進撃の巨人(1) (少年マガジンKC)
諫山創
講談社


別冊少年マガジン11月号で諫山創さんの『進撃の巨人』第62話「罪」を読みました!今回は衝撃の展開、プラス、ネタ満載という感じで、凄い感じになっていました!

61話で王都のフリッツ王政府を制圧することに成功した調査兵団団長・エルヴィン。彼は断罪され、死刑になるところを駐屯兵団のピクシス司令、憲兵団を含めて3つの兵団を指揮するザックレー総統らを味方に付け、クーデターに成功したのです。一方調査兵団分隊長・ハンジらの活躍でトロスト区はリーブス商会が押さえ、またベルク社の新聞が壁の中の全土に配られてフリッツ王政府の・実態が人々に明らかにされたのです。

第62話はここからです。

ここから先、かなり物語の核心的な内容と思われる部分についての感想も描いていますので、どうぞご注意をお願いします。すでにお読みの方は、以下謎解き的な考察(まあたいしたことはないんですが)もし、それについての感想をも書いておりますので、お楽しみいただける、とよいなあと思います。

まずクーデター成功の場面からです。エルヴィンのために用意された処刑台の上から、王都・行政区(壁の中の各地区ということでしょうね)を兵団組織が制圧し、現体制が崩壊したことが宣言されたのです。喋っているのは、主にザックレーのようです。

エルヴィンが馬車に乗り込もうとしている時、憲兵団師団長のナイルが新聞記者の取材を受けています。記者たちがクーデターの動機はフリッツ王政が体制の保身のために人類の大半を切り捨てる決断をしたことか、と尋ねると、ナイルはその通りですと答え、このクーデターの目的は兵団組織による壁の中の統治ではなく、「真の王」に先導者としての威厳と信頼を取り戻してもらうことだ、というのでした。ナイルは、「俺の変わり身も軽快なもんだ…」とちょっと自己嫌悪に陥っています。

新聞記者たちは、自分たちはベルク社の号外に元気づけられたが、民衆は王が偽物だったと言うことにショックを受けているし、貴族階級は自分たちの利権の行方に神経を尖らせている、もし真の王家が台頭したところで、今までフリッツ王家が果たして来た求心的な役割を同じように望めるだろうか、自分たちは何を信じていいのか分からなくなっている、と問うのでした。

体制の変換というものは、常にそう言う不安を伴いますよね。「正義が勝ったから未来はすべてバラ色」みたいなシンプルなことで行くはずはありません。そのあたりの感じ、いいなあと思います。

一方、馬車のなかでのエルヴィンとザックレーの会話。エルヴィンは自分のやったことを振り返り、人類を思えば元の王政にすべてを託すべきだった、と語ります。どんなにひどい状態であっても、とりあえず何とかしてきたフリッツ王政の方が、人類を滅亡させずに済んだのではないかと。ザックレーはいいます。「君の使命は相変わらず辛いな。死んだ方がはるかに楽に見える」と。

しかしザックレーは、エルヴィンに思いがけないことを言います。ザックレーは昔から、王政が気に食わなかったのだと。自分の生涯の趣味は、クーデターの準備だったのだと。「君も見たかっただろ?奴らの吠え面を!偽善者の末路を!…何せ何十年もの間奴らに屈辱を与える方法を考えていたのだからな!」

・・・・・・さすがにこれは引きました。(笑)ザックレーは7巻27話でアルミンが「何かを変えることができる人間は大事なものを捨てることができる人だ。化け物をも凌ぐ必要に迫られたら人間性をも捨てることができる人のことだ」と言っている例としてあげている三人のうちの一人(あと二人はピクシス司令とイワン、トロスト区攻防戦で自らを犠牲にして巨人化したエレンたちを守った駐屯兵団の団員)なのですが、人間性捨て過ぎ、という感じです。(笑)

さらにザックレーはいいます。「君らがやらなくても私がくたばる前にいっちょかましてやるつもりだったのだ。・・・私は途中で白旗を揚げるつもりは全くなかった。私はこの革命が人類に取っていいか悪いかなどには興味がない。」・・・凄いこと言いますね。でも軍人とか、こういう本音を持ってる人って少なからずいるんだろうなと思います。それを実行するかどうかはともかく。安穏とした場所で腐敗し切った権力者に反感を持っている軍人というのは二・二六事件の青年将校を始め、珍しくないわけですから。

そしてザックレーはエルヴィンにいいます。「しかしそれは君も同じだろ?」と。

そしてエルヴィンも、「・・・ええ。そのようです。」と答えます。

!!!!????笑・笑・笑・笑!!!???

「君の理由はなんだ?」と言われてエルヴィンは答えます。「私には夢があります。子供のころからの夢です」と。

・・・・・・うーん。相変わらずこの人たち、一筋縄では行きませんね。何重もの壁で囲まれて安穏に暮らしている腐敗した権力者の方が可愛く見えてきてしまいます。エルヴィンが「気持ち悪いやつ」だというのはリヴァイにもいわれていましたが、それは13巻51話でラガコ村の事件によって巨人の正体が人間だった、ということが判明してみなが戦慄しているときに、エルヴィン一人が目を輝かせて明るい顔をしていた場面でした。よくは分かりませんが、エルヴィンの本当の夢というのは、巨人の正体を知りたいということなのか、それとももっと大きく、この世界の本当の姿、本当の構造を知りたいということなのか、すくなくとも「人類を救う」ということではないのですね。

その数時間前、ハンジたちはベルク社の人たちに新聞を配布させ、彼らを避難させてから、マルロ・ヒッチと落ち合い、その途中でクーデター成功を知り、モブリットはそこから王都のエルヴィンへ何かを伝達に行ったようです。

一方、リヴァイたちと落ち合ったハンジは、エレンが「食われる」かもしれない可能性に付いて説明します。それが「巨人の力」を得るために必要な手段なのかもしれないと。これは巨人になる力というより14巻57話でハンジがエルヴィンに説明したように巨人化をコントロールする力、ということなのでしょう。

そして道中、ハンジはみなにエルヴィンから託されたレイス卿領地の調査報告書について説明します。レイス卿領地での調査の結果、5年前、つまりウォールマリア崩壊時にレイス家に起こった事件に付いて説明していたのです。レイス家には実は5人の子供がいて、特に一番上の娘・フリーダは誰からも好かれ、よく農地まで赴いて領民の労をねぎらっていたと。しかしウォールマリアが破壊された日の夜、村の礼拝堂が襲われ、その礼拝堂にいたレイス家全員が惨殺されてしまったのだと。そこにいなかった当主のロッド・レイスは無事だったのですが、その数日後ロッドはヒストリアに接触を図り、ヒストリアの母は殺されて、ヒストリアは開拓地おくりになった、というわけです。

ハンジは、礼拝堂が全壊したことに不審の念を持ちます。ここに巨人の力が働いたのではないか、と考えたわけです。理解したリヴァイは、その礼拝堂を目指す、と皆に命令します。

ここで、いろいろ思い出すことがありました。13巻54話でヒストリアの夢のなかに出てきた「お姉ちゃん」がおそらくレイス卿の長女フリーダだったのだろう、ということは推測ができました。しかしそれと対になって思い出される53話の謎の黒髪の女性がフリーダと同一人物であるかは分かりません。この女性の背後にはベッドが置かれ、髪をくしけずっています。こういう場面を見せるということは、かなり親密な関係だということになりますよね。

そんなことを考えながら読んでいると、みながハンジの話に聞き入っている中、一人だけ考え込んだ表情をしているアルミンが気になってきます。アルミンは思います。「巨人になれる人間を巨人が食べることによって巨人の能力が継承されるとしたら、エレンはいつどうやって巨人になり、誰を食べて能力を得たんだろう…」と。

これはかなり物語の核心に迫っていますよね。

一方のエレン。目が覚めるとそこは、広い洞窟の中のような場所。両手を鎖につながれ、飛び込み台のように突き出した岩の上に座らされています。周りはうっすらと光る壁。下にはヒストリアがいて、奥の方でロッド・レイスとケニー・アッカーマンが話をしています。この見開きがきれいです。

ヒストリアは突然、変なことを言い始めます。私のお父さん(レイス卿)はこれまでもこれからもこの壁に残された人類すべての味方なの。わたしたちには誤解があったんだよ、と。調査兵団を妨害したりニック司祭やリーブスたちを殺したのは彼らだけど、人類を思ってやらざるを得なかったことなのだ、と。そこにレイス卿がやってきて、「あとは私から説明しよう」というのです。

エレンは思います。ヒストリアはレイスに何を聞かされたのだろう、と。そして周囲を見てエレンは思います。「俺はここに来たことがある」と。しかしレイス卿はいいます。「君はここに来るのは初めてだぞ」と。驚くエレン。レイス卿はいいます。「だが、見覚えがあっても不思議ではない」と。

レイス卿はヒストリアにいいます。「彼はここで起きたことの記憶がどこかにある。わたしたちが彼に触れれば、彼は思い出すかもしれない」と。そして二人がエレンの肩甲骨に触れた刹那!

ここからは凄かったです。・・・・・・・・・

思えば担当編集者の川窪さんは、16巻あたりで「最も衝撃的な展開がある」ということを言っていました。それを楽しみに読んできたわけですが、この回は単行本でいえば15巻のラストに当たるのですね。ほぼその予告に近い回ですから、おそらくこの件かそれに連なる何かが「最も衝撃的な展開」なのではないかと思うのです。

エレンは、思い出します。レイス領の村の礼拝堂の風景を。そして地下に下る階段。そして今エレンたちがいる洞窟の風景。そこにいる、ロッド・レイスとその子供たち。エレンは思います。「これは・・・何だ・・・俺の見たものじゃない。違う!誰の記憶だ!」と。そこにいた、おそらくはフリーダがこちらを見て険しい目をし、巨人化したようです。その姿は、11巻の嘘予告でのヒストリアの巨人化した姿を思い起こさせます。そして右肩に食われたような痕・・・!!

そしておそらくはこの記憶の持ち主の手によって惨殺され、食われている人々。逃げるレイス。燃える礼拝堂、逃げる人々と兵士。

そしてなんと、あのエレンのアイデンティティのような「地下室の鍵」を握らせる手。目の前にいる幼い自分、注射器。叫ぶ自分。「この鍵!これは!まさか・・・」そして「自分」は巨人化し、子供の巨人が目の前にいる相手につかみかかります。そしてそれはエレン自身の記憶につながります。崩れ去った巨人の骨格の前で父の眼鏡と靴をつかみ、そして食われた父を見ているエレン自身の記憶に…

レイス卿はいいます。「どうだ?思い出したか?父親の罪を」と。

そしてアオリには「子は父を食べていた!!」と。

・・・・・・・・・

うーん。

これで62話は終わりです。15巻もここまでですね。

まさに衝撃の展開。そして多くの謎が明らかにされ、また新たな謎が提示されました。

おそらく、エレンの父は、レイス家の主治医のような立場にいたのですね。そして父自身が巨人化の能力を持っていた。だからエレンを巨人化させることもでき(その情報も持っていた)、また自分自身を食わせることによってエレンに「能力」を伝えたのだと。

1巻第3話でハンネスさんがグリシャのことを、シガンシナ区を襲った流行病の抗体を持って現れ、街を救ったと言っていますが、そんなことをできたのも権力の中枢に近いところにいたからだと考えれば納得できます。

しかしなぜ父・グリシャがレイス家を襲ったのかは分かりません。フリーダとグリシャの関係もただの患者と医者の関係なのか、それ以上の関係なのかも分かりません。

そして今気がついたのですが、礼拝堂が焼けている中逃げて行く人々をフォローする形でいたのは、憲兵団ではありません。調査兵団の腕章をつけています!そして、その顔は明らかに前調査兵団団長、そしてエレンたちの訓練兵団での教官だったキース・シャーディスなのですね!そしてキースは4巻16話でエレンが立体機動の適性検査に合格した時、「グリシャ…お前の息子が今日、兵士になったぞ」と思っている描写があるのですね。キースとグリシャの関係、そしてこの時の礼拝堂での出来事、一体どういう関係があるのでしょうか。

一気にいろいろなことが解けてきて、そしてさらに疑問が広がって行く。素晴らしい展開になったと思います。

今回の別マガ11月号ではその他にもいろいろネタがあって、「別マガ調査兵団SP」ではサシャは大食いなのではなく、食い意地が張っているだけだとか(笑・衝撃!)、104期でミカサと一番仲のいい女子はアルミンだとか(え!?ホントに!!?)とか、いろいろ衝撃の「事実?」が明かされました。特にアルミンが女子だというのは、ネタだとしか思えないのですが、もう諫山さんのことですから何がホントか良くわかりません。(笑)

それから巻末の作者の一言。「やっと巨人が描ける…」これもタマシイの叫びという感じです。(笑)今までずっと人間同士の争いでしたからね。今回はフリーダ?巨人、幼いエレン巨人と二体出てきましたし、礼拝堂の地下の風景とか超自然的な場面も出てきました。やはりそういうことを描いている時の方が、諫山さんの筆も生き生きとし、冴えているように思います。これから再び巨人が沢山出て来る展開になるのなら、またさらにパワーアップして行きそうですね。

ここまで、ネット上の情報を喉から手が出るほど見たい気持ちはあったのですが、見ずに書いています。何かまた気がつくことがあるかもしれません。そうするとまた感想の追加を書くことになるかもしれません。ネットではエレンはグリシャを食ったのではないかという予想は実は結構語られていたのですが、驚きました。しかし、当然ですけどネットの予想のさらに斜め上を行っている展開です。

今回は本当にたまりにたまったものが一気に噴出した、そんなカタルシスのある回になったのでした!