かくかくしかじか 3 (愛蔵版コミックス)/集英社
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この作品は読むたびに感動します。


東村アキコ自伝、と銘打っていますが、作品のテーマはつまりは宮崎時代の絵の恩師、日高先生との交流なのですね。1巻では受験時代が、2巻では金沢での美大時代が描かれていて、3巻では卒業して宮崎に帰り、日高先生の助手をしたり、お父さんの会社の電話オペレーターとして働いたりしていたことが描かれています。


電話オペレーターの仕事は『ひまわりっ!』でも描かれていましたが、仕事について割合すぐにマンガを書きはじめて『ぶ~け』に投稿して入選した、ということは知りませんでした。


ひまわりっ ~健一レジェンド~(1) (モーニングKC)/講談社
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余りに抜け出したい日常に全面的に晒されると、火事場の馬鹿力のように3日間で作品を書きあげる力が出た、という話は迫力がありました。でも、漫画の描き方の常識を知らず、つけペンでなく消せるボールペンで描いて応募し、普通ならデビューできる賞を取ったのにあまりに下手だから掲載されない、という前代未聞の話が出てくるのですが、編集部がそれでも入選させてしまうというところが、誰がどう考えてもこの人は天才だよなあと思ってしまいますね。


いや、間違いなく天才だと思うんですけどね。マンガにおいては。


誰かの言葉で、最近の漫画家は寡作でいいものをつくるのが本道、見たいな雰囲気があるけれども、もともとたとえば手塚治虫さんの時代の漫画家たちは、死ぬほど量産していたわけです。東村さんはそこらじゅうに作品を描いていますが、そういう意味では量産型の漫画家のスター、と言ってもいいわけですね。


なるほどと思ったのは、日高先生の絵画教室で死ぬほどデッサンを繰り返したのに、漫画に描いた絵はデッサンが狂ってる、と編集者に指摘されたこと。目の前のものを見て描く絵画のデッサンと、頭の中にあるイメージを描くマンガとでは全然違うんだ、という指摘はちょっと目から鱗が落ちる思いがしました。


日高先生の教室の後輩の女の子が出てきて、それがモーニングに時々掲載されている『ZUCCA×ZUCCA』のはるな檸檬さんだった、というのも衝撃でした。(笑)


ZUCCA×ZUCA(5) (モーニングKCDX)/講談社
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いずれにしても、東村さんは日高先生のもとで絵の助手をしながら絵も描き続けていて、でもファインアートと漫画とは全くの別物、ということを嫌と言うほど自覚させられて、どちらを取るかという選択を迫られることになります。そして、自分は間違いなく漫画を描きたい。でも、好きな先生に逆らえない。だから東村さんは、日高先生のもとを去る決断をするのです。


このあたり、本当に胸がいっぱいになってしまうのですが、教室時代からの親友であるいつもズバズバ言う二見さんから「かくかくしかじか読んだよ 泣いてもーたがな 先生に会いたいね」というメールが届くところは本当に泣いてしまいます。


この作品は自伝であるとともに、東村さんのその時その時の流され方と決断とを描いていて、そして期待に沿えなかった日高先生への懺悔にもなっているんですね。今東村さんと日高先生の間にどういう交流があるのか、それはこの作品が完結するまでわからないのしょうけど、実際、知りたいけど我慢もしておきたい、そういう感じがします。


そして、ここまで思える先生がいたということは、ここまで思ってくれる生徒がいたということは、本当に幸せなことだなと改めて思うのでした。