個人的にはこれは大発見!と思うものを入手しました。といっても今まで自分が見たことがなかっただけなのかもしれませんが、とにかく和食器メーカーの香蘭社が、大倉陶園が得意とするイングレイズ技法(顔料を釉薬の上に乗せてさらに高温で焼成し、顔料を釉薬に染み込ませて絵柄を描く技法)を昭和初期に用いていたことが、今回入手したデミタスカップセットによってわかりました。洋食器メーカーの東洋陶器や光陽陶器あたりの製品はいくつか見たことがありますが、和食器メーカーではこれが初めてです。

素地はオールド大倉よりもやや厚めですが、繊細な手描きの蘭の絵は清楚で実に綺麗です。和の雰囲気の絵柄に当時流行したアールデコタイプの取手を合わせた感性は実に見事。カップのみの高さ約7センチ。

 

 

このようにふわっと滲んだような優しい絵柄です。

 

 

カップの高台の部分です。

 

裏印です。

 

オールド大倉のブルーローズ柄のティーカップと並べてみました。イングレイズ技法は大倉陶園では『岡染め』と呼ばれ、大倉独特の工夫がなされていたようです。

 

同時代の同じく香蘭社の手描き染付上絵付けのティーカップと並べてみました。くっきりした絵柄の染付との違いがお分かりいただけると思います。

 

 

このように未使用状態で出てきました。栞も残っているのが嬉しいです。

 

香蘭社は深川製磁からの暖簾分け、ということですね。

 

大連に支店があることから戦前の品であることがわかります。また、栞には昭和13年に「獨逸第一回国際手工業博覧会経済大臣賞」を受賞した旨の記載がありますので、このカップは昭和13年から戦局が激化し始めた15年あたりまでに製造されたものと思われます。

 

手元にあるデミタスカップも合わせて並べてみました。結構数が見つかるということは、昭和に入ると食後に家でコーヒーを飲む家庭が多くなったということですね。

 

小ぶりですっきりとした雰囲気がなかなか可愛らしいです。