以前『兵隊やくざシリーズ』について書きましたが、(→)ネットでこういう冊子を見つけましたので、中にこのシリーズのことが書かれていないかどうか読んでみました。

(ところで、続けて書きましたテレビ時代劇「新鬼平犯科帳『下段の剣』」のページですが、結構アクセスがあったもののやはりここでテレビ時代劇の話はどうかと思いましたので(笑)削除しました。お読みいただいた方、ありがとうございました)

 

この方が田中徳三監督です。(1960年頃)

このお写真にはびっくり!映画監督といえば黒澤明とか鈴木清順とか、見るからに人を威圧しようとする意欲満々の人ばかりかと思っていましたが、田中監督はどうみても「どこかの女子大の文学部国文学科の先生」みたいな穏やかな雰囲気の方で、とても映画監督には見えません。こんな監督さんがあの暴れ牛のような勝新太郎を御してヒット作をぽんぽん飛ばしていたのかと思うと、本当に不思議です。こういう方は、三隅研次や増村保造の作品に見られるような美的エログロはとてもムリと思いました。田中監督の作風は、どんなにシリアスな映画でもどこかはんなりとして優しいので安心して観られます。

 

兵隊やくざシリーズについて、このような記述がありました:

 

「兵隊やくざ」撮ってますとね、元軍隊におったやつが、俳優の中にいっぱいおるんですよ。だからいろんな体験とか、ゲートルの巻き方を知ってるやつとか、いっぱいね。そういうのは、みんな任してね。嬉しそうにやってたな。

例えば、兵隊が整列するところがあったりするでしょ。これ半分はエキストラですけど、軍隊経験が結構ある連中が、ばちーっとね。今の学生なんか使っても、とうていこんな雰囲気は出ませんよ。「気をつけ!」って言って、ばちーっとね。様になってましたからね。

そりゃ、僕ら、旧制中学の一年から軍隊の教練という科目があって、やってるんですからね。考えたら、人を殺すのと自分が死ぬことしか勉強してなかったですから。(51頁)

 

いや〜あのリアルさは本物の兵隊経験者がごろごろいたから出来たのですね。1960年代といえば、戦時中に徴兵された男性がまだ40代の頃ですから、当時の日本人にとっては戦争はまだまだつい昨日のような大事件だったのだと思います。田中監督は「俺の言う事を聞け!」タイプではなく、「なるほどそのアイデアええやん」みたいに、現場でいろんな人のアイデアを吸い上げて映画作りをする監督だったようです。だからあの勝新とも衝突しなかったのかなと思います。

 

『続兵隊やくざ』のスナップ写真

左から田中、勝新、小山明子(小山さんがとても清楚で、田中監督は女性が見て綺麗だと思う女性を撮るのが上手いです)

 

前にも書きましたが田中徳三は同じく大映の増村保造や三隅研次に比べると格段に評価が低いです。私は田中監督のいろんな作品(映画もテレビドラマも)を観ていますが、この監督には独特のリズム感があってその緩急が大阪人の私にはとても心地よいのですが、ボキャブラリーの乏しい私がそれを言葉で表現するのは非常に難しいのです。ラーメンのスープの味を聞かれても「美味しかった」としか言いようがないような・・・こういうところは本職の映画評論家さん達に本当に頑張ってもらいたいところです。

 

せっかくの機会なのでちょっとここでその他の田中徳三作品のご紹介を・・・

 

『宿無し犬』(1964年)

 

70年代の二大ダンディ俳優を挙げろといえば、田宮二郎と天知茂でまず間違いないと思うのですが、(お若い方はご存じないかも?)その二人をうまく使った通称『犬シリーズ』と呼ばれる作品群があり、田中徳三はその第一作目を撮っています。

これがまた画面に濃い色男二人をうまく融合させていて、やはり田中監督は「男子ペア」を描かせたら右に出る者はいないと改めて感じました。(もちろん男女ペアもとてもいいのですが)

 

二人が初めて出会うシーンはいきなり「壁ドン」ですよ。(笑)またそれを狙って演出している訳ではないところが却って凄いです。その後この二人の関係がどう展開するかはどうぞ推し量って下さい。(爆)

 

「何やねんおまえは?」

「君のボディーガードや」