我が国の新年儀式の一つに「歌会始」があります。14世紀半ばの日記に記録が見られるようですが、その起源は定かではありません。毎年1月中旬に宮中で開かれ、一般国民の詠進(えいしん)は明治6年から許され、特に秀れた歌を入選作として披講(ひこう)されます。平成23年の御題(ぎょだい)は「葉」でした。


 元森林組合作業員で74歳の井上正一さん(香美町小代区)が見事に10人の入選者の中に入りました。応募は約2万首ですから2000人に1人しか入選しません。伐採作業中のけがで左上半身が不自由な井上さんですが、歌を始めて20年。17回目の応募での入選とのことです。


 お祝いの電話でお話ししていても、実直で粘り強く前向きの性格であることがよくわかります。暑い夏に奥さんとわさび栽培に精を出していることを思い浮かべての入選作は


 「電源を入れよと妻に声をかけて わさびの苗葉に液肥を放つ」


 夫婦の情愛、畑ワサビ栽培の苦労(夏でも水や栄養をたっぷりやらないとワサビは枯れる)、そして「土の匂」のする庶民の秀歌です。


 井上さんの話では、「歌会始の儀」に参列した井上さんに天皇陛下から「とても感動しました。これからもいい歌をつくって応募してください」とお言葉をいただいたとのことです。


 歌を詠む人も偉いが、その歌のよさをしっかりと受け取められた両陛下のすばらしさに頭が下がりました。