魔女の宅急便 [DVD]/ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント
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昨日書いた『耳をすませば』に続き、今日は『魔女の宅急便』について書いてみたいと思います。実写版も3月1日に公開になりますが、ここではもちろんスタジオジブリの宮崎駿作品について書いてみます。(こちら に書いたものをアレンジしたものです)


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レンタルで借りてきた『魔女の宅急便』を見始めたのは、深夜でした。主人公のキキが旅に出る出発の場面の、空に飛び上がってラジオをつけたら荒井由実さんの「ルージュの伝言」が流れたところで、もうころっとやられた感じでした。この曲の使い方がもう最高に上手い、かっこいいと思いました。


実は、この映画を見たときちょっと落ち込んでいて、この映画では主人公のキキがしょっちゅう落ち込むので、自分の精神状態も一緒に落ち込んでしまって、ときどき再生を止めながら見ていました。(笑)でも最後の方になるにつれて元気が出てきて、見終わった時には晴れ晴れした気持ちになりました。


この映画では、女の子の思春期の悩みが描かれているなあと思いました。特に、宮崎さんの他の作品に比べてリアリティがあると思ったのは、男の子や男性に対してキキの警戒心が表現されているところです。これは宮崎さんのほかの作品にはあまりないように思います。『となりのトトロ』でサツキがカンタに「男子なんて嫌い!」というところはありますが、あの年代の女の子の、自然な男子への反発がリアルだなあと思ったのです。キキがトンボと仲良くなった海岸の場面で、トンボの仲間たちがやってきたのを見てまたイヤな気持ちになってしまったり、そういうところに女の子の心理のリアルさを感じました。


気持ちの盛り上がりと落ち込みの繰り返しがこれだけ描かれているのは、宮崎さんの作品にはほかにないのではないでしょうか。私も落ち込んでいたので落ち込みっぱなしでは辛くなってしまうのですが、森に住んでる絵描きの少女・ウルスラがキキの家に訪ねてきてくれたのが、キキにだけでなく、見ている私自身にとってもすごく救いになり、そこから後は気持ちよく最後まで見られました。


最後にトンボの危機を救いにデッキブラシで飛んでいくところなどはいつもの宮崎さんの元気な女の子になっていて爽快感があります。最後にまたユーミン(荒井由実さん)の「やさしさに包まれたなら」が流れるのも、気持ちがいいです。でも私は、「ルージュの伝言」の使い方のかっこよさの方が強く印象に残りました。


見終わってみて、この作品が人気があることはすごく納得できました。作品の完成度とかオリジナル性とかそういう客観的な評価ではなくて、どれだけハートに来たかの基準で言えば、宮崎さんの作品の中でこの作品がトップだったかもしれないな、と思います。


この作品が心に残るもう一つの要素は、「働くことって、大変だよね」というものがあることです。やるべきことが満足に出来なかったり、一生懸命やったのに相手に喜んでもらえなかったりという小さな挫折が常に付きまとってしまう「働くことの大変さ」を乗り越えていく過程に、少しでも仕事というものをしたことがある人なら共感を覚えずにはいられないところがあります。思春期の心の動きの珠玉のような美しさとか、働くことの大変さへの共感とか、子どものころに見ていたのではわからないことが大人になってからとてもよくわかるようになる、そんな作品です。そういう意味では、ある意味大人向けの作品になっているといえなくもないですね。


この作品を見終わったとき、私もこういう作品が書きたい、と思いました。読む人の心が解放されて、豊かになって、元気になれる、前向きになれる作品。この世の中にはそういう作品が、もっとあってもいい、と思います。そういう作品を書きたいと思いました。まあ、それは個人的な話、個人的な感想ですが。


このあと、私はこの映画のDVDを買いました。どうしても手元においておきたい作品になりました。


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この文章は、2010年10月に初めてDVDで『魔女の宅急便』(宮崎駿監督作品)を見た時の文章に、加筆・修正したものです。