寒い日でした。
東京オペラシティ 牛田智大ピアノリサイタル。
バレンタインデーということで、カップルのお客さんが多いかな?とも思いました。
客席はほぼ満席。
小さなお子さんからご年配の方々まで、老若男女。
牛田さんのファン層の広さが伺えます。
14時、リサイタルスタートです。
重い扉が開かれ、牛田さん登場。
白いシャツ、ベスト、赤いネクタイ。
髪は横をびっしりと流して
やさしい笑みをたたえて、舞台中央へ。
手には白いハンカチ(中には、ちいさなカイロ)
丁寧にお辞儀をされ、ハンカチをピアノに置き椅子に座られます。
では、以下また、音楽まじめに勉強してこなかった紅茶が
素人心と妄想で書く感想です。
(間違っていたら、指摘してください…。ほんと…(x_x;))
一曲目 モーツアルト ピアノソナタ11番、トルコ行進曲付き
今回のプログラム、楽曲を通じてさまざまなタイプの男性を描写したいとのことが書かれており
この曲には「甘えん坊だけど、やんちゃな男性」となっていました。
冒頭、私が、全ピアノ曲中でも1番とも思えるほど好きな主題。
柔らかく、優しい音が会場に鳴り響きます。
うっとりと耳を傾けた時、メロディーがリピートされました。
Σ(・ω・ノ)ノ!
牛田さんのこの曲、今まで愛知と金沢で聴かせていただきましたが
いつも、リピートはカット。短縮バージョンだったので、今回もそうだと思っていました。
とても、驚きました。
モーツアルトのソナタ11番の第一楽章は、変奏曲になっているためか、ずいぶん長いのです。
リピートカットは仕方ないよね~と思っていましたが、今回は全楽章フルバージョンです。
そして、この繰り返し部分が、今回素晴らしかったのです。
同じ部分を繰り返す時、やはり同じようには弾けません。そこが工夫のしどころとなるのですが
めださせるメロディーを変化させたり、強弱の差、強調する部分の違い、音色の変化、
とにかく、ありとあらゆる可能性を求めた末にたどり着いたかのような、
モーツアルトピアノソナタ11番の第一楽章。
特に第一楽章の第三変奏の素晴らしいこと。
全体に調和したテンポ、音色でありながら
マイナーの魅力が全開になっています。
モーツアルトって、メジャー(長調)の音楽が多いのですが、その中に密やかに入ってくる短調のメロディーや短調の和音がすばらしく美しいと思っています。
そして、モーツアルトのマイナー(短調)の曲は、とにかく、あまりにも美しい!!
その美しいモーツアルトのマイナーの魅力が今回の演奏では本当にすんばらしくて。
くりかえしの時に響きわたった、ベースラインのメロディーの美しさは、感涙ものでした。
今まで聴いた、牛田さんのモーツアルトソナタ11番の中では、今回の演奏が一番、好きでした。
甘えん坊だけどやんちゃ…。あのはずむようなリズムが、きらめくような旋律が、少し甘めのフレーズが
そうだったのかしら。
小さな頃の牛田さんの姿を想像しながら聴いてしまいました。
二曲目 プロコフィエフ 戦争ソナタ7番
プログラムによれば「おしゃべりだけれど謎めいた男性」となっています。
牛田さんは、ロシア音楽が似合うと思います。ロシア音楽になった時、音にものすごく納得しちゃうのです。
プロコフィエフ、最近私もいろいろ勉強したんです(笑)プロコフィエフの書かれた自伝や短編集を読んでみたり。
その中で、プロコフエフのかわいらしさ、キュートな部分、やさしさ、いたずらっ子な部分を感じることができました。その上で、牛田さんの弾かれるプロコフエフを聴きますと。
うんうん。
第一楽章なんて、本当に一生懸命おしゃべりしているみたいな音楽に聴こえてきました。
で、少し憂いがあるんです。影のある男といいますか。
二楽章の哀しみの音楽になると、影はいっそう深みを増してきます。そして三楽章の激しさへ。
情熱とパワーがさく裂するかのような音楽。
ああ、ほんとに、いいなって。
おしゃべりで、激しく、影のある、ロマンティックな男性が見えるようでした。
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚* 休憩 ☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*
三曲目 ベートーヴェン 「トルコ行進曲」
こういう選曲が、なんだかバレンタインデーって感じがします!冒頭にモーツアルトのトルコ行進曲
後半の冒頭に、ベートーヴェンのトルコ行進曲
二つのトルコ行進曲が出あうバレンタインデー。
まるで、引き離された恋人が出会うようにも
二人の男性が一人の女性の愛を争っているようにも感じられる、ちょっとした遊び心。
トルコ風のマーチの味付けが、モーツアルトのトルコ行進曲と少しちがって
もう少しダイナミックに、もう少し男性的に表現されているように感じました。
でも、やっぱり同じトルコ風のマーチが、ずんずん、と響きます。
トルコの太鼓。トルコのマーチが聴こえてきそうです。
四曲目 ベートーヴェン 「エリーゼのために」
この選曲もバレンタインデー特別感があります。甘い甘い旋律。
この曲は男性の女性に対する愛情を垣間見るような曲だなって思います。
男性って、誰かを愛する時に、愛おしいと同時に、不思議な激しさ、荒々しさを愛の中に秘めているように感じることがあります。(女性から見た偏見??)
そんな、甘さと、激しさをほんのすこ~しだけ(←深読み可)感じさせる演奏でした。
ベースラインの旋律を目立たせたり、(すごく素敵だった!!)主旋律のメロディーの音を取捨選択して抑えてみたり。
デビューCDとはまったく違う演奏に、牛田さん、大人になってゆくのだな…としみじみとしたので
ありました。
五曲目 ベートーヴェン ピアノソナタ「月光」
プログラムによれば「紳士的だけれどおこりっぽい男性」…?もしかして、ベートーヴェンのこと??
ベートーヴェンが不滅の恋人に贈った曲とも言われています。
第一楽章。
これも、とても好きな曲のひとつです。楽譜を読んだ時に、頭に広がるイメージってありませんか?
誰の弾いた音楽でもなくて、楽譜から、自分が広げる曲のイメージ。
たしか、初めてこの曲を弾いたのは、高校1年の春。15歳の時でした。
ゆっくりめのテンポで弾きはじめた私に、先生が「この曲をこのテンポで、15歳の今弾くのはやめなさい。それはね、もっと人生の酸いも甘いも噛み締めた後で弾くテンポだと思うわよ。人生のその時々に最適の表現というものがあるのではないかしら?」とおっしゃいました。
「それにね、あなたの今の表現力で、それは、無理」
そして「はい、テンポアップ」と(笑)
15歳の私が、月光の1楽章で表現したくて、何度もあがいて、どうしても表現できなくて、泣く泣くあきらめた曲が、「そうなの、こうやって弾きたかったのo(;△;)oでも、どうしても弾けなかったのo(;△;)o」と
そんな、とっても素晴らしい演奏になって、そこにありました。
ベースラインは控えめに。あくまでも旋律が主体となって。さざめくような音の連なりは、静かに均一な音で。
15歳の牛田さんの月光一楽章は、やっぱり若々しくて、瑞々しくて、枯れてなくて(笑)
若木が香るようでした。
あ、でも、牛田さんが、人生の酸いも甘いも噛み締めた後の演奏も、いつか聴いてみたいものです
:*:・( ̄∀ ̄)・:*:
第二楽章
これね~~。もうね、「月光」って一三楽章が強烈じゃないですか。その合間のこの二楽章。
続けて弾くと、気持ちが切り替えられなくて、ってことありません???(やっぱり私が下手だから?)
それが、もう、今回、本当に可憐でかわいくて、キュートな二楽章だったんです。
リストが「2つの深淵の間に咲く一輪の花」と言ったというこの二楽章。
本当に、美しく可憐に咲き誇る花のような演奏でした。すごく好きな演奏でした。
第三楽章
人気ありますよね~。月光の三楽章。冒頭、こっそりペダルどうしてるのかな?って見ていると、
ダンパーペダルは楽譜の指示通り。でも、ダンパーペダルを踏む前に、ソフトペダルを踏んでいるんです。
わあ。そこソフトペダルなんだ~~!それで、この音量を見事に調整しているんだ!!
凄いな…やっぱり。
思わず、ペダルさばきの見事さに、釘づけになってしまいました。
旋律の流れるところが、やっぱり良いです(≧▽≦)
最近、牛田さん、左手旋律の流れが美しくって、男前でカッコいいんですよね~。
弾き終わってから、丁寧にお辞儀をされて、ちょと笑みを浮かべて、頭をかきながらはけていかれました。
六曲目
ラフマニノフ ピアノソナタ2番
プログラムによれば「情熱的だけれど繊細な男性」
今回のプログラム。すべて「○○だけれど○○な男性」で統一されていました。
○○だけれど実は○○。こういうのって、けっこう女心をくすぐるんですが、それをすでに心得ていらっしゃるのでしょうか?
私、今回確信いたしました。牛田さんの弾くラフマニノフが大好きです。
もちろん、ショパンもリスト好きですが(いや、シューベルトも、モーツアルトも好きですが)
牛田さんのラフマニノフは、本当に、たまらなく大好きです。
このラフマニノフのソナタ2番、今まで3度聴いて、3度とも泣きそうになるくらい感動しました。
というか、毎回泣いてます。周りのお客さんドンビキです。
音が、魂からまっすぐに伸びているような感じで。
それが、がつん、と胸の奥にまで響いてくるんです。
もちろん、旋律の工夫とか、音の作り方とか、そんな技術的な素晴らしさが底辺にあるのです。
ソプラノ、アルト、テナー、バス、いや、もうそれ以上の声部があるのではないかと思うような
旋律の絡み合い。一人で交響曲を弾いているかのような重厚感。
変化する音色、多彩な表現、もちろん、全てが素晴らしいのです。
でも、それ以上に、
音楽そのものの持つ熱のようなものとか、ふるえるような魂の叫びとか
ゆらめく幻影とか、
ううううんと。
金沢で、牛田さんのラフマニノフソナタ2番を聴いたときに、ロシア文学を思い出しました。
ドストエフスキー。
ロシア文学の情熱、ロシア文学のリズム、ロシア文学の哀しさ、ロシア文学の愛
大地から生まれた人の生、人生の賛歌、情熱的な愛、そして苦しむことさえも賛歌する。
ロシアの歌。
それらを、牛田さんの音楽から、びしびしと感じるのです。
ロシアの先生に習っていらっしゃるから、ロシア語を習得されていらっしゃるから
もちろんそれらもあると思うのですが
この音楽は、凄い。
最後には、こんな単純な言葉になってしまいます。
牛田さんご本人の望まれるままにされることを一番に望んでいますが
お願いできることがあるのなら
この今のラフマニノフのソナタ2番は、是非録音していただきたい。
この世に残してほしい。
そう、思ってしまいました。
あ、いや、本当はね、モーツアルトのソナタ11番も、プロコの戦争ソナタ7番もCDに入れてくださったら
嬉しいんですけど。
あんまり、わがまま言ったらいけないな~と思っているんです。うん。
今回、感想…長いな~。
やっとアンコールです。
挨拶をされて出てゆかれる牛田さんに
ご婦人が、花束を渡されました。
アンコールの時には、その花束はピアノの上に。
ショパン、ノクターン9-2
なんと、今回ショパンなしプログラムだったんですよね。
ここまできて、ついに聞けるショパン。
音色がショパン。優しくて、やわらかくて、愛情に満ちた牛田さんのショパンの音色でした。
ニノロータ「ロミオとジュリエット」より愛のテーマ
ここにきても、愛がテーマです。本当に今日はバレンタインの愛情たっぷりのリサイタル。
優しい天使のような響きです。
最後は、バタジェフスカ「乙女の祈り」
恋に恋する乙女。神に愛する人の幸せを祈るかのような清純な乙女。
花束を、音楽の美しい花束を抱えた乙女の姿が見えるようでした。
丁寧に胸に手をあててお辞儀をされて
舞台から去ってゆかれた牛田さん。
舞台ピアノ下に、ちいさな白い使い捨てカイロを残されて。
(劇場の方が回収されていました)
牛田智大さん、
ありがとうございました。
以下すご~く個人的なことですので、感想の方はここまでで(笑)
親の看病をしていると、時々本当に泣きたくなります。
両親が、苦しくてのたうちまわっていてる姿は
40歳過ぎていたって、けっこう傍にいて見ててキツイです。
特に、病状が進んできた今となっては
これが終わる時は、「死」でしかないってわかっていると。
毎日がんばって笑っているけれど。
時々くじけそうになります。
でも、こうやって、リサイタルで音楽を聴けて
本当に、すっきりと、心の洗濯ができました。
そして、今回は、たくさんのファン智さん達ともお逢いして
いろいろお話もできて、すごく幸せでした。
毎日少しづつ砂や土を飲みこんで
ちょっとづつ窒息しそうになっていたのを、きれいさっぱりできたみたいで。
また、頑張ってゆけます。
3月の川崎も行けるといいな。
どうぞ、神様、行けますように。