耳をすませば [DVD]/ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント
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私はスタジオジブリの作品、とくに宮崎駿さんの作品は好きです。でも初めて見たのが2010年のことで、それ以来のファンなのですが、ジブリ作品のことはこのブログではなく、こちらのブログ にまとめて書いていました。そちらの方で反応をいただきましたので、今日はそのエントリをこちらにも書かせてもらうことにしました。


この感想は2010年の10月に初めてこの作品を見たときのものをアレンジしたものです。今では『耳すま』はジブリ作品の中でも一番好きなもののひとつなのですが、当時はまだ見たばかりで、新鮮に感動したことを書いています。


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見終わってみると、最初に思った通りだといえばそうなのですが、予想していたよりはかなり面白かったし、いろいろ思うことがありました。時代のことと、自分自身に関連したことなどで。


『耳をすませば』がどんなストーリーかはご存知の方が多いと思います。物語を書くことを志した主人公・月島雫と、バイオリン製作者を目指す天沢聖司の、中学生の恋と夢と希望を描いた作品です。


作品の中に描かれている中学生たちのじゃれあい方が、自分の経験とそんなに変わらないよなあと親しみを持ちましたが、自分の進路のことについてあんなにまっすぐに考えられるというのはすごいなと思って見ていました。でも、数学者の岡潔という人も言っているのですが、本当に自分の進路を決めるのは14~15歳に興味を持ったことだそうなので、こうあるべきだったんだなあと思いました。当たり前なのですが、進路は大人になる前に決めた方がいいんだなあと思います。


映画全体の印象として、すごくノスタルジックな感じがしました。それは、「中学生」というある種コアな時代への懐かしさ、後悔、悔恨、恥ずかしさ、そういうものがあるわけですが、そういう成長段階のことだけではなく、まだ日本が繁栄を謳歌していた、本当はもう崩れ始めていたけどまだ残光が残っていた90年代中ごろという時代に対する、ノスタルジーをすごく感じたのです。


もっと率直にいえば、「日本が豊かだった時代」へのノスタルジー、ということになるでしょう。ヴァイオリン製作者の道を志す中学生男子と、それに刺激されて物語作家を目指す中学生女子。そして、お互いに負けたくない、お荷物になりたくない、力になりたいと思う、「お互いに相手を高め合う恋愛」が語られていた時代。最後に「結婚しよう」、と誓い合うのはまあご愛敬かな、とほほえましく思ってしまうわけですが、まだ日本の未来が自然に明るくなっていく、そういう根拠のない明るさのようなものがすごく懐かしく感じられる作品でした。


脚本を書いた宮崎駿さん自身が、「臆面もなく繁栄する日本を肯定しようという映画だ」と言っていたとどこかに書いてありましたが、そういうものが瓦解しつつある2010年から見れば、時代の記念というような意味で意味のある作品だったんじゃないかと思います。


また個人的にものを書いている立場から言えば、雫が物語を書くのに熱中し、ものを食べなくなったり自信がなくなったり、他のことに構わなくなっていく過程がすごく人ごとではないと思いました。これはやったことのある人でないと分からないと思うのですが、みんなそうなんだなと思います。書きあげた物語をおじいさんに見せるときに「いまここで読んでほしい」と無理なお願いをするところは、全く自分も同じことをしたことがあるので(苦笑)本当に気持ちはよくわかります。


高校に行かずに物語を書く、と思い詰めていた雫が、読んでもらった後自分の力不足を感じて、勉強するために高校に行かなきゃ、と思います。きらきら光る石のうち一つだけが本物で、一番光るものを選んで手にしたらほんとうは醜いものだった、みたいな夢とか、すごくその怖さはよくわかるなあと思います。あれは、きっと原作者の柊あおいさんも感じていることをそのまま書いたんじゃないかなと思いました。いや、原作は読んでないので分からないのですが。それとも監督の近藤喜文さんが感じたことなのしれないな、とも思います。


そう、この作品が、若くしてこの世を去った近藤喜文さんの唯一の監督作品だというのは、ある意味胸に迫るものがあります。まだまだやりたかったこと、やりきれなかったことがあっただろうになあと思います。宮崎駿という強烈な個性のもとで勉強にもなっただろうけど思い通りに行かずにストレスをため込んだことも多かったのだろうなと。宮崎さん自身が「彼は私が殺したようなものだ」と言っていたとどこかで読んだことがあるのですが。


主題歌は「カントリー・ロード」。冒頭がオリビア・ニュートン・ジョンのカヴァーでおしまいがオリジナルの訳詞。一番売れたのはオリビアだと思いますが、私はオリジナルのジョン・デンバーとか、田中星児が歌っていた日本語歌詞のものとかも印象が強く残っています。田中さんが歌っていたのは、なんだかわりと暗い歌詞だった気がしますが、はっきり覚えていません。


この映画のおしまいの訳詞は、大変力強いですね。私は劇中、地球堂でみんなで『カントリーロード』を合奏する場面が、私はこの映画で一番好きなのです。まあどの場面も好きなのですけどね。


ちょっと『魔女の宅急便』と重なる印象もあるのですが、私はこういうものを見て来なかったので、今更ながらいいなと思いました。福島正実さんの少年向けのSFが男の子側からの中学生精神みたいなものでよかったのですが、女の子側からの中学生精神みたいなものも、いいものだなと思いました。


ネットで感想などを見てみると、雫のことを中二病だなどと揶揄している記述がかなりあったのですが、いいじゃないか中二病で、夢見がちで、と思います。その一方で、それだけ夢が持てなくなっている現代という時代をあらわしているのかなあとも思いました。


まあ先の見えない時代だからこそ、道は平坦ではなくても、明るく前向きに行きたい、と思います。この映画は、そういう気持ちを描いた作品だったように、今では思えてきます。