宇宙家族ノベヤマ 1 (ビッグコミックス)/小学館
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岡崎二郎さんの『宇宙家族ノベヤマ』。『ビッグコミック』で2005年から2008年にかけて連載された作品です。単行本は全2巻で、2009年に描き下ろし部分を加えて完結しました。


この作品は、掲載が始まった頃はあまり面白いと思っていなかったのですが、連載を追って読んでいるうちにどんどん引き込まれて行きました。


エリートサラリーマンのノベヤマの家庭は崩壊寸前でした。特に娘の美里は反抗期で、父親とまともに口もききません。そんな状態のノベヤマ家は、ある日突然、息子が「メッセンジャー」という宇宙人と交流する能力を持っている存在であることを告げられ、政府の力で宇宙に送り出されることになったのです。ノベヤマはいろいろ考えた結果、家族の絆を取り戻すためにも、家族で宇宙に出発することを決めます。


このマンガは本当に飛び飛びにしか掲載されなかったので、足掛け4年連載されたのですが全16話しかありません。このマンガではとても深い問いが投げかけられているのですが、連載時は一つ一つの問いについて考えはするものの、問いの全体像が見えなくて、なんだか奇妙に浮いた感じがありました。


しかし、単行本が出て読み直してから、このマンガの重厚さに改めて圧倒されたました。このマンガがとても興味深い、深い内容のマンガだと言うことは、単行本になってから気付いたのです。


いろいろな、奇想天外な外見をした宇宙人たちが出てきて、人間とは何か、文明とは何かという問いが発せられ、それについて話し合うという設定がとても好きになりました。その「問い」は「ありがち」かもしれませんが、その答えは必ずしもありがちではありません。哲学的な問いに科学の言葉を使って答えようとするのは最近の傾向ですが、SFというジャンルではもっと以前から行われていたことなのですね。哲学では純粋に人文的な思惟によってその問題を解決しようとしますから、そこに私が最初は「ずらし」を感じたのだな、と思いました。


水木しげるさんが、自分のマンガの中にいろいろな妖怪を出して、妖怪という存在への親近感を表明しておられますが、それの延長線上のような感じもします。水木さんの妖怪も確かに親近感はあるのですが、私にとっては宇宙人のほうが説得力があるというか、読みたい感じがするなと思いました。


「惑星ルゴウフ」の「ラフクフラクフラ」とか、「惑星クリーガ」の「クササキリサ」とか、キーになる存在はがあって、「文明」とは何か、「平和」とは、「異文化理解」とは、という問いかけが宇宙人によって為されるという設定はよく考えているなあと思いました。単行本になってからは何度も読み返しています。


私にとって、これだけちゃんとした「ものを考える」系のSFは正直初めてでした。ストーリー設定、テーマ設定、どちらもとてもしっかりしていて読み応えがあるだけでなく、実際に現在の人類が抱えている問題に、深くコミットしていると思います。


「理解しあう」ということがどういうことなのか、ということについて考えさせられます。異星人との会話も、哲学と科学が入り混じったような会話で、子どものころ面白いと思っていたSFというのはまさにこういうものだったなと思いました。


「あなたたちは期待されている」


人類の代表であるノベヤマさんたちに、それぞれの宇宙人がそう告げます。新しく宇宙に進出した後輩種族である人類が、宇宙秩序が抱えている問題を解決してくれるのではないかと期待されているのです。


何度か読みなおしたときに気がついたのですが、メッセンジャー種族と期待されているのは地球人とのハイブリッドのセグロン人と、もうひとつはこの地球の海に棲むイルカだったのです。ラストシーンの意味が今までずっとわかってなかったのですが、もし地球人が期待通りの働きが出来なかったら、この地球の主がイルカに取って代わられる、ということなのかもしれません。もしそうだとすると手塚治虫の『鳥人大系』に似た話につながり得るわけですが。


なかなか難しいかもしれませんが、こういう作品が映画化されると、十分ハリウッド製の宇宙映画に対抗できるような、世界的な作品になると思います。今回読みなおして、改めてそんなことを思いました。