※妄想のお話です。
もうちょっとの辛抱です。
限定はもうすぐです。
毎日色んなコンテンツがあって振り落とされそうになるし
情報過多でわけわかんなくなって目の前を見失いそうになる度、
櫻井さんの
「俺はあえて言う。ついてきてほしい。あなた達に絶対についてきて欲しい。」
っていうあの力強い5×20のメッセージが浮かんでエンジンかけ直してる。
ついてく。
絶対についてく。
全速力で駆け抜ける背中を絶対に見失いたくない。
他のものが落ちても振り返らない覚悟でついてくから、って。
ただ、毎度思う。
風速上げすぎじゃないっすか兄さん方!!!笑
「…で、絵以外の智くんの夢はないの?希望とか今後の展望とか…あるでしょ、何か。」
とりあえず笑いすぎて暴れてしまいそうだから話を変えてみた。
「…まぁ、あるっちゃぁ、あるかな。」
智くんが小さな声で言う。
「え、教えて!あ、差し支えなかったら!!」
人に簡単に言うものじゃないのかもしれないけど。
単純に知りたくて。
大野智のこと、何だって。
「おいらねぇ」
「うんうん!」
「仙人になりたい。」
「せ…」
ん、にん?
ってあの、山の…?
「えーと。智くんの言う仙人って、」
「「髭の」」
ああやっぱり。
いや全然わかんねぇ。
「それって具体的に…」
「なんかさぁ。自由に生活したいんだよね。」
この人…
自由に生活してるんじゃねぇの…?
「自分の力で生活して、色々見てみたいの。世界、広いじゃん。色んなものを自分の目とかで感じたいんだよ。おいら、今けっこー自由でしょ?」
大きくうなずく。
あなたが自由でなくて誰が自由と言うのだろうか。
それに自炊もして一人暮らししている智くんが『自分の力で生活』してるに入らないのであれば、
実家に居座り続けながらお手伝いさんに全ての家事をしてもらい
家出(?)して尚他者の家に居候してる俺の立場は…?
「んふふ。だからね、もっともっと世界を広げて自由~に生活したい。この島大好きだけど、いずれは出たいし。」
「…そう、なんだ…。」
智くんは俺に海へ突き落して『経験しないとわからない』ということを教えてくれた。
つまり智くんは、まだ『自由』を感じてないんだ。
自分が経験し、それを自分のものとして取り入れる。
視野を広げる。
智くんの世界はこんなものじゃないんだ。
俺が自由だと思っていたのは、氷山の一角に過ぎない。
当然だ。
世界は笑ってしまう程に広いんだから。
「…少しだけど…気持ちがわかるかも。俺、世界旅行したいし。」
「そうなんだ!色んな景色見たいよね。言うてここももう一年だしな~。」
一年しかいないんだ。
もっと長いんだと思ってた。
「あとは…仙人が終わったら、帰る場所が欲しいかな。ただいま~っつって、アイスルヒトのところに。」
「…え…?」
「なんつって。」
照れくさそうに笑う横顔は、『そんな無茶なこと』と思っている風に見えるのは俺の気のせいではないと思う。
仙人が終わったら、なんて支離滅裂なことはさておき。
ねぇ、智くん。
あなたの人生、一体何があったんだよ。
母親のせい?
多分、それだけじゃない…よね?
「愛…って…」
「…ダメだな、はずいな(笑)ちゅーかイタいな(笑)」
「いや…そうじゃなくて…」
「ああ、ごめんごめん。この前先生に偉そうに言っといてね(笑)でもおいらと先生は違うからさ。大丈夫だよ。おいらね、そういうのはわかんの。」
智くんが柔らかく笑うけど、いくら見てたって視線は一切絡まない。
「『愛されてこなかった』人間にはね、『愛される人』『愛することが出来る人』がどういうのかわかんの。だから先生は大丈夫。」
智くんが卑下する様子もなく、優しく微笑みながら言う。
グツグツ、湯気が換気扇へと流されていく。
智くんの姿を、くらませながら。
「どうして…そんなこと言うの?俺と違う…だなんて…。」
俺が一体何に傷ついてるのかもわからないけど、胸がぎしぎしと痛む。
お願いだから、そんな風に言わないでよ。
俺とあなたは、確かにタイプは真逆かもしれないけど、本質的なところは違わないでしょう?
「おいらさぁ、人生で三回捨てられてんだよ。」
智くんがさらりとそう言い、綺麗な指を折って数える。
「父親が蒸発した時とー、母親がおいらを置いて出てった時とー、ほんで、親友。」
親友。
そのワードに聞き覚えがあった。
──確かね、親友に言われたんだって。おーちゃんはそういう『役割』だって。『その為に生まれたんだよ』って…。
相葉くんに教えてもらった智くんの過去。
誰にでも…というこの生活の元になってしまった人。
「親友…にも…?」
「んー。すげぇだろ?(笑)だから、愛情みたいなんに無縁っちゅーか。おいらは全然楽しく生きてるからいいんだけどね?けど先生とこの前話してて、なんかいいな~って思って…あはは、影響されやすいな。」
無縁。
智くんがあまりに気取らず普通に言うから軽く聞こえるけど、その人生は壮絶でたくさん心に傷を負ってきたんだろう。
それなのに、親友とやらは。
そいつは…智くんを襲 っておいて、また捨てたっていうのか…?
どんな境遇かわかってた上で、そんなこと……
ふざっけんな…!
「あのさぁっ!」
思ってたより大きな声がでてしまって、智くんが驚いてこちらを見る。
「ご、ごめん。けど…そんなんおかしいよ。違わないよ。むしろ俺よりよっぽど智くんのが凄いのに。優しいのに。智くんは愛されるべきだよ、誰よりも。現に相葉くんとか…」
──俺とか。
と言いかけて慌てて口を噤む。
何を言いかけてんだ、俺は。
「相葉ちゃんはそーゆーんじゃないよ(笑)」
本当だろうか。
執着しているかと言われればそうは見えないけど、俺に対して相葉くんから感じるのは紛れもなく嫉妬だ。
「まぁ、正直おいら結構モテるんだけど」
急に。
いやそうだと思ってますけど、急に感じ悪いな!?
「モテるっちゅーか、ハマられるっちゅーか…。相葉ちゃんみたいにね(笑)けどさぁ、好きとアイはちょっと違うだろ?
おいらのことハマッてもそれはアイじゃないし、逆においらもみ~んな大好きだけど、アイしてるかって言われたら違うかな~って。」
…あ、わかる気がする。
俺も正直かなりモテてきた。
いやもう履いて捨てる程、俺のこと好きな奴はごまんといた。←「急に感じ悪い」のブーメラン
それでも…愛されては来なかったと思う。
逆もまた然りだ。
松本のことも、好きじゃなかったとは言ってるけど、普通に好きか嫌いかで言ったら好きだったと思う。
そもそもメリットがあっても心底嫌いな奴とは付き合えないし。
けど、愛なんて感情は一ミリもなかった。
それが自然だった。
無償の愛、みたいな、相手のことを想いやって自分のことは考えないなんて
智くんが今やってるようなこと、俺には考えられなかった。
…今なら、少しだけわかるような気がしてるんだけど。
「あ、先生はおいらににハマんなよ?」
「…えっ…?」
ドキッと、した。
別に、何も困ることはないはずなのに。
「だって、先生は本当の恋愛がしたいんでしょ?おいらじゃ無理だからね(笑)」
……どうして?
口にしなくても顔に出てたんだろう、智くんが「だってさぁ」と笑う。
「海の歌は、海に入んないと作れなかったでしょ?それと一緒。アイされた人しか本当の恋愛なんて出来ねぇよ。
先生とおいらは真逆で、背中向き合ってるみたいなもんだから。だから先生には出来るけど、おいらには無理!」
そう。
そうだよ、真逆だ。
俺の見る世界とあなたの見る世界は、恐らく全く違うものだ。
両極端にいると言われても否定はしない。
だけど
違わない。
俺もあなたも。
「絶対に…違わないよ。それに、あなたは本当は…。」
皆から愛される人だと、俺は思う。
いや、既に愛されてるって…思うんだ。
身体を提供してなくたって、きっとあなたの周りには人がたくさん集まってきて
口数多いわけでもムードメーカーなわけでもないのに、気付いたら輪の中心にいる存在なんじゃないかって。
数日一緒に過ごした俺は、周りの反応を見て勝手にそう思ってしまう。
色んな仕事頼まれてるのも、信頼されてる証だと思うし。
「あ~皆優しいからなぁ。まぁ、おいらの事情詳しく知らなくても…この歳で島に独りで来てる時点で同情してくれてんだよ(笑)」
同情?
そんな馬鹿な。
島の人は皆智くんに優しい。
(ちなみに異端者の俺はすごい目で見られている。いやいいんだけどさ。別に。本当に。別に気にしてねぇし!!…別に!!泣)
だからこそ、わかる。
智くんへの皆の想いがどういうものか。
「断言するよ。絶対同情ではない。」
「先生もしつけぇな(笑)ほんでも…んふふ。うれしーもんだね。」
智くんがふわりと笑う。
「…何が?」
「おいらと違わないって言われんの。愛されるべき、とか言ってもらえんの。…先生はやっぱ優しいな!大丈夫。先生なら全部うまくいくよ!」
「…あなただって…」
「おいらは違うよぉ。黒に何足したって黒だからさ。」
智くんが、柔らかく、しかしぴしゃりと言い放つ。
漆黒の、涙。
昨日夢で見たもの。
黒って…智くんに、何かあるの?
「…ねぇ、それってどういう…」
突然、しゅわああああ!と鍋から泡が吹きこぼれる。
「あ~~~~!やっべ!おいらが失敗しちゃった!ごめん先生、ちょっとそこどいて!!」
智くんがくっそ~と独り言を言ってるから、それから何も言えなくなってしまった。
…智くんが抱えている闇って、一体何なんだろうか。
智くんにとって何でもない役立たずな俺は、それを聞く権利があるんだろうか…。