信長のシェフ 6 (芳文社コミックス)/芳文社
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1月24日発売の週刊漫画Timesに『信長のシェフ』81話が掲載されています。


この話もドラマ化されているのでご存知の方も多いと思います。現代の西洋料理の料理人・ケンがタイムスリップして戦国時代に現れ、織田信長に仕える、というのが一番おもな話の設定です。ケンは現代人として織田信長の運命のだいたいの流れは知っているのですが、詳しいことまでは知りません。その中で、織田信長が天下に覇権を唱えていく過程を料理人としてそばで見守ることになります。


また、戦国時代にはない様々な料理を、戦国時代の素材を使いつつ調理することによって、織田信長の舌を楽しませるだけではなく、政治交渉などにも使われて、戦国の政治過程に大きく関わっていくことになります。


原作者の西村ミツルさんは日本大使館公邸において各国で腕を振るってきた料理人で、『大使閣下の料理人』でマンガ原作者としてデビュー。この『信長のシェフ』で原作者も引退する予定なのだそうです。

ですからこの作品には、料理がその美味しさ見た目の美しさで人を魅了するものであることにとどまらず、常に政治の舞台にも関わり、時にその政治状況を動かすものであるという視点から描かれているところが面白いのだと思いました。


81話の舞台は、すでに武田信玄が死去し、室町幕府を復興させてその下で天下の覇権を握ろうと考える「旧勢力」が去った状況の中で、遂に信長が名実ともに天下の実権を握ろうとする局面になっています。

80話でケンを将軍足利義昭のもとに派遣した信長は、ケンにスッポンを料理させて将軍に食べさせますが、食べさせるまではそれがスッポンであることは伏せさせます。将軍は、食べたのがスッポンであることを知って激怒し、ケンを殺させようとします。


81話では、その信長の思惑が明らかになります。義昭は元号を『元亀』と改元させるほど瑞祥としての亀を重視していたのでした。信長は嫌がらせのためにケンに命じて将軍に亀を食べさせ、激怒した義昭が挙兵するのを狙っていたのです。


この辺りが史実に基づいているのかはわからないのだけど、このマンガを読んでいて、作者はかなり研究しているなあという感じを持ちました。だから多分、原作の西村ミツルさんはどこから過去のエピソードを引っ張ってきたのだろうと思ったのですが、今回このエントリを書くために少し調べて、西村さんがそういう経歴の方だというのを知り、料理が政治に関わった深い歴史を書こうとしているのだということに思い当たりました。


マンガというものは、その時その場で読んでも面白いし、また面白くなければ作品として成立しないのですが、作者の背景や歴史的な事実、エピソードなどを知ることによっても、より深く楽しめるものなのだなと改めて思いました。


最近この作品はかなり面白いという印象が私の中で強くなってきたのは、そういうことだったのだなと目から鱗が落ちた思いでした。