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携帯からメッセージ音が鳴り飛びついた櫻井が、画面を見て口を覆いニヤける。
『智で~す無事ついたよ雨でぬれなかった?風邪引くなよぉあと、これからは名前で呼んでおいらも翔くんって呼ぶね?🍀これからよろしくお願いしま~す』
王将を彫り進め、一息ついて夢ではないのかと不安になっていたところだった。
「~~~~~~~~~~~っ!か、可愛い…!絵文字とかいっぱい使うタイプだったんだ…やっっっっべぇこの急なデレ…」
ベッドに飛び込み足をバタつかせて悶えていると、
「きっしょ。」
突然神が現れ、何故かファミコンをテレビにセットしようとしている。
旧型のそれはいたく懐かしいが、そんなこと触れている場合ではない。
「ちょ!まじ!!俺!!やったよ!!やりきったよ!!!!」
「告る時、綺麗に4文字で会話してたじゃん。」
「えっ?うそ?(笑)気付かなかったわ、俺結構4文字会話の才能あるのかも?なんつって♪」
ご機嫌な櫻井に辟易した表情で神が言う。
「言っとくけど、やりきってないから。あと一ヶ月以内に結婚まで持ってかないと無理よ。地球おしまい、永久あばーよ。」
「いやだから、男同士で結婚なんて出来ねーじゃん。ていうか地球がどうなんの?結婚一つで揺るぐ地球の存亡って何なんだよ?」
「紙での契約だけじゃないでしょ、結婚って?プロポーズして、親に許されるのも結婚。わかる?」
「親……。」
櫻井が眉間に皺を寄せる。
「次の指令は簡単よ?…あれ?」
神が首をひねりながらリセットボタンを押す。
「ああ、貸して。」
櫻井が指令を聞く前にゲームのカセットを取り上げ、裏返してふぅーっと息を吹きかける。
「…何してんの?」
「こうすると…ホラ。」
ガチャリとソフトを差し込み、スイッチを入れる。
会社名が浮かび上がり、単調でレトロな音楽を鳴らしながらゲームが起ち上がる。
「うそ、翔ちゃん…何者?」
「ファミコン世代は常識だから。」
櫻井がふふんとドヤ顔をするも、神は感動した顔で「すげぇ!翔ちゃん天才!」と拍手する。
…調子が狂う、と櫻井がこめかみを人差し指で掻く。
「…で?簡単なの?俺結構調子いいから、何でも出来そうな気がするけど?」
櫻井の言葉に、神が一瞬苦笑を浮かべてから顔をテレビに向ける。
「これが最後だから。」
「…は?最後ってどういう意味?」
櫻井が眉を顰める。
「これさえクリアすれば、もうワタシは必要ないわけ。翔ちゃんもようやく一人前ってこと。おめでとー!」
神が無感情に小ぶりな手をぱちぱちと叩き合わせる。
「…いや、え?だってお前、地球が…って…」
「このなめらかさの程遠い操作性の悪さ!ドット絵のカクカクした感じ!簡単すぎるルールなのにそれを難攻不落にさせるこのコントローラーの固さと持ちづらさ!!逆に新しい!いや~これはなかなか…奥が深い!」
文句なのか賞賛なのか、思ったことをそのまま口に出しながら神はゲームに夢中になっている。
「おい!聞けよ!次が最後って、地球滅亡はどうなったんだよ!!」
「ああ…教えてあげますよ。今回の指令の意味を理解したらね。とりあえず次の指令の、発表~!どんどんぱふぱふ~!」
神がpauseボタンを押し、ゲームの世界の時が止まる。
神がニヤリと振り返る。
「最後は、簡単。
『大野智の願いを叶えよ』。」
ずいっと近寄り、人差し指で櫻井の鼻を押しつぶす。
「…願い…?そんなことでいいの…?」
その人差し指を払いのけながら櫻井が尋ねる。
「ええ。簡単でしょう?だけど…あなたにしか出来ないのよ。」
「願いったって…「何してほしい?」とか聞きゃいいの?」
「んなこと言って「え、叶えてくれんの?えーっとぉ~」とか言うタイプじゃないことくらいわかるでしょ、わかんないんですか鈍感バカは、ええわかんないんですよね、だからあんなに時間がかかってえらい目にあったんですよこちとら、ホントヘタレなんだから…」
神がぶつぶつ言っているのを、え?と聞き返すと、何でもない、と返される。
「じゃぁどうすりゃいいんだよ?聞かなきゃわかんなくね?」
「大野智が、『お願い』って言ったら。それを全力でやり遂げる。ね、簡単でしょう?バカ(翔ちゃん)でも出来る。」
「バカと書いて翔ちゃんと読むな!!まぁ、博打感すげぇけど…そうだね、大野さん…いや、智くん…♡のお願いなら全力で叶えたい!!いや!どんな難題でも絶対叶えてみせる!!!!」
櫻井の背後にメラメラと炎が見える。
本当にバカだな、と思いながら神は鼻で笑う。
「…『どんな難題でも』…ね。」
「え?」
「いえ。せいぜい頑張ってください。」
神はテレビに向き直り、ゲームを再開させた。
*
「で?」
「え?」
「え、それで終わり!?アラサー二人が!家で!!雨の夜に!!二人きりで!!!ちゅーで終わり?!!?」
「ちょっ、声!おっきいってば!!」
大野が慌てて相葉の口を押えるも、もう遅い。
大将がニヤニヤと近づいてくる。
「え、何?大野さんついに櫻井さんと?」
「ちょ、何で櫻井さんって決めつけんだよ!」
「いや~あんだけ頑張ってて櫻井さんじゃなかったらそれはそれで最高に面白いけど…大野さんの態度も、ねぇ?」
「ね~っ?だよね、絶対好きだったよね?でもおーちゃん全然素直じゃないんだもん!このまま翔ちゃん諦めちゃうかと思ったよ!」
「う、うるさいっ!」
大野が頬を赤くしながらぷいとそっぽを向く。
丸い頬がさらに丸くなっているのを、相葉と大将がクスクス笑う。
「でもね大将、折角付き合い始めたのに、おーちゃんね、家に行ってちゅーだけで帰ってきたんだって。」
「シェフな。え、うそでしょ?何、櫻井さんイ〇ポ?」
「ばっ…何てこというんだよ!!」
「それくらいしか有り得なくない?据え膳逃す男の事情なんて。」
「ひゃっひゃ!確かに!」
大野は今更ながら気付いた。
相葉だけでなく、大将(シェフ)も同じくらいたちが悪い。
「で…でも、おいら何もわかんないし…用意とか…」
「あ~っそういうこと!何だぁ、色々教えてあげるのに!何なら実践してあげよっか?(笑)」
「バカ!ヤんねーわ!」
大野が真っ赤になって迫ってきた相葉の胸を押し返す。
「相葉ちゃんは誰彼構わずやりすぎなんだよ。軽すぎ。」
大将(シェフ)が呆れたように溜息をつく。
「そうだよ、潤くんと付き合ってんのにいい人いないかな~とか言ってさぁ…一人に絞んないの?」
珍しく大野も口を挟む。
「だってぇ。俺好きな人いるもん。」
「好きな人?」
初耳だ、と大野が普段垂れがちな目を見開く。
「叶わぬ恋なの。だから、色んな人と遊ぶの!別にいーでしょ!てゆーか大将、俺の『コハル』はまだなのー?!」
「あっ、ごめんごめん!」
大将が慌てて緑色のカクテルを作りに戻る。
相葉はいたくその見た目と味が気に入っている。
「…相葉ちゃん、叶わぬ恋って…」
ああ、と相葉が笑う。
「くふふ、内緒にしてたつもりはないんだけどね!ま~気にしないで!おーちゃんは俺のことなんて気にせず幸せになるんだよ?」
相葉は太陽のような笑顔を浮かべ、すぐにオスの顔になる。
「で、お互い初めて男同士で…ってのは結構ハードル高いわけ!だから…道具とか洗浄はとりあえず後で教えるとして、今とっておきの魔法を教えてあげる。」
「…魔法?」
「そう。あのね…」
ひそひそ…と耳元で相葉が告げると、大野は驚いてズザッと距離をとる。
「…うそ…そんなこと…おいらが…?」
「そう!絶対効果てきめん!ぞくぞくってしてどぴゅーってなること間違いなし!」
相葉のアドバイスを実行する自分を想像し、ただただ顔を赤らめて困惑する大野だった。