モーニング10号にふみふみこさんの読み切り、『君ならで誰にか見せむ』が掲載されています。

先週予告されていましたが、モーニング10号にふみふみこさんの短編、『君ならで誰にか見せむ』が掲載されました!『モーニング』初登場です。

私は『ぼくらのへんたい』の熱烈なファンなのですが、ふみさんの作品は商業出版されたものは全部持っていますし買うようにしています。まだそんなに多いわけではないですが。この作品は東京のどこかの中学校。セーラー服の女子中学生ばかりが描かれてますから、私立の女子高でしょうか。32ページ中、25ページまで女子中学生しか出て来ない、その世界設定自体がふみさんの世界だなと思います。グリーンのセーラー服も可愛いし、型にはめ込まれたものが自然に発するエロスのようなものを感じさせます。

月島、松木と名字でしか出て来ない二人の関係。主人公の松木は『ぼくらのへんたい』のまりかを思わせますし、月島はともちを感じさせます。まりかとともちは本当は男子ですが。

教室風景、サボって出かけた青梅線の、吉野梅郷のあたり。そこで起こった二人の秘め事。きれいな月島さんはともちとは逆に成長が遅れて少年のよう。それに振り回される松木さんも可愛い。

インタビューで読んだ内容によれば、ふみさんは奈良の人で、やはりこのマンガのようによく学校をさぼって電車でぐるぐる回ったりしたのだそうです。私も東京に出てきてからむしゃくしゃするときは、ただ山手線に乗ったままぐるぐると何周も回ったり、一番安い切符でJRを一番大回りして、渋谷ー原宿間の切符で八高線の中で小林よしのりさんのマンガを読んだりしたことを覚えています。青梅線沿線は何度か行ったことがありますし、そういう意味でも親近感がありました。

描かれている二人の女子中学生は教室でも浮いていて、学校がつまらなくて仕方がない。その二人の共通性が、二人だけの相手への特別感を持たせます。(もっとも、実際には片思いなのですが)

私も中学生時代というのは行き止まり感が強かったので、すごくこういう感じは分かるし、ある種の性的妄想とか関係妄想のようなものも、ずいぶん強かったことを覚えています。

神社や自然の描写が美しく、その中で邪気なく松木さんを振り回す月島さん。「教室では話しかけないでね」という言葉を真に受けて、卒業まで二度と口をきくことなく過ごす。「また今度二人でこようね」と言う約束を信じてずっと「梅干しの種」を持ち続けていたのですが・・・

高校にはいって久しぶりにばったりと出会った月島さんは、ともちではなくはっちになっていて、(『ぼくらのへんたい』の読者さんにしか分かりませんが)いわば普通の女の子になっていました。

松木さんはがっかりして、「梅干しの種」を捨てようとしますが、思いとどまってプランターに埋めてみると、なぜかゴーヤが生えてきました。(笑)

この辺り何が何だか、と最初読んだときは思ったのですが、人間って、そんなものかもしれません。梅干しの種だと信じていたものが、そんな風にしか見えなかったものが、成長してみたらゴーヤになって、うんざりするほど毎日ゴーヤ料理。子供の頃思ってるような大人になるってこと、なかなかないんだよな、と思います。

秘め事、の場面になるとさらに本領を発揮するのがふみふみこさんですが、この作品でも259ページあたりの表情はさすがだなと思います。

振り回す側のフリーダムと振り回される側の一途さ。でもどっちが幸せなのか、本当は分からないのかもしれない。

最初読んだときには、なんだか思いのほか『モーニング』っぽい感じになってるなあと(それがどういうことか上手くいえませんが)思ったのですが、感想を書こうと何度も読み返しているうちにどんどん「やはりふみふみこさんだなあ」と思えてきました。

表情の使い方が上手だし、エピソードのどことなくエロい話の使い方が上手い。世界の入り口にいる人と、中に入ってしまった人。

うん、そうなんだよなあ。中学生の頃あんなに可愛かったのに、って女の子いるよね!

と、ついそんなことを叫びたくなってしまうような、ふみふみこさんの好短編でした。

この作品は、2月13日発売の短編集、『恋につきもの』に収録されるそうです。また、楽しみが増えました。

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