やがて初めて山頂らしきものが前方に見える場所に出る。振り返ると周囲の山々の眺望が得られたので、ここで後ろの二人を待った。全員が揃い急峻な山並みをしばし見ていると、先から白いヒゲを蓄え、一眼レフを抱えたソロの男性が降りてきて「いやー、藪がひどいねー、ひどい山だ。この先はもっと藪がひどくなるから」とボヤく。「じゃ、我々も覚悟して向かいます」と返し、彼が歩けるため狭い道の端に寄ったが、白ヒゲは動こうとしない。我々の先頭に立つ顧問と白ヒゲが沈黙のまま対峙して見つめ合うこと数分。顧問と白ヒゲがお互い一目惚れしているかのような時間がたった後、白ヒゲが「そこで写真を撮りたいのだけど…」と三番手の師匠を指さした。つまりは白ヒゲも我々が通り過ぎるのを待っていた訳だ。先頭の顧問は降ろしたリュックを手で持ち上げそのまま先に進むこととなった。

 

顧問とオレ、師匠と部長の二組に分かれて進む。部長撮影。

 

 

ようやく開けた場所に出た

 

 

ホツツジが群生していた

 

 

ホツツジと顧問。この場所で白ヒゲとすれ違う

 

 

あれが御神楽岳山頂か?!

 

 

師匠と部長が登ってきた

 

 

コメツツジも咲いていた

 


その後は確かに白ヒゲが言ったように、ひどく伸びたヤブを掻き分けながら進むと雨乞峠に出た。山頂が近くに見え、周囲の山々も美しく絶景である。

 

ここから尾根歩きとなるが藪はひどい。自分の背丈以上の雑草を掻き分け、一度下った後、最後の登りをする。山頂付近になって藪はなくなり、振り返ると先ほどの雨乞峰が見下ろせ、そこにはまだ師匠が立っていた。彼はいったい何をやっているんだ?

ようやく山頂に立つとひとり占めだった。ただ風はなく太陽が真上から照りつけ、より暑い。雲は多く北側方面は雲が山々を隠している。昨年登った本名御神楽はどれかなと探していたら、顧問が登ってきた。二人で写真を撮りあったり、山座同定板で南に見える山を確認したあと、二人とも熱い石の上に腰を下ろす。山頂でもアブが一匹うるさくまとわりついてきたが、かまわなかった。おもむろに顧問が「靴の中敷きを忘れてきた」と言う。彼が中敷きの無い靴で登っていたのを知って、驚くとともに無性におかしくなって大笑いしていたら、師匠と部長が登ってきた。部長が「おおー、山頂だー」と叫んで両手を天に高くかざした。そして彼の後ろを歩いてきた師匠が「山頂に恋した60才!」と彼の姿をたたえるのであった。

 

藪がひどくなる

 

 

雨乞峰に到着

 

 

行く先は山頂

 

 

一番藪がひどい所

 

 

最期のコルから見た山頂

 

 

山頂まですぐそこ

 

 

雨乞峰にはまだ師立っている

 

 

顧問が登ってきた

 

 

山頂で手を振るオレ。顧問撮影。ありがとう。

 

 

山頂

 

 

三角点にタッチ

 

 

山座同定板

 

 

山頂での集合写真

 


そんな師匠は大型リュックを降ろし、早速リュック漁りを始める。部長は「疲れたー」「眠い」と言って登頂の喜びもつかの間、体を横たえ目を閉じると「暑いなー」とぼやく。こんな時は雲が太陽を覆ってくれたほうが良いと、誠に勝手なことを言いつつランチタイムとなった。顧問、部長、師匠の三人はカップ麺にお湯を注ぐ。オレはひとりコンビニのざるそばをリュックから取り出し、水場から持ってきた冷水を、そばにかけてほぐした後ズズズと啜る。やはり夏場の里山はざるそばに限る。顧問達はそんなオレを見て「持ってくるものを間違えた」と言いつつアツアツのカップ麺をズ、ズ、ズと元気なく啜るのであった。我々が食べ終えたころ、一人の男性が草刈り機を持って山頂まで登ってきた。彼は山岳会の人で藪がひどいと言われたからと山に入り、雨乞峰と山頂の間の一番酷い部分を刈り払い始めた。こういう方のお陰で我々は安全に登山が出来る。感謝しかなかった。

 

ざるそばをすするオレとカップ麺が出来上がるのを待つ顧問。

部長撮影、ありがとう。

 

 

御神楽山山頂から本名御神楽を見下ろす

 


下山は師匠が先頭で降りる。しばらく進んだ後、藪のせいで山専ボトルを無くし、慌てふためく師匠だったが、直ぐに顧問が見つけてくれた。そんなゴタゴタのときオレが先頭に立った。今までの登山では下りでオレが一番遅く、師匠らに離されることが多いので、今回は少しでも彼らからアドバンテージを取り、置いて行かれないようにしようと思ったのだ。そんなに慌ててはいなかったが、自分のぺースで下る事ができて、自然と三人を引き離し大森山の広場まで来ることができた。

 

雨乞峰にたたずむ三人。部長撮影。ありがとう。

 

 

雨乞峰からの風景

 

三人が来たのを見届け再びフライングする。途中、山岳会の二人組が刈り払いしていて御礼を言って通り過ぎる。上の水場に来て涼しんでいると時間を置かず師匠達が来る。ここからいつもの定位置の最後尾を歩く。途中先頭の師匠が立ち止まってタオルや帽子を絞りだし、後ろの三人がそれを見守っていることがあり、動きが停滞した。ここがチャンスと再び先頭を奪い下るが、途中で両内転筋が攣ってしまい、下の水場の沢にはビッケで到着する。こんな日は本当に水場がありがたい。冷たい沢水で顔を洗い喉を潤す。交代で水場を譲り合う。さぁそろそろ行こうかとした頃、部長が一人沢の中に手を入れて変な動きをしている。聞くとメガネを落としたという。ここで全員で部長のメガネの大捜索がはじまった。全員近眼なのでメガネの必要性は痛いほど分かる。顧問の指揮で部長、オレは紛失現場の徹底調査、師匠は沢の下流部に下り、流れたものの徹底調査。「かかれ!」の顧問の合図で沢の中に手を突っ込む。痛さに変わるほどの冷たさに「ヒー!」と叫ぶと顧問が「こら、何をサボっている!奴隷だから俺たちの10倍働け!」と怒鳴り散らす顧問は、岩の上に腰を降ろしている。「分かりました!」と答えて再び沢の底を手探りで掻き回す。メガネのツルのようなものが手に当たり「ありました」とそれを水から出すと細い木の枝だった。すかさず何もしていない顧問の激が飛ぶ。「ぬかよろこびさせんじゃねえ」と言って煙草を取り出し咥える顧問。下流の師匠が「上流で水を濁らせるので何も見えません」と叫ぶと、顧問がオレに「濁らさず探せ」と無理難題を言って煙草をふかし始めた。結局30分くらい探して、無くした本人の部長自身が石の下に潜っていたメガネを発見した。皆から拍手喝采を浴びる部長と、さも自分が見つけたかのような表情で誇らしげに振る舞いオニヤンマ君を撫でる顧問であった。この水場から登山口までは30分〜40 分といったところであろうか、速度を増し歩く師匠たちに付いていけず、結局いつもの通り一人寂しく登山口まで歩くのであった。

 

結局いつもように自分が最後尾となる

 

 

部長が沢にメガネを落とした。このあと大捜索となる。

 

 

皆に遅れてやっとゴール。師匠撮影。ありがとう。

 

登山口にはアブはいなかった。部長が持って来たキンキンに冷えたノンアルで乾杯するととても旨かった。普段はいつも平然としている顧問は、中敷きのない靴で下ってきたものだから疲れの色が濃かった。

 

日帰り温泉施設「みかぐら荘」500円

 


その後、「みかぐら荘」で汗を流した。この日の温泉は最高だった。せっかくだからと津川の町食堂に入って早目の夕食でラーメンを食べることにした。お婆さん一人でやっている小さな食堂で、座敷席に座りラーメンを食べている途中で、部長がコップの水をこぼすなどのハプニングがあった。

その後、右ひじ付近をアブに数回かまれたようで、翌日から熱を持って腫れてしまった。

 

 

それでは最後に山頂からの風景を動画でどうぞ

 

 

                -完-