別冊少年マガジン9月号で諫山創さんの『進撃の巨人』第72話「奪還作戦の夜」を読みました!

別冊少年マガジン 2015年9月号 [2015年8月8日発売] [雑誌]
講談社


単行本17巻が発行され、9月号は例によって2話掲載で単行本の続きが読めるようになっています。そして今月は4ヶ月に一度のスピンオフ祭り。「進撃の巨人」スピンオフが、いつも掲載されている『巨人中学校』が2話掲載されているとともに、シリウスからの出張掲載で「Before the fall」が、そして今月からの連載として「Lost Girls」が掲載されています。

「Lost Girls」は同名のスピンオフ小説、アニとミカサの二人のキャラクターを主人公にした二つの話ですが、もともとはDVD・BDの初回特典としてビジュアル小説の形でついていたものですね。アニ編は6巻、ミカサ編は3巻の特典でした。今回始まるのはアニ編の方で、私はアニ編の方が面白かったので、興味深く読めました。

ちょっとスピンオフが多すぎなんじゃないかという気はしなくはないですが、原作も大詰めに来ていて、今のうちに沢山出したいという感じがあるのかな、とは思います。

さて、本編。以下内容に触れつつ感想を書きますので、どうぞ本誌の方をお読みいただいてから読んでいただけるとと思います。

71話で話を聞いてきた、前調査兵団団長、シャーディスの話の内容を元に、エルヴィンを交えて調査兵団の幹部が話し合っています。エルヴィン、リヴァイ、ハンジ以外の4人は見たことがないメンツではあります。

議題はやはりまず、エレンの父グリシャ・イェーガーは「壁の外から来た人間」である可能性が高い、という話。リヴァイだけはなぜか壁際で一人離れて座っています。ゴルゴ13じゃないんだから、とは思いますが。

しかし、グリシャ自身は既に死んでいるわけですが、議題の中心はやはり「イェーガー家の地下室」なのですね。巨人化の能力を持っていたということもあり、グリシャは壁の外から来た人間だと思われる。しかしアニやライナーやベルトルトとは違い、壁内人類に協力的で、調査兵団にも関心を持ち、人類の誇りだ、とまで言っていた。そしてウォールマリアが突破された瞬間、壁の中の王政の本体であるレイス家の元へ急行してレイス家を皆殺しにし、「始祖の巨人」の力を奪ったわけですね。

それだけの覚悟と、人類に対する意識を持ったグリシャが、「全てはそこにある」と言った地下室、「そこにはいったい何があると思う?」とハンジはいいます。エルヴィンは「初代レイス王が消してしまった世界の記憶、だと思いたいが、ここで考えたところでわかるわけがない」といいます。

ウォールマリア奪還作戦は2日後に決行、地下室に何があるのか知りたければ見に行けばいい、それが調査兵団だろ?とエルヴィンは今まで見せたこともないような不敵な笑みを浮かべます。そしてハンジたち幹部も笑みを漏らすのですね。

ここでガヤに入り、今日くらいは肉を食ってもいいよな、とかシャーディスが実はハンジの憧れの人だったとか、いろいろ語られています。ハンジと言えば「巨人好き」というイメージがあるわけですが、シャーディスもなんか共通要素があるのでしょうか。

そして、一人残ったリヴァイがエルヴィンに尋ねます。「ウォールマリアを奪還したあとはどうする?」と。この問いは少し謎めいています。エルヴィンは脅威の排除(つまりライナーたちのことでしょう)が必要だ、というのですが、その脅威の正体も地下室に答えがあるだろう、と言います。だから、「地下室に行ったあとに考えよう」と。

しかしリヴァイが聞きたかったこと、言いたかったことはそれだけではないようです。片腕になってしまったエルヴィンは、現場の指揮を執るべきでない、とリヴァイはいいます。しかしエルヴィンは、それを拒否します。議論を建前論で乗り切ろうとするエルヴィンにリヴァイは、「これ以上建前を使うならお前の両脚の骨を折る」とあくまで手負いのエルヴィンは壁外に行くな、作戦を立てることに専念した方が人類の為だ、というのですが、エルヴィンははっきりと「この世の真実が明らかになる瞬間には、私が立ち会わなければならない」と言います。エルヴィンの夢というのは、多分そのことと関係があるのでしょうね。

それに対しリヴァイは、「それが、てめえの脚より、人類の勝利より大事か?」と尋ねるのですが、エルヴィンははっきり「ああ」と答えます。それを聞いてリヴァイは、「お前の判断を信じよう」と引き下がるのでした。

この場面の緊迫感は凄いです。

「人類の勝利より重要」・・・

それはちょっと、並の決意ではない、と言うか、つまり人類の勝利なんて単純なものでは、この話は終わらない、とエルヴィンが考えている、ということを意味しているのでしょうね。

リヴァイも、「人類の勝利のためには、手負いのエルヴィンは大事を取ってこの作戦に参加しない方がいい」と考えていたわけですが、エルヴィンはもっと先まで考えている、ということを確認して、その判断を尊重することにしたわけです。

最初に、ウォールマリア奪還後にやるべきことについて聞いたのは、多分そのことを意味していたんだろうなと思います。それを考えると、一体地下室の謎とはなんなのか、さらに気になってきてしまいますね。

そして、その日の夕食は、まあ、壮行会ですね。民間人には悟られないように、肉を食べて景気付け。でも普段、そんないいものを食べつけていない調査兵団の面々は、乾杯もそこそこに肉に食らいつき、いい大人が肉の厚さをめぐってケンカになりかけたり、正気を失った(笑)サシャは肉のかたまりを独り占めして食らいついています。コニーが「やめてくれサシャ・・・オレはお前を殺したくねえんだ」と首を締めて落とそうとしている時のサシャの表情は明らかにイッていて、サシャからようやく肉を奪い取ったジャンの手にサシャが無意識に食らいついています。梅図かずお的な過剰というか、これは17巻嘘予告の「ラーメン激戦区」に共通するものがありますね。

憲兵団からやってきたマルロはそれを見て「調査兵団は肉も食えなかったのか。不憫だな」と余裕をブッこいていますが、無意識のサシャのパンチがマルロの顔面に炸裂するのが可笑しくて仕方ありません。マルロは鼻血ブーになりますが、同じくパンチをみぞおちに決められたミカサは全く動揺していません。(笑)ハンジたちは「負傷者が出てるぞ」とか「二ヶ月分の食費をつぎ込んだのがよくなかったようです」とか言いながら、自分たちはとにかくムシャムシャ食っています。この辺の描写はさすがフード理論の大家、諫山先生という感じです。(笑)

一方、ようやくサシャを柱に括り付けて大人しくさせたコニーは、エレンに「こんなヤツでも肉を分け与えようとしていたんだよな」と言います。そう、それは、あのトロスト区に突然超大型巨人が現れた日。つまり第1巻ですね。上巻の食糧庫から肉を奪ってきたサシャが、みんなで食べようと言ったあの日のことです。そしてその超大型巨人の正体が、同期のベルトルトだった。そこまでエレンは思い出す。ボーっとしてしまったコニーに、アレからまだ3ヶ月か、と言います。

日数をきちんとカウントしていないからわからないのですが、トロスト区攻防戦から女型の巨人が現れた壁外調査まで1ヶ月くらいありましたし、その数日後にストヘス区での女型の捕獲、すぐに獣の巨人による壁内での巨人の大発生があり、またすぐにライナーたちが正体を現してエレンを連れ去る事件があって、壁内に戻ってきたあと、今度は王政との攻防戦。これがどれくらい続いたか。そしてクーデター成功後、「牛飼いの女王様」になったヒストリアの牧場で、たしか2ヶ月くらいたった、という描写があった気がします。合計すると3ヶ月よりは少し長い気がしますが、長くても4ヶ月くらいでしょうか。

コニーは、「俺達あのリヴァイ班だ。スピード出世ってヤツだよな」と言うと、エレンは「お前は天才だからな」と返していて、なんか人間が出来てきたなこいつ、みたいな反応になってます。

しかし食卓での会話の中からジャンとエレンが久しぶりに言葉尻を捕らえていきり立ち、これもまた1巻以来でしょうか、つかみ合いのケンカになります。なかなか久しぶりですが、教官に怒られることにびくびくしながらケンカしてた訓練兵団の時代と違い、調査兵団の面々ははやし立てるだけで誰も止めようとしません。この中で、13巻の限定版特典OADについてきた「突然の来訪者」のネタ、ジャンが母親から「ジャン坊」と呼ばれている、というネタが炸裂したりしていました。

で、本人たちも誰かに止めて欲しがってるのに誰も止めに来ない、という状況の中、いきなりリヴァイがエレンに蹴りを一発、ジャンにもワンパンで一瞬で二人を沈めます。「お前ら全員はしゃぎ過ぎだ。もう寝ろ。あと掃除しろ」というリヴァイ。気を取り戻して猿ぐつわのまま脚をバタバタさせるサシャ。この展開も可笑しくてしょうがありませんでした。

それにしてもリヴァイ、肉食ってる描写がありませんでしたね。フード理論は貫徹しています。ハンジはいかにもムシャムシャ肉を食いそうですもんね。あ、そういえばエルヴィンがものを食べる描写もありませんでした。

エレンはアルミンに助け起こされ、ミカサと三人で夜の街角に座り込みます。「元気が戻ったね」というアルミン。やはりこの三人は、一番本音を言えるんですね。ちょっときまり悪そうなエレンと、微笑む二人。このあたりも一巻の描写のリフレインの感があります。

エレンは、教官に会って、おそらくは母が「この子はもう偉いんです。だってこの世に生まれてきてくれたんだから」と言ったという言葉を聞いて、何か思ったことがあったんですね。「楽になったよ。考えてもしょうがねえことばかり考えてた」と言います。ミカサやリヴァイのように強くないことを自分はダメだと思ってたけど、ひとりひとり違うからみんな力を合わせて大きな力に出来る、とエレンは言うのです。そして3人で、何となくシガンシナ区での昔のことを思い出すのですが、そこで目の前を歩いていた駐屯兵団の男が、三人ともハンネスさんだと錯覚してしまう、この場面がやはりちょっとうるっときました。

ウォールマリアを取り戻して、襲って来る敵を全部倒したら、また戻れるの?あの時に・・・と問うミカサ。ミカサはどんなに強くても、望みはそうなんですね。「戻すんだよ」というエレン。「でももう全部は帰って来ねえ・・・ツケを払ってもらわねえとな」というエレン。これはライナー、ベルトルトたちへの想いを言っているのでしょう。これはヒストリアに対しても言っていましたね。「とにかく巨人をぶっ殺す」と言っていたエレンが、今最も思っていることは、「ツケを払ってもらう」ということなんですね。

むしろそんなふうにある意味後ろ向きになってしまっているエレンに対して、アルミンは海の話をします。「壁の外にあるのは巨人だけじゃないよ。炎の水、氷の大地、砂の雪原、それを見に行くために調査兵団に入ったんだから」と。そんなことをすっかり忘れていたエレンに、アルミンは、「だから!まずは海を見に行こうよ!」と言います。この辺もちょっとうるっときますね。「炎の水、氷の大地、砂の雪原」と言えば、第1巻にでてきたアルミンの祖父が持っていたと言う「禁書」に載っていた壁外の地理ですが、私の中ではLinked Horizonのミニアルバム「自由への進撃」に収められていた「もしこの壁の中が一軒の家だとしたら」を思い出します。もちろん1巻のアルミンのセリフが元になっているわけですが。

先ほどからこの三人のいる場所の後ろに、一人の男が見えたのですが、ここでその男がリヴァイであったことがわかります。リヴァイは何を聞こうとしていたのでしょうか。アルミンが、「約束だからね!」というのに対し、エレンが「しょうがねえ」といい、ミカサが「また二人しか分からない話してる」とちょっと拗ねる。きっと、シガンシナ時代はそんな感じだったのでしょうね。

リヴァイに取って、エレンは「こいつは本物のバケモノだ」と評価する相手。そしてミカサは、同じアッカーマン一族だとわかった。でもこのことについてはそれ以来描写がありません。そして、壁外への前向きな方向付けを出来るアルミンの存在。なんだかんだ言って、リヴァイはこの三人を気にかけている、ということなのでしょうね。

本当に、宴会からここまでの場面、ほんわかする描写が続きました。

そしてその翌日、トロスト区の外側では、今日も巨人殺しの処刑台が稼働する中、日没の直前、巨人が動かない夜間を利用し、夜通し走り続けてシガンシナ区へ到達する、「ウォールマリア奪還作戦」が始まります。見送る兵団幹部、その中にはザックレー総統、ピクシス司令、そして憲兵団師団長のナイルもいます。出発する調査兵団幹部はエルヴィン、ハンジ、リヴァイ、それに今回初めてでてきた幹部たち。他の者が右手で「心臓を捧げよ!」の敬礼をする中、エルヴィンだけ左手で敬礼をしています。

調査兵団の部隊と馬たちが壁を越えて(トロスト区前門はまだ直っていないのですね)リフトで運び降ろされる中、フレーゲルを初めとする市民たちが「ハンジさああん」と叫んでいます。フレーゲルの右側にいるオッサンはよく見ると、アルミンに「今大変なことになってるんだよ」とハアハアしていたあのオッサンではないでしょうか。(笑)今気がつきました。

市民たちは、「ウォールマリアを取り返してくれええ!人類の未来を任せたぞおお!この街を救ってくれてありがとう!全員無事に帰ってきてくれよ!でも領土は取り戻してくれえ!」と口々に叫んでいます。リヴァイ班が疑われていたとき、飢えた老婆と赤ん坊の描写がありましたが、おそらくはその二人が笑顔で見送るのを見て、リヴァイも少し表情を崩します。

結局バレちゃった、というハンジですが、どうもそれはリーヴス商会から肉を取り寄せたからフレーゲルにバレてしまったということのようで、でもその市民たちの見送りに、コニーやジャン、サシャは「任せろろおお!」と叫んでいます。「これだけ調査兵団が歓迎されるのはいつ以来だ?」「私が知る限りでは初めてだ」というエルヴィンは、「うおおおおおおおおおお!」と雄叫びを上げます。そしてそれに、市民は歓呼で答えます。

ここはすごい!

いままで冷静さをどんな場面でも失わなかったエルヴィンが、これだけ高揚している。その熱が、凄く伝わってきます。

ついにはじまったウォールマリア奪還作戦。このエルヴィンの描写、そして出発したリヴァイたち。この場面は女型の巨人戦の時の壁外調査に出発する時のリヴァイの描写に重なっていますね。

・・・・・・

うーん。

うーん。

これだけ幸せな感じの描写が続くということは・・・

フラグ?

と思いますよね・・・

何のフラグか。

やはり、今までにない程の惨状が繰り広げられるのか。もっと想像を超えた何かが待っているのか。

まあ、今まででも十分惨状だったわけですが。

このあたり、エルヴィンのいう通り、「ここで考えていてもわかるわけがない」わけで、来月を待つしかないんですよね。

そして、最後のページは、沈み行く夕日を眺めている、シガンシナ区の外壁の上にテントを張って待ち構えている、ライナーとベルトルトの描写で終わりました。

もうなんというか、「これはフラグなんじゃないか?」という気がすることがありまくりで、いちいちカウントする気にもなりませんでした。

でもこれだけフラグをばらまくということは、実際に凄いことが起こるに決まっている。「進撃の巨人」は今まで、その期待を裏切ることはなかったですね。

それにしても、一巻からの総まとめ的な描写が多く、これからクライマックスに入る前に、一度全部整理しておきましょう的な感じがすごくして、その意味で第一楽章、第二楽章、第三楽章と終わり、これから最終第4楽章、もしくはコーダへ入って行く、と言う感じがすごくして、つまりは「大詰め」という雰囲気が非常に強く漂ってきました。

さて、来月は一体どんなことになるのか。

そういえばヒストリアは今月はでてきませんでした。見送りの兵団幹部の中にもいませんでしたね。まあそこにいてもなんか不自然ではありますが、ライナーの顔を見て思い出しました。

とにかく、来月を楽しみに待ちたいと思います!