始まりながら、実は謎解きプロットはメイン・テーマではなく、大人の男女関係の機微を緻密に描く人間ドラマとして物語が展開されて行く構成にあると思います。プロット展開それ自身も十分に面白いのですが、物語の進行につれ描き出されていくキャラクターの内面が実に味わい深い。嘘が嘘を呼び、些細な決断の誤りが次の状況を悪化させていく「ファーゴ 」形式の転がる雪だるま的プロット展開の面白さに加え、社会環境学的な確かな観察眼による正確かつ濃厚な人間描写の豊かさが組み合わさって、ボリュームたっぷりの大人向けの映画に仕上がりっています。ジュリアン・フェロウズの初監督作品とのことですが、文句の付けようのない見事な演出でした。


誠実で真面目な男女二人がその誠実さゆえにすれ違い、穏やかで文化的な表層とは乖離した深層心理に含む人間性の暗さにスポットライトを当てた作品、ちょっとほろ苦く口当たりは決して甘くありませんが、秋の夜長にたまにはこの手の重めの作品に触れてみるのもいいんではないかな、と思ったりも。


上映時間 85 分というのが信じられないほど内容が詰まった衝撃的なほど見ごたえのある作品。久々の超お気に入り作品となりました。低予算文芸ドラマ作品が苦手でなかったらぜひ映画館で。


IMDb: Separate Lies
Official Site: Fox Searchlight


SepLie3

舞台は近未来。人類は火星の地下奥底から太古に滅び去った文明の跡を発見。しかし遺跡の発掘と解明を進める火星の移民ステーション内で緊急事態が発生する。異常が報告されロックアウトされた研究施設には、事態の収拾のためサージ(ザ・ロック)をトップにした軍の特別編成チームが直ちに派遣される。地球と火星とを結ぶワープ施設から現地に降り立った一行は、施設から実験データの回収を担当する研究員サマンサ(ロザムンド・パイク)と合流。彼女は、隊長が一目を置く凄腕のジョン(カール・アーバン)の妹だった。
状況調査とデータのバックアップを進める一行は、かつて見たことも無い奇怪な生物の襲撃を受ける。なんとかその場を持ちこたえた彼らだったが、忽然と消えた研究員達の足跡を探すうちに、恐ろしい事件の真相が明らかになっていく…


迷路の中を歩き回り、一人称視点で銃を乱射して敵を倒すというスタイルで一世を風靡した往年の PC ゲーム「DOOM」の実写映画版(こーゆーお馬鹿な企画を通すのは案の定 Universal Studios だった)。原案を書いたのは新人のデイヴ・キャラハンで、それをベテランのウィズリー・ストリックがブラッシュ・アップした物を、撮影監督として知られ「ロミオ・マスト・ダイ 」でメガホンを取ったアンジェイ・バートコウィアク監督が脚色。


キャスティングのネーム・バリューだけ聞くと、はこの手のキワモノ B 級映画にしては力の入った印象。でもカール・アーバンは「ロード・オブ・ザ・リング 」で見せた風格と気品は感じられず、ロザムンド・パイクも「007 ダイ・アナザー・デイ 」では輝いていたきらびやかさな華麗さは無し。そんな中で一人目立っていたのはプロレスラー→役者転向のザ・ロックの好演。やや整理不足の脚本のせいもあって、あまりキャラクターに芝居をさせる時間が無い作品でしたが、ロックの演じる沈着冷静な隊長は、プロット・ドリブンの作品の中で唯一感情移入ができるキャラクターに昇華していたと思います。


で、この作品、いろいろ考える所も無くは無いのですが、所詮はゲーム原作の"企画"物なわけで、見に来る観客の多くは、深い人間性を高尚に歌い上げるドラマを楽しみにしているわけはなく、どれだけエンターテイメントしてるか、という点のみが期待されているわけです。そういう視点に立って見ると、多少のわかり難さがあるものの、迷路で銃を乱射して怪物退治、というカタルシスは十分画面から伝わっていて、きちんと成功している作品なんだと思います(なので全米初登場1位も、まずまず納得)


また、「こういう現象からこの原因が推測できないなんて、あの登場人物達は SF 小説や SF 映画を見た事ないんだろうか?」と素朴と突っ込みたくなる気分もムラムラ沸きますが、神視点でキャラクターを操作するゲームの構造を模している、という説明に対しては無力な批判になっちゃうわけで。もっとも大傑作映画「スクリーム 」のように、自分達が典型的な SF アクションドラマに出演している事を自覚しているキャラクターが出演する SF アクション映画、ってのも企画としてはアリかな、とも思ったりしますが。


唯一なんだかなぁ、と思ったのは、物語設定のバックグラウンドが先日観たばかりの映画「serenity 」(バフィー・シリーズのジョス・ウェドンが手がけた TV シリーズ "Firefly" のスピンオフ) と丸写しコピーのようにほぼ同じだった事。こういう不幸な偶然ってのもあるんですねぇ。


100分きっかり、と決して長い尺ではありませんが、もう少しエピソードを刈り込んでメリハリとスピード感のある編集でも良かったかも。ゲームのエンディングに相当するラストは、絵も演出もよく出来ていて、盛り上がりは十分。終わりがスッパリ決まると、途中のいろいろも全部許せる気になってしまうのだ。
頭から尻まで、お約束の連続がお約束通りにつながる B 級アクション、素直に楽しんで観劇してきました。

気の合う友達同士で映画館に足を運んでも、レンタル待ちして家で楽しんでもいいんじゃないかと思います。 (-- Mac という日本人キャラクターが登場しますが、演じてるのは中国系の役者さんみたいでした… --)


IMDb: Doom
Official Site: Universal (←この配給会社、B 級製作のプロですな)


Doom

時は1980年代半ば、所はアメリカ北部のミネソタ州。ジョージィ(シャーリーズ・セロン)は暴力を振るう夫に見切りをつけ子供二人を連れて故郷へと戻る。しかし成人前に未婚で長男を出産した彼女の過去を、保守的な町も彼女の父親(リチャード・ジェンキンス)もまだ許してはいなかった。
知り合いのグローリー(フランシス・マクドーマンド)の口利きもあって、町の中心産業である鉄鉱石採掘現場で、鉱夫として働き家計を支える決意をするジョージィ。がそこは長年続く男社会に染まった職場で、彼女は執拗な嫌がらせを受けるのだったが…


カーラ・ビンハム著「Class Action: The Story of Lois Jenson and the Landmark Case That Changed Sexual Harassment Law」で描かれた米国初のセクハラ集団訴訟を緩やかにベースにし、マイケル・サイツマンが脚色、「クジラの島の少女 」のニキ・カーロ監督が演出した、ヒストリー・ドラマ。なるほど、考えてみると「クジラ…」も伝統に縛られた男尊女卑の仕来りと戦う無垢なガール・パワーっていう話でした。


出演は、シャーリーズ・セロンとフランシス・マクドーマンドというオスカー・コンビに、親友の夫役でショーン・ビーン、町に戻ってきた誠実な弁護士に ウディ・ハレルソン、厳格な父親が「Six Feet Under 」でもグルーミーで不機嫌な役だったリチャード・ジェンキンス、優しい母親はシシー・スペイセク、と豪華ケンラン。


本作品、今風の小細工や飾りを排しシンプルかつストレートに描かれ、物語のクライマックスを最後の法廷シーンへと盛り上げつつ組み立てたドラディッショナルな作り。126分という尺を飽きさせないパワーと明瞭なわかりやすさ、はカロー監督の持ち味なんでしょう。マイケル・サイツマンの脚色も、ウディ・ハレルソンの法廷パフォーマンスが物語のラストに繋がるギミック等、よくできていてとっても楽しめました。


一方で、あくまでわかりやすくクリスタル・クリアに描かれたお話の方向性は、いささか白黒はっきりし過ぎているきらいもあって、あんまり頭を使わせてくれないというほのかな不満もあったりします。
真面目な正確さを放棄するんだったら、「エリン・ブロコビッチ 」のようにエンターテイメントと割り切った切り口でもいいんじゃないかな、とも思ったりしました。


劇中に挿入される裁判シーンは、米国でセクハラの認知度を飛躍的に高めるきっかけとなった、クラレンス・トーマスと女性部下アニタ・ヒルの裁判の様子。あれから15年あまりが過ぎているわけで、世の中の常識の変わり具合と変わらなさ具合の両方に改めて驚いてみたりした観劇となりました。


制作費35億に対し、興行収入6億半ばで公開初週5位登場はややさびしい気もしますが、丁寧に作ってある良作で素直に面白かったと思いました。


IMDb: North Country
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