御神楽山 1,386m (新潟、福島)日本二百名山、東北百名山

 

 

花の「木曽駒ケ岳」に登ろうと思っていたが、2週続けて天気予報が悪く今年も断念した。その時タイムリーに職場の山岳同盟部長から、新潟の御神楽岳で登坂訓練を行うとの徴収礼状が届き、今年最初の山岳同盟4人全員での登山を行うことになった。

昨年のゴールデンウイークに会津の本名御神楽まで山岳同盟で登り、隣りにそびえる御神楽岳を見ながらランチをとったという、全員が思い出ある山で、日本二百名山でもある。さらに東北百名山の完登を目指すオレにとっては、未踏の東北百名山で、こんなラッキーなことはなかった。

 

8月4日、道の駅猪苗代で全員集合し部長の運転で磐越道に乗った。上空は曇り空だが天気予報は晴れだった。この夏、磐梯山のマイナールート二本を歩いた部長と顧問、鳥海山を弾丸登山した師匠、船形山に登ったオレがそれぞれ意気揚々と鼻の穴を膨らませ、「御神楽岳はどんな山だろうね」「二百名山だから、きっと素晴らしいよ」「11時間コースもあるようだよ。そっちを登りたいな」など話しながら盛り上がり、途中イノシシの大家族と出くわしつつ、和やかな車内の中、津川インターで降り室谷登山口までスムーズであった。
室谷登山口に着くと一斉にアブの大群が車の周りを取り囲んた。車外に出るのを躊躇したがいつまで経ってもらちが明かない。「こういう時こそ奴隷の出番だ」と部長にせかされ、オレが先頭を切って車外に出てダッシュで車から離れると、驚いたことに一匹もこちらに来ない。車を見ると部長の赤い車がアブ玉で茶色くなっている。車内からマジマジとオレの様子を見ていた部長ら三人はオレの普段通りの仕草を見て、ようやく車外に飛び出した。アブは車の排気ガスに集まってくるらしく、車のエンジンを切ると居なくなりどこかに消えた。準備に取り掛かると顧問がオニヤンマの模型「オニヤンマ君」を取り出した。「これで虫対策は万全だぞ」と言う顧問だが、オレには、どうもこの手の物は効果が怪しく思うのだが「さすが顧問、ありがとうございます」とヨイショすると、ニンマリとして帽子にオニヤンマ君を付ける顧問であった。そんな中いつも時間がかかる師匠が一番早く里山にふさわしくない大型リュックを背負って他三人を急かすのであった。登山口から一番近くに、部長のアブ車に対抗するかのように、沢山のシールがこれでもかと張られた先客の車があった。いろんな山のシールや「全国一周」などのシールもあることから、日本国中その車で巡っているのだろう。少なくともオレにはその派手さが苦手だった。

 

顧問が持って来たオニヤンマ君

 

 

ピンボケの集合写真。右から部長、顧問、師匠、オレ。

 


入山ししばらくは左手に沢を見ながら緩やかな斜面の道を進む。部長だけウチワを持ってきて仰ぎながら登っているが、それでも辛そうであった。ハルゼミかアブラゼミか声がリリリリとうるさい。樹林帯の中は風がソヨとも吹かず暑い。空気がまとわり付き30分もすれば上半身のシャツは汗でビッショリになる。木々の間から見える空は曇っていてまだ直射日光が当たらないだけマシかもしれないが、それでもモワッとする中の登山は苦しい。いつしか帽子、シャツ、ズボンの全てが靴下を除いて汗でビッショリになってしまった。まるで真夏にジョギングしているような汗の流れ方で、もちろんタオルや帽子を絞ればボトボトと水の様に汗が流れ落ちる。「こんな真夏にこの山を選んだのは誰だよ」「こんな遠くまで来てアブばかりの山は嫌だね」などと遠回しに部長を責める顧問と師匠。行きの車内の雰囲気がガラッと変わる。部長は「行くと言ったのてめぇだろうが、ちくしょう、バカヤロー、コノヤロー」とつぶやき、心なしか小さくなるのであった。いつもの彼なら力ずくで文句を言わせないのだが今回はどうしたのか後ろ姿がなぜか哀しく見えた。

 

いざ入山。濃い緑の中を進む。

 

 

いろんなキノコがあった。もう秋の様子。

 

 

しばらくは沢を見ながら進む。(ピンボケ)

 

 

尺取り虫と遊ぶ部長

 


第一の水場でようやく体をクーリングダウンして再び歩き始めると、また直ぐに汗が噴き出した。第二(最後)の水場では、粉末のポカリを入れてきた空のペットボトルに冷たい水を入れたり、タオルを洗ったり、まったりしているとオレの背中にアブがたかっていたようで、部長が持って来たウチワでアブを追い払ってくれた。あまりにいつもと違う部長の態度に逆に怖く、この時だけは寒くなった。そんな様子を見て顧問は「アブにはオニヤンマ君が見えないのかなー?頑張ってくれよ、オニヤンマ君」と言って帽子に付けたオニヤンマ君を愛おしそうに撫でるのであった。

 

第一の水場で顔を洗う顧問

 

 

ぶなの幹が痛々しい

 


それからも急登は続き徐々に足が止まる事が多くなってきた。業を煮やしたオレは3度目に小休止した時に、最後尾から一気に先頭に躍り出て三人を置いて自分のペースで登り始めた。本来なら部長が遅れまいと駆けてきてストックでオレの頭を叩くのだが、この日は最後尾になったまま静かに歩くのである。大森山近く、登山道がやや開けた場所に出て三人を待つことにした。ヤマップでは「展望台」となっているが全く展望は得られなかった。

 

「まだ、2時間40分もあるの?」

行きの車内では11時間コースを歩きたいと言っていた面々も、この日はこの標識を見てがっくりとなる。

 

 

先頭に躍り出て、振り返って撮った部長の姿

 

 

ヤマアジサイが所々咲いていた

 

 

第2(最後の)水場。水が冷たく気持ちいい。ここにもアブがいた。

 

 

急登が続く

 

 

キイチゴ。甘くてすっぱかった。

 

 

ヤマアジサイとトンボ

 

 

展望が得られない「展望台」

 

 

しばらく師匠の着替えが終わるのを待つ

 

 

三人は8分ほど遅れてやって来て、顧問はドカッと腰を降ろし「フー」と息を整え、静かな部長はその時も静かに僅かばかりの木陰を探して腰を降ろし、師匠は大型リュックを漁って着換えを始めた。散々待たされたオレは、今度は三人の中で比較的元気な顧問をせかし、足早に進んだ。自然と顧問とオレの二人組と、師匠と部長の二人組という形に分かれそれぞれのペースで歩いた。

 

 

              -後編につづく-