TPPがおかしい。
本来、TPPは貿易、金融、医療、サービスなど、多くの分野での徹底した自由化だったはず。
TPP賛成派は、自由化によるGDPの向上が、最大のTPPの目的だと言っていた。

だが、日米の「自動車といくつかの農産物の関税は維持する」という合意で、その意義は完全に失われたように思える。

そもそも、米国の農業は、オーストラリアなどに比べると格段に小規模零細であり、米国のさとうきび農場は、TPPで壊滅するとも言われていた。
デトロイトの自動車工業の労働者もまた、TPPに強く反対していた。

アメリカは、日本をダシにすることで、自国の農業、工業をTPPから守りたかっただけなのだ。


また、TPPのような「協定」は、参加の是非よりその「中身」が大切なのに、肝心の中身は具体的に見えてこず、「自由化」という言葉だけが独り歩きしてきた現実がある。

そうであるからこそ、TPP賛成派も反対派も「白い物を黒く塗って、その黒さを批判する」ような我田引水の主張しかできず、全く議論はかみ合っていなかった。

そんな中で、今にして思えばよい主張をしていた先生を二人。

一人目はTPP反対派の急先鋒、中野剛志先生である。
先生の素晴らしいところは、「アメリカに不利な条件を飲まされる」ことを、現場感覚で予見していたところにある。

先の自動車と農産物でいえば、自動車の輸出額は11兆円。
かたやコメの総生産額は1兆円そこそこに過ぎない。
コメと自動車の両方を開放したとすれば、もしコメ農家が全滅したとしても、自動車輸出総額が10%増えるだけで、元はとれることになる。

これで日米両国は不満分子を抑え込めたかもしれないが、同時に日本は「貿易の自由化」という、TPPで得るはずであったメリットを、完全に失ってしまった。

1兆のために11兆を犠牲にする時点で、TPP交渉は何も日本にメリットを与えるものではないことは、明白である。
あとは、交渉が順調にいったとすれば、保険、金融などの分野をアメリカに吸い取られるだけ。
まさに中野先生の言う「ぼったくりバー」状態だ。

もう一人は賛成派の山下一仁先生。

この先生、著書をみれば、特に「TPP交渉での日本のアキレス腱」といわれる農業分野で、でたらめにも思えるプラス思考のことを書いておられる。

それだけ見れば、「ああ、この先生は農業の分野をご存じない」と失望するに違いない。
しかし、「農協の大罪」などの著書を出された山下先生が、農業現場の実情をご存じないわけはない。

むしろ、これをTPP交渉で日本が農業を「人質」に取られないための、高度な「交渉上の戦略」だと考えれば、全て合点がいく。

農業分野が日本の弱みであれば、他国はその「弱み」につけこんで、なるべく多くの有利な条件を日本から引き出そうとするはずである。

だから、あえて「農業分野は努力すれば大丈夫だし、海外に打って出る手もある。」として、日本農業を「弱点ではない。市場開放してもいいけど、お前らの方が危ないよ。」とフェイントをかましているのだと考えられる。
こうすることによって、農業分野をネタに日本が不利な条件を飲まされる可能性が減る。
他国が、日本の農業分野の底力を警戒するからだ。
なんと高度な交渉テクニックではないか?

このように反対派、賛成派とも、先見の明を持った方たちはいたのである。

最後に、TPPがどうなるか、独断で予想してみよう。
おそらく
新加盟交渉国、とくに米国のせいで、拡大交渉はとん挫するに違いない。
現加盟国と、貿易規模もメリットも折り合わないからだ。

次にやってくるのは日米FTAだろうが、それはTPP交渉とん挫の直後、3年後くらいではないかと思う。
その時は、比較優位に立つ米国の農業分野が、徹底的な農業市場の開放を要求してくるだろう。
ただ、米国には自動車産業というアキレス腱があるので、日本はそこを突いて農業市場の開放を拒む、という戦術に出るものと思われる。
両方を自由化したら、困るのは米国だ。

結局、米国としては、農業分野より、よほど儲かる金融、保険、医薬品などの分野に集中して日本市場を「開放」することで妥結するのだとみている。

結局、あれほど騒がれた農業分野は、現状が維持されてしまうと考える。
もしこれが正しければ、反対派も賛成派も、一体何のためにあれだけ騒いだのやら。
職業柄、TPPとかいうモノに付き合わざるを得ないのだが、どうも腑に落ちないことが多い。

そんな中でも不思議なことの一つが、TPP反対論者の中で最近特に目立つ、中野剛志先生だ。

この方は元来、経済産業省の官僚であり、今は出向で、大学で教鞭をとられている。
本来の職務からすれば、経済産業省が推し進めるTPP参加に賛成するのが自然だ。

だが、中野先生は、TPPに猛反対する。先生の主張は大筋、以下のようなものだ。

「日本はTPP交渉で米国主導のもと他国から孤立した立場に追い込まれる。結果、ひどい内容の協定締結を余儀なくされ、日本は壊滅的打撃を受ける。」

好意的に解釈すれば、各国間協議の交渉テーブルにも就いたことのある中野先生の、真摯で悲痛な訴えとみることもできよう。

だが、実際に配置転換などでTPP交渉の担当者になる可能性もある先生の主張には、裏があるのではないかと勘繰っている。

それは、中野先生がTPPに反対することで、彼自身の立場を保全する効果があると推測できるからだ。

・まず、日本がTPP交渉から脱退した場合(ケース1)。
 中野先生は、自分の主張の正当さが認められた、として嬉々とするだろう。

・次に、TPP交渉で、日本が不利な条件での締結を余儀なくされた場合(ケース2)。
 中野先生は、自分が主張していた通り、恐れていたことが起こった、として不快感は示されるだろうが、自分の主張に間違いはないので、ご自身の立場が危うくなるようなことはない。

・最後に、TPP交渉で、日本に有利な条件での締結ができた場合(ケース3)
 これは中野先生としては予期していない結果ではある。だが、先生の本来の立場(経済産業省現役官僚)の人間ががんばったからだ、彼らに敬意を表する、などと言っておけば、やはり先生が損をするとは思えない。

このように、自分が担当する可能性もあるTPPに反対するという、一見矛盾した行為は、実は中野先生の一流の保身術であるという、うがった考えもできる。

それに対し、正々堂々と、経済産業省の指針通りにTPP賛成を唱えた場合は、先ほどのケース1、ケース2の場合に、各所から袋叩きに遭う可能性がある。

ちなみに、賛成派の多数の先生は、研究機関所属、元官僚など、そもそもTPP交渉の現場から離れている、いわば第三者的な立場の方々である。

この方々は各国の貿易上の障壁を細かく指摘し、先ほどのケース3(日本に有利な協定締結)に持ち込む筋道はある、とされている。

それ自体は事実として正しいと思うのだが、先生方は決してご自身でTPP交渉の現場に向かわれることはない。

これらの先生は、ケース2(日本に不利な協定締結)になった場合は、「官僚が無能である」といって叩けばよい。
その意味では気楽なお立場だ。

このように「保身」をキーワードにしてTPP論争を見直すと、今までとは違った見方ができる・・・かもしれない。
最近「日本の食糧・エネルギー問題の解決には、
耕作放棄地の利用が必要」という論調が目立つ。

たかじん、という芸能人がホストを務める某番組で、
某農家出身だという教授がこんなことを言っていた。
 「イモをエネルギーとして利用するには、
  食用になるほど大きく育てる必要はない。
  そのために耕作放棄地等を利用すれば良い。」
 「(この論旨に賛同が少ないのは)学者が農家を
  やったことがないからだ。」

だが、この教授こそ、今現在農家をやっていないから、
耕作放棄地の現状を知らないのだと思う。

論より証拠。

まずは2008年10月に北海道で撮影した、
この写真を見てほしい。

井中 紋駄陽のブログ-北海道

車窓からの映像なので見づらいが、一面にススキが生えた荒地だ。
わずかに、畔の跡が、植生から確認できる。
これが耕作放棄地の実態である。

しかも、まだましな方だ。

同じ年の2月、高知県で撮影した耕作放棄地は、もっとひどい。

井中 紋駄陽のブログ-高知県

人がやっと歩ける小径の上は、元もと畑だ。
つまり、ここも立派な耕作放棄地なのだ。
私が全国で見かけた耕作放棄地には、
このくらい荒れてしまった土地も多かった。

ここまで木が生い茂ると、重機を使わなければ
利用可能な土地に戻すことは難しい。

さらに、このよう耕作放棄地の多くには、
重機が通れるような道は通じていない。


結局、耕作放棄地の多くはただの荒地・原野であり、
そこを利用する作業は「再耕作」というより「開墾」に近い。

つまり、耕作放棄地の再利用には、
荒地や山林を開墾するのと同じくらいの手間、
すなわち費用が掛かるのだ。

現在、すでに埼玉県とほぼ同じ面積の
耕作放棄地が発生しているという。

単純に昔は農地であったからという理由で
「耕作放棄地の利用を」という論理は、
机上の空論でしかない。

さらに、耕作放棄地にはもう一つ
ややこしい問題があるが、
続きは次のエントリーで。