和食の知られざる世界 | 出力モード

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マーケティングホライズンへ寄稿した書評です。

和食の知られざる世界 (新潮新書)/新潮社

¥756
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「知られざる和食の世界」

旅行や仕事で海外を訪れる機会のある方にとって、
現地での和食レストランの存在感に驚きを感じることは
多いのではないだろうか。

ただし、大抵の場合は、「こんなにおいしくないのに、
こんなに高くて、それなのになんでこんなにお客が
来ているんだろう?」という深い疑問を抱くことになるのだが。

本書は、日本を代表する料理学校「辻調理師専門学校」の
2代目校長によるものだが、1970年代のイギリスに
留学していた著者にとって、当時の和食のマイナーぶり、
そしてまったく受け入れない悲しさを思い起こすと、
隔世の感があるようだ。それが今や、すしを筆頭に
世界中で「和食」は大人気となっているのだ。

著者はその立場から、「正統な和食」の普及を
推進してもおかしくないはずだが、むしろ主張はその逆だ。

世界に出て行く上では、現地に支持されるような「変換力」が
必要だと繰り返す。それは味覚や食材の話にとどまらず、
スタイルまでも含んでいる。

例として挙げているラーメン店の「一風堂」は、
日本国内ではラーメン専門店だが、
ニューヨークではバーカウンターで食前酒や前菜を楽しみ、
そして「メインディッシュ」としてラーメンを楽しむ
という総合レストランの形を取ったからこそ
大人気となっていると分析する
(ちなみに客単価は5,000円ほどになるらしい!)。

そしてこれから世界に向けて発信していくべきだと
提唱するのは、「プログレッシブ和食」である。

著者によれば、これは和食の食材や技術を生かしつつも、
果敢に新しい素材や手法も取り入れて、堂々と異文化の中で
勝負できる料理のことを指している。

すなわち、「なんちゃって和食」でも
「伝統に則っただけの和食」でもなく、
ベースはあくまで和食でありながらも、
それぞれの地で受け入れられる「進化した和食」こそが
求められていると論じている。 

こうした進化の必要性を、国内の和食料理人、
そして自らが経営する学校の講師達に対して、
しっかりと警鐘をならしていることは、
大変頼もしく感じられる。