昭和10年前後のものと思われる、服部時計店製のプラチナ製の帯留めです。隙のないシャープなアールデコデザインがグラデーションに敷き詰められたメレダイヤを存分に引き立たせています。彫金が素晴らしく、細長く切ったオニキスをぐるりとはめ込む技術は本当に大したものです。経年にも関わらずオニキスに損傷がなかったのは幸いでした。横の長さ5.8センチ。
ラフカットダイヤがグラデーションに留められています。
中央がふわっと膨らみを帯びているのがおわかりいただけますでしょうか。腰張りはいわゆる「ベタ腰」です。
これほどの最高級品ですからサファイアも天然石であってほしいのですが、色から見て合成石の可能性の方が高いでしょう。
ぎっしり詰まったダイヤの留め具合に何か職人の執念すら感じます。また、拡大すると溶接に金か何かを使っているのがよくわかります。
真横から写しました。
裏側です。
背景を変えて写してみました。オニキスの取り巻きがよくお分かりいただけると思います。
刻印です。ツバメマークに「Pt」とあります。
私が所有する服部時計店製の高級帯留めを並べてみました。こうして見るとデザインおよび彫金の手法に一定の傾向があるのがよくわかります。服部時計店と御木本真珠店は当時の2大宝飾店ですが、少なくとも戦前までは両雄並び立っていた感があります。その理由は、それぞれが独自の品質・デザインと販売ルート(御木本は皇室向けと海外進出、服部は国内の富裕層をターゲット)を確立させたことにより、「棲み分け」がうまく機能していたことにあると思われます。