「ま、良かったじゃんおーちゃん!翔ちゃんは浮気なんてしてなかったんだし♪」
「当たり前だろ!俺が智以外に目移りするとか有り得ないね!」
断言しちゃう翔くんに皆が「はいはい」って呆れ顔。
そんな当然のように言ってくれる翔くんのこと疑って…
ああもう、僕は何をやってるんだろ。
「ほら智、謝りなさいよ。」
和がいつの間にか隣のテーブルに向いていて、花をわしゃわしゃまとめながら言う。
お客さんの注文品かな。
いつの間に用意してたんだろうか。
白い花は花弁がヒラヒラしてて可愛らしい。
「…うん。遅くなったけど、翔くん、ごめ」
「ちがくて。」
また食い気味に和が言葉を止める。
え?ってなったのは多分僕だけじゃない。
「自分にだよ。それと俺ね。」
和がハサミでパキンと茎を切る。
「…何で僕と和?」
不思議に思って首を傾げる。
だって今回、僕のせいで酷い目にあったわけだし、
大体和は全然関係ないじゃん。
「じゃ、何でお前は中島くんと翔さんがホテル入ってったと思った時に乗り込まなかった?帰ろうと思ったのは何でなのよ?」
「それは僕にそんな権利──」
言いかけて口を噤む。
これ以上口にするのは、和のことも……。
「そう。アンタは自分だけじゃない、俺らのことを卑下したんだよ。過去のことで自分が汚いとかさ、俺のこともディスってんのと一緒だから。」
「…あ…」
そっか、僕は自分のことばっかりで。
あの時僕は『汚い僕にそんなこと思う権利ない』って思って帰ろうとした。
そんなこと口にするなんて…和の気持ちなんて考えられてなかった。
こんなこと相葉さんがいる前で話すべきことじゃなかったのに──。
「和、ごm」
「だーかーらぁ。俺だけじゃないんだってば。今俺や相葉さんの前で言ったから、とかじゃないのよ。俺の言いたいことはさ。」
和が花を纏めながら優しく笑う。
「もうとっくにあんの。俺らにもね、幸せになる資格ってやつ。全部終わったことだし、アイツももう居ないし、全っ然キタナクないの。鬱陶しい位愛されちゃってんの、残念ながら。
そんでヤキモチ妬いたり怒ったりすんのも当然だしその権利だってしっかりあんのよ。わかる?『成瀬さん』?」
ニッて和が笑って。
上田くんたちはわかんないだろうけど、他の皆も優しく微笑んでて。
ずっと、封印してた。
『成瀬領』は。
思い出として話すのは平気でも、誰かにそう呼ばれることはずっと嫌だったし避けてきた。
翔くんに期待を含んだ目で『たまにはスーツ着ないの?』って聞かれても
ずっと『スーツは苦手なんだ』って断ってた。
あの頃の自分は、ただただ罪の化身のようなものだと思ってたから。
穢されて。
僕が作りだした偶像で。
逃げ道で。
ずるくて。
たくさんの人を騙してて──。
僕の過去は、たくさんの罪に溢れてる。
成瀬領になることは即ち、翔くんに相応しくない自分が顔を出してしまうことになるって思って…。
「俺さ。」
潤がコホンと咳払いをする。
「たまに戻りたくなるよ。『道明寺司』。性格悪くてひねてたけど、自信満々で色んな人幸せにしてさ。自分で言うのもなんだけど、結構輝いてたんじゃないかな。」
それ今とさほど変わらないよね、と和が笑う。
うるせえな、と同じく笑う潤。
「…特に『領』には…迷惑はかけまくったけど…ちゃんと謝って精算したつもりだよ。俺的にはね(笑)
だから俺は、過去の自分を否定しない。俺は俺だ。過去があるから今がある。…智もだろ?」
そう言われて、思い出すのは大晦日。
── きっと、全てが必要だったんだ。
記憶を失った期間のことで落ち込んだ僕に、翔くんはそう言った。
ずっと黙ってた翔くんが口を開く。
「智。前も言ったろ。
…あなたはあなただから。そして、俺は間違いなく『あなた』を好きになったから。
大野智も、成瀬領も、こんな言い方アレだけど過去なんてどうだっていい。
俺は『今』、『あなた』と生きてるし
これからの『未来』、『あなた』の隣にいたい。それだけだよ。」
翔くんの言葉に、鼻奥がツンとして目の前の視界が揺らいでく。
ガサリ。
音のなった方見ると、「ほら」と和が作っていた花束を差し出す。
「あげるよ。今のアンタにピッタリでしょ。」
真っ白い花は優しく微笑んでいるよう。
「これは…?」
「アザレア。花言葉は、『あなたに愛されて幸せ』。
…そろそろ認めなさいよ。自分が鬱陶しい位愛されてるって。口に出して、ホラ。待ってるよ、鬱陶しい恋人が。」
翔くんは優しく微笑んでいる。
僕はぼろりと涙を流し、ゆっくり頷いた。
すうっと呼吸を吸い込んで…きゅっと目を瞑って覚悟を決める。
「…僕は…
愛される資格があるし、
翔くんに…愛されてる。
…誰よりも…っ!」
…言っちゃった…!
バクバク鳴る心臓。
そしたら、一呼吸置いて皆が噴き出して。
「「「知ってる!」」」
笑われて、恥ずかしくなって翔くんを見たら、当たり前だろって顔してて。
僕はようやく、
疑ってごめんなさい
と翔くんに謝ることが出来た。
その夜。
左手が使えない翔くんの世話をするため、優しく抱きしめられるだけの入浴を終えて
さぁ寝ようって時に、僕は翔くんの前に立った。
「…え、智…?」
あの時の…『ホスト・成瀬領』のスーツ姿で。
「…今日は…櫻井様をお世話します。…『成瀬領』で。」
「お世話…って…」
翔くんが戸惑いを見せる。
「…い、いいから早くっ。」
決意が鈍らない内にさせてくれっ!!
「何で…?ずっと嫌がってたのに…」
だって、全てが。
今の僕らへ繋がってるのなら。
消したい過去だって
苦しい思い出だって
愛しいあなたへの大切な思い出なわけで。
そしたら
急に『成瀬領』も翔くんに…その…
…愛されたい…って、思っちゃって。
「…早くベッドに座って頂けると嬉しいのですが。僕、指名が多くって。」
照れ隠しに少しだけ嫌味っぽく言うと、ようやく翔くんが笑う。
「くははっ、じゃぁ…お願いしようかな?こんな左手じゃ大切な人の腰も上手く掴めなくてさ。」
翔くんはニヤリと笑ったけど、ものすごくデレデレして嬉しそうに見えた。