別冊少年マガジン 2014年12月号 [2014年11月8日発売] [雑誌]
講談社


別冊少年マガジン12月号で諫山創さんの『進撃の巨人』第63話「鎖」を読みました!

今月号の表紙はアニメ絵の幼い日のエレン、ミカサ、アルミン。アニメ絵のみが別マガの表紙になったことは初めてだと思います。何というか本編の展開を考えると、いろいろ思うことがあります。

先月は衝撃的な展開でしたが、今月はそれにも増して衝撃的にストーリーが進んでいます。このまま一気に加速してこの「壁の中の世界」の謎の多くの部分が解かれて行くのではないかと思います。

そういう意味でストーリーについて感想を書くことはどうしても重要なネタバレについて触れざるを得ませんので、まだお読みでない方はどうぞご注意いただきたいと思います。

先月号の分までが12月9日に発売される単行本15巻の収録内容ですので、今回のストーリーは16巻の冒頭ということになります。また、通例どおりなら15巻から連続して読めるように、今月の内容も来月の別冊マガジンに掲載されますので、その辺りも考慮していただければと思います。

扉絵はクリスタ=ヒストリアの腹違いの姉・フリーダ。「進撃の巨人」は通常特に扉絵というのがない構成になっていますが、それでも最初のページにインパクトのある絵が来ることが多いです。今回は幼い頃のヒストリアの記憶の中に出て来る姉・フリーダの姿。とてもかわいいです。諫山さん、すごく絵がうまくなったなと実感させられる絵です。フリーダはエレンの記憶にも出てきていますので、エレンとも間接的に関わりがあるのではないかと思われるわけです。

フリーダの記憶。それは幼い自分=ヒストリアをかわいがってくれた姿。

前回のラスト、真の王・ロッド・レイス卿は、愛人に生ませた娘であるヒストリアと鎖で縛られたエレンの背中に触ることでエレンの「記憶」を蘇らせます。その記憶は、父・グリシャ・イェーガーのものでした。そして父から謎の注射を打たれることによって巨人化したエレンは、グリシャを食い殺し、それによって父の記憶を自分が受け継いだことを理解したのでした。

そして、エレンの背中に触ることで、ヒストリアもまた失われた記憶を取り戻した。その記憶の中にあったのがフリーダの姿だったのです。フリーダはレイス卿にも内緒でヒストリアに会いに行き、可愛がってくれていたのでした。

レイス卿はそのことを知らなかったのですが、ヒストリアの語る「記憶」によってそのことを悟ります。ヒストリアはフリーダとの記憶が、とても大事なものだったことも思い出したのです。

一方のエレン。エレンは、縛られていて口も塞がれているために、何を感じているのか、何を考えているのかは分からないのですが、蘇ったグリシャの記憶にショックを受け、そしてレイス家との関わりについて驚愕していることは間違いないでしょう。

ヒストリアはレイス卿に聞きます。「フリーダお姉さんは今どこにいるの?」と。エレンはその答えを知っています。どういう反応をしたらいいか分かりません。いや、反応のしようもないのですが。

レイス卿はヒストリアを抱きしめて言います。私の5人の子供、妻とフリーダも含めて、5年前ここで彼の父親グリシャ・イェーガーに殺されたのだと。

グリシャは何か、強硬に抗議しています。大切なものを失った、という様子です。一方、その抗議に対して、フリーダは家族を守ろうとしています。グリシャとフリーダは、何か特別の関係があったのかもしれません。以前、エレンの記憶に現れたフリーダはベッドルームで髪をとかすくつろいだ姿でしたから、グリシャは、おそらくは医者として、貴族の娘であるフリーダに、そこまで近づける関係であったのでしょう。

グリシャは巨人の力を持つものだった。「彼が何者なのかは分からないが」ここに来た目的はレイス家が持つある”力”を奪うこと、だとレイス卿は言います。

グリシャは自分の右手を何か千枚通しのようなもので突き刺して巨人化します。ここはすごい迫力です。

巨人か能力のある人間というのは今まではエレン以外はヒストリアが親しかったユミル、壁の外からやってきたと思われるアニ、ライナー、ベルトルトの4人でしたが、ここでエレンの父・グリシャまでが巨人化能力を持っていたことが明らかになります。そして、フリーダも右手を噛んで巨人化する。エレンはこのフリーダの巨人化の仕方を学んだ(?)ということになるわけですね。

フリーダの巨人化した姿は先月も出てきましたが、今月明らかになったグリシャの巨人化した姿と一対で見ると、実に素敵です。素敵、と言うと変ですが、何というか今までの巨人たちと違って、この巨人たちは本当に神々の姿のように見えるのですね。

「進撃の巨人」は北欧神話を元にしている、という説がありますが、ここに来て巨人たちは怖いとか生理的に拒絶感があるというよりは、そうした半ば神々しい姿として現れています。フリーダはアニの巨人化した女型の巨人よりも、さらにスタイルがよく上品で、嘘予告に描かれたクリスタの巨人化した姿を彷彿とさせます。グリシャ巨人は巨体でからだに幅があり、ヒゲと胸毛と髪の雰囲気も神々しく、ギリシャ神話の主神・ゼウスを思い出させます。(ギリシャとグリシャ…何か関係があるのでしょうか…)グリシャがこの物語の影の監督・演出家だったのではないかと、この絵をみて強く思いました。

レイス卿は続けます。「フリーダはすべての巨人の頂点に立つ存在、いわば無敵の力を持つ巨人だった。だがしかし、それを使いこなすにはまだ経験が足りなかったようだ。フリーダはその真価を発揮することなく、グリシャに喰われ力は奪われてしまった」と。

グリシャ巨人とフリーダ巨人の格闘シーンもすごいですが、詳細は書きません。いやあ、ここの絵は本当に痺れます。何というか諫山さん、もうすでに別の世界の絵描きになってしまったのではないか、という感があります。

ところで、フリーダが持っていた「無敵の力」というのは、もちろんエレンが持っている「座標の力」でしょう。巨人を操ることができる能力だと思います。それに習熟していなかったので、フリーダはグリシャを制御することができなかったのでしょう。

しかし、それだけが謎のすべてのなのか?と考えると、まだまだ先がある、奥が深そうではあるのですけどね。

しかしこういう謎解きの場面で、全然絵の緊張感が衰えることなく描き切れているというのは、本当にすごいなと思います。

グリシャはレイス家の一族を皆殺しにし、でもレイス卿だけは逃がしてしまいました。ヒストリアは、エレンの父がフリーダとその一族を殺したということを聞いてショックを受け、そしてエレンに対して恨みの感情を持ちます。しかし、エレンは微動だにしません。ショックは受けていますが、焦ってはいない。エレンが何を思い、何を考えているのか、この時点では一切分かりません。そして、この「分からない」感がすごいです。

さてそこに現れたのがアッカーマン隊長。対人制圧部隊の隊長ですが、人斬りケニーと呼ばれた男です。エレンとヒストリアを拉致してここに連れてきた張本人ですね。

前兵団が寝返ってクーデターは大成功、ここが見つかるのも時間の問題、さっさとやることを済ましてくれ、と言っています。

レイス卿はそのためには君を含む対人制圧部隊がここから離れることが必要だと言ったはずだ、と言います。「ケニー、君を信用しているぞ」と脅すような口調で言うレイス卿。「オレもだよ王様」と言いながら何やら不穏な表情をするケニー。ケニーは彼らのやり取りを聞いていたのでしょうか。そして何を思っているのでしょうか。

場面は変わり、ザックレー総統の王政幹部への拷問の場面。これが今回一番問題のシーンなのですが、これは少年誌に載せていいのかというレベルで、よくOKが出たなと思います。2ちゃんねるやまとめサイトでも一番議論と言うか言及の多かった描写です。具体的にどんな拷問なのかは書きませんが、「何かを成し遂げられる人は、大事なものを捨てられる人だ。人間を越えるものを凌ぐためには、人間性をも捨てられる人だ」というアルミンのセリフがありますけれども、もう相当人間性が捨て去られた人間という感じでザックレーは描写されています。

そしてピクシスはエルヴィンに話しかけます。王政幹部はみな、エルヴィンの仮説どおりの証言をしていると。つまり、レイス家は人類の記憶を都合よく改竄出来、彼らを含む一部の血族はそれに影響されない、という口ぶりだと言うのでした。それをべらべら喋るのも、レイスがエレンの持つ「叫び」の力=座標(でしょう)さえ手に入れれば、すぐに忘れさせられる、ということのようでした。

ザックレーの有様について、ピクシスは非常に残念に思っているわけですが、しかし薄々感づいていた、とエルヴィンに言います。これが人類を救うことになるなら、と思って協力していたピクシスにとっては、今のザックレーの有様は耐えられないものなのでしょう。

「いつか人は争いをやめるとか誰かが歌っておったが、それはいつじゃ?」とピクシスはエルヴィンに言います。エルヴィンは「人類が一人以下まで減れば、人同士の争いは不可能になります」といいます。……エルヴィンは、人類自体を滅ぼすこと、に対して何か意思があるのでしょうか。分かりません。まあ、エルヴィンという人間は一番分かりにくい人物ではありますが…

ピクシスはこの中では一番まともな存在なのですね。それだけに気の毒です。

そしてモブリットの「いつでも行けます」という報告を受けて、エルヴィンは調査兵団を指揮し、エレンとヒストリアを奪還するためにレイス領地礼拝堂を目指す、と号令をかけるのでした。

一方104期たちからなる新リヴァイ班。ケニーは自分よりも厄介だと思え、というリヴァイ。ケニーが「アッカーマン」姓だと言うことさえ昨日知った、というリヴァイなのですが、そのことについてミカサに尋ねると、ミカサは「生前の両親の話では父の姓・アッカーマン家は都市部で迫害を受けていたと聞きました」というのです。ミカサは両親の出会いについて語りますが、なぜ迫害されていたかは父も分からない、というのでした。

それを聞いたリヴァイは「お前…あるとき突然力に目覚めたような瞬間を経験したことがあるか」と尋ね
ます。エレンと二人で誘拐犯を殺した時、ミカサの力は目覚めたのですが、それを思い出してミカサは「あります」と答えます。

リヴァイは言います。「ケニーにもその瞬間があったそうだ」と。そして、「その瞬間が俺にもあった」というのでした。

ケニーはリヴァイのことを「リヴァイ・アッカーマン」と呼んでいましたが、リヴァイ自身はそのことはどうも知らないようです。この「アッカーマンの謎」もそろそろ明らかになりそうです。とにかく矢鱈めったら強い。ミカサの父が強盗に一撃で殺されたのですべての人がその能力を持ってるわけではないのではないか、とネットでは言われていたのですが、どうもミカサの父だけがその力が発言しなかった存在のようなのですね。

再び礼拝堂の地下。エレンは相変わらず縛られていて、ヒストリアはフリーダとの記憶に浸ります。そしてエレンを見上げて、恨みの目つきをします。そこにやってきたレイス卿は、あの注射器を取り出すのでした。エレンの記憶に、グリシャが自分に打ったあの注射について蘇ります。エレンはそれにより巨人化したのだということが、先月明らかにされたところでした。

エレンの顔に初めて汗が浮きます。レイス卿の意図に気づいたからです。レイス卿はヒストリアに言います。フリーダはまだ死んでいない。姉さんに会いたいか?と。

そう、レイス卿はヒストリアを巨人化させ、エレンを食い殺させてフリーダとグリシャとエレンの記憶、そして座標=叫びの力を手に入れようとしているのでした。

エレンは思い出します。グリシャがエレンに注射を打った時の言葉を。「母さんの仇はお前が討つんだ!」と。そしてエレンは心の中でつぶやきます。「分かった…」と。

鎖につながれたエレンの中で、何かが動き出します。エレンは「調査兵団になってとにかく巨人をぶっ殺したいです」とエルヴィンとリヴァイに言った時と同じ目です。そのことについてリヴァイは「コイツは巨人の力に関係なく、本物の化け物だ」と言っていました。

そう、エレンの中の「本物の化け物」が、ついに動き出したのでした。

エレンは完全に鎖にしばられた状態で、目に涙を浮かべ、その鎖を弾きちぎろうと「んんんんんん」と声を発します。

果たしてエレンは鎖をちぎれるのか。ちぎれずに巨人化したヒストリアに喰われることになるのか。あるいはとりあえず巨人化することはできて、ヒストリアと戦うことになるのか。もしそうならば、ヒストリアはエレンを食い殺さない限り、人間に戻ることはできません。

そんなことは絶対に阻止する、というのがエレンの意思なのでしょう。

そして母さんの仇を討つんだ、というグリシャの言葉で巨人たちを倒そうとしていた「自分の意志の真実」にも気がついたわけですね。仇、とは単純に巨人たちであるわけではなく、もっと大きなものだったわけです。

本当にすごい展開でした。

11月はアニメの劇場版も公開されますし、「進撃の巨人展」も開かれます。その中でこの原作の斜め上の展開は本当にすごい。アニメで描かれていた世界は遠い過去のような感じがします。

しかし今描かれているあたりが、この作品の本当の「毒」の部分なのだと思います。

展開は急を告げていますが、これからどうなるのか、さらに楽しみになってきました!