「え~本日はお日柄もよく、このような会を設ける機会を頂き、あ~、とても嬉しく思っております。え~ほぼ全員の参加ということで、壁を隔てた両社、親交を深めることが…」
「おいおい~!かたっくるしいことは無しでいいんじゃねぇか?なぁ国分さん!」
松岡の大きな手がバシンッと背中を叩き、国分がよろける。
握りしめるその手には文字がびっしり書き込まれたカンペがしわくちゃになっている。
「あ…でもこれ僕が昨日夜中の二時まで考えた挨拶…」
「おら野郎ども行くぞ!?かーんぱーーーい!」
「「「かんぱーーい!!」」」
松岡の音頭に皆待ってましたと言わんばかりにグラスを突き上げる。
がっくりと項垂れる国分の横で、堂本が
「いや~挨拶長いのは嫌われますからね~ただでさえ印象悪いのに~」
と素知らぬ顔でとどめを刺した。
…そのテーブルから一番離れた席。
隣の会社同士で開いた飲み会の席は、奇しくも相葉、大野、櫻井、生田の組み合わせとなった。
年齢が考慮されたため、同世代4人が集まったのだ。
しかし、話が弾むどころか席に着いた時から気まずい雰囲気が流れている。
…相葉を除き。
「ねぇ大将~っ、新作の甘くておいしーいお酒ないのぉ?」
「だ・か・らァ!シェフだっつってんだろ!!何百回言やわかんんだよ相葉ちゃんのその使えない脳は!!」
言いながらも手にはシェーカーを握る。
相葉と大野は常連のため、好みも分かっているし多少のわがままも通すのがここの大将(シェフ)だ。
態度は決して歓迎するものでは無いが。
「大将が死ぬまで言い続けてくれたらイケるかも♡いろんな意味で♡」
「バカか!一生出禁にしてやる、この倫理観薄男!!」
「ひど~い!お得意様に向かって~!」
相葉がくつくつと笑うと、大将(シェフ)が盛大に溜息をつきながら出来上がったカクテルを差し出す。
キラキラした緑色のカクテルだ。
黄色とラベンダー色の花びらが1枚ずつ、中央で浮いている。
「わーかわいー♡ありがとぉ♡!名前は?」
「何も考えてないよ、適当に作ったし。相葉ちゃんが決めてよ。」
「じゃぁ~…コハル!春っぽいから!」
「じゃ、それで。」
相葉は一口飲み、美味しいっ!と目を輝かせる。
そしてそれに「初めての俺のためのお酒~っ♡」と頬ずりしている。
その姿を大将(シェフ)が目を細めて見つめる。
「…俺、自分の子どもはちゃんとしつけして冷静沈着なまともな子どもに育てよ…まだ相手もいないけど…」
「…大将はほんっと子ども欲しいんだね~!跡継ぎ…だっけ?」
「欲しいわけじゃないよ。まぁ、そう。うちの姓を継ぐせがれがいることがうちの親の絶対条件って感じよ。…古いんだよ、ったく。」
(子ども……。)
櫻井が俯く。
大野は子どもを欲しがっている訳では無いと言っていたが、大野の親の意見を直接聞いたわけではない。
万が一付き合うにまで発展したとしても、壁が一般的な恋愛より多いのは当たり前だ。
そもそも恋愛まで進める気もしていない。
「せがれって(笑)こんなガラ悪いのに老舗料亭のおぼっちゃまなんだからびっくりだよ(笑)ねぇおーちゃん?」
「あ……うん…」
大野は気もそぞろにビールを口にする。
先日の不審な受け答えを思い出し、櫻井を怒らせていないかと心配しているのだ。
そして生田は…相葉の朝帰りの件をずっと気にしている。
「(櫻井、相葉くんに聞いてよ!)」
「(やだよ、そんな夜の事情聞きづらいわ!お前が聞け!)」
とひそひそするやりとりは、更に大野を不安にさせている…などと櫻井に気付く余裕はない。
一通り言い合いをし、根負けした生田が意を決してコホンと咳払いをする。
「ミラク…相葉くん!」
「へっ?!何何、どしたの?えーと…」
「生田斗真!です!!名乗るの4回目だけど!!!えーと、あの…さ。向かいのビルの松本…って奴と、どういう関係なの?この前の休み、朝帰りしてるとこ見たんだけど…」
えっ、と声を上げたのは大野だ。
驚いて相葉を見る。
相葉はさらりと
「ああ~あの日?松潤とえっ ちしたよー?」
と笑顔で答えた。
「そ…っそんな普通に言うこと!?」
大野が何故か動揺してオロオロする。
「何でー?別にいいじゃん、独身同士誰にも迷惑かけず好きに恋愛してるんだし!」
「だからって…」
「え、何、おーちゃんやっぱり松潤のこと好きな感じ!?」
今度は櫻井が「えっ」と青ざめる。
「ちげーって、それは無い!でも…え、え、えっ ち…した…とか…」
かああああ…と赤くなる大野に、相葉が噴き出す。
「ひゃひゃひゃ!なーんだ、おーちゃん可愛い~~~!くふふ、恥ずかしくなっちゃったのー?おーちゃんてば純情さーん♡」
相葉がわしゃわしゃと大野の頭を撫で、大野が真っ赤になって相葉を突き飛ばす。
生田は目尻を垂らす櫻井とは違い、ヤケになって酒を一気飲みし始めた。
止める櫻井を尻目に荒れに荒れた生田は、ついに櫻井と大野に絡み始める。
「ヒック…どうせ俺はピエロだよ!俺だけがひとりモンですよーっだ!」
「いや、俺もだから…。」
大野さんもだけど、と櫻井が心の中で付け足す。
「どうせ櫻井も大野くんと同棲してんだろ!」
「はっ?何言ってんの、んなわけねーだろ。」
「嘘だね~っ。この前家行った時すっっげー怪しかったもん。女物のカバンもあったし、チャイムはなかなか出なかったし~!」
「ば…っ、ふざっけんなよ!お、女物のバッグなんてなかっただろーが!!チャイムも宅配便だったろ!?」
櫻井の悪いところは想定外のことに弱く、すぐにテンパってしまうところだ。
「あった!白いの!!それにやましいことないなら普通に出ればいいだろ~!ずっとキョロキョロしてたし、あれは間違いなく女じゃん!!絶対誰か来ないかソワソワしてたじゃねーか!!」
女ではなく神である。
…などと言えるわけがなく、しかし来ないかソワソワしてたのは事実なため狼狽える。
ガタン!
突然大野が席を立つ。
「おいら帰るね。」
「ちょっ…大野さん!誤解っ…」
「誤解?はぁ?別にどうでもいいし。おいら達他人でしょ?櫻井さんが誰とどう暮らしてたっておいら関係ない。」
じゃ、と大野が店を後にする。
慌てて櫻井も追いかけた。
「まって!」
店を過ぎ、人混みの中大野の小さな背中を見つける。
慌てて腕を引くも、バッと思い切り振り解かれた。
「だから、関係ないってば!櫻井さんが彼女がいようが結婚してようが別に言い訳なんて要らないんだから!」
「言い訳なんてハナから必要ない!事実無根なんだから!」
「…だからって、おいらには関係…っ」
「関係ないわけねぇだろ!!!」
櫻井の大きな声が繁華街で響く。
道行く人は少し振り返るも、関係無さそうに通り過ぎていく。
驚く大野はごくりと生唾を飲み込む。
「…俺はあなたが好きなんだよ。それを知ってて、変な誤解されても自分は関係ないって?大野さん、それはあまりに残酷じゃないかな。
今から俺ン家来て、その目で確かめてよ。それで疑われるならまだしも、斗真が勘違いしたことでこんな風に誤解されるなんて絶対に嫌だ。俺は…あなたのことを本気で好きなのに。」
真剣な眼差しと物言いに、今度は大野が狼狽える。
「今…って言われても…」
「今すぐじゃないと意味ないでしょう。もし後日改めて来てもらっても、怪しいもの隠してから呼んだと思われるでしょ。今来てくれないと意味がない。違う?」
少し考えた大野は、
「………わかった。」
と小さく呟いた。
ようやくおうち訪問!