相葉ちゃんがそっと取り出したのは小さな箱。
そこに何が入ってるか、言葉を先に聞いたから何となく予想は出来てる。
理解は一切追いついていないけど。
心臓がバクバクとずっとウルサイ。
だけど…
かぱっと開かれたのは、なんとも不格好なそれで。
「…どうしても…手作りが良くて…その、こんな下手っぴだけど…」
えへへ、と笑う相葉ちゃん。
そういうのはさ
結構高めのやつ買うもんじゃん
給料3ヶ月とかなんとか言って
キラキラのダイヤつけたやつ
売ったら高値つくやつ
そういうのが普通、なんでしょ?
ああ、もう
無理だよこんなの
ダメだ
どんなに相葉ちゃんに飽きても、売れない
売れないじゃん
手放せないじゃん
一生。
「…ヘタクソ…。」
涙が零れるのを隠すため、ぎゅうと案外広い背中に手を回して抱きつく。
「ね、答えは?」
ねぇ、アンタはさ。
言わなきゃわかんないわけ?
こんな唯一無二の最高なプレゼント用意しといて。
「こんな…ヘタクソなやつ…俺以外誰が喜ぶんだよ……っ」
「…くふふ。だからカズにもらってもらわないと、ね?」
相葉ちゃんの大きな手が俺の頭をさらりと撫でる。
「……日本の…グス…法律では、結婚って出来ないの、知ってんの?」
「当たり前でしょ!(笑)でも…パートナーシップなら結べるよ?それに、法律に認めてもらうのだけが結婚じゃないよ。
俺が、カズと!一生一緒に生きていきたいから…。こうやってプロポーズしてるんだよ。それじゃダメ?」
「んなわけ……っ」
相葉ちゃんが俺の身体を優しく包み込むから、俺はそれにしがみついて顔を押しつける。
じゃないと、嗚咽してしまいそうだった。
嬉しくて、幸せで、もうこれ以上なんてきっとない。
将来を不安に思って1人膝を抱くことも、これからは無いんだ。
独りだと、誰もいないのだと
真っ黒で冷たい感情に支配される夜も無いんだ。
そう思ったら、幸せに押しつぶされそうだったから。
「ねぇ、カズ?yesって言って!」
何だ、その皇族みたいなの。
一択かよ。
ふざけんな、馬鹿。
だけど……
答えなんて、決まってる。
ちいさく、ほんのちいさくこくりと頷く。
ああ、耳が熱い。
恥ずかしい。
本当は『大好き!ありがとう!一生大事にする!!』とか言って笑顔を見せる位のことをすべきなんだと思う。
智ならきっと、そう言う。
わかってんのに、そんなこと出来るわけがない。
俺の精一杯は頷くことだ。
憎たらしくて、素直じゃなくて、可愛げがなくて…
こんな俺、いつ愛想つかされても仕方ない。
だけど相葉ちゃんはすげぇ嬉しそうに、
「ほんとっ?!やったー!!一生離してなんてあげないからね!ストーカー宣言覚えてる?どこに逃げたって絶対隣に連れ戻すからっ!!!」
ってはしゃぐから。
全部、わかってくれてるから。
「…こええんだって。」
涙に濡れた顔で苦笑すると、相葉ちゃんが力強く抱きしめてくれる。
「ひゃっひゃ!覚悟しといてね!」
ぐす、と背後で風間が鼻をすする音が聞こえた。
「くふふ!カズ、言っとくけど、まだ泣くのは早いからね!プレゼントはこれだけじゃないよ!ね、風間ぽん!」
相葉ちゃんがうずうずした顔で笑って俺の手を引く。
「…うん、そうだね!さぁニノ、ハンカチの準備しとけよ!」
待って、感動の余韻とか、ほら、もうちょっと、なぁ!
もつれる足をなんとか転ばないように交互に前に出して、2人に連れてこられたのは美術室。
「ほら、開けてみて!」
「腰抜かすなよ!」
なんだよ、それ。
何でお前らのが興奮してんのよ。
促されるまま美術室の扉を押す。
「……う、そ……。」
そこには一面の
………絵。
壁を埋め尽くされた、絵、絵、絵──。
あの夏の思い出が、全て…記憶から飛び出したみたいに。
智で経験したはずのそれは
全て俺の顔になってて。
屋上で風間と相葉ちゃん3人で笑いあって食べた弁当
ヒョロ眼鏡の数学教師に啖呵を切った教室
買い食いしてたむろした細井商店前
テスト勉強で泊まって2人で勉強した相葉ちゃんの部屋
じいちゃんと食べた、俺の作った夕食
ディ〇ニーランドではしゃぐ3人
その帰りの車の中、頭を寄せあって眠る俺ら
夏休み忍び込んだ夜のプール
二人で線香花火をして、告白された海……。
あれもこれも。
全部智の体で経験したもの。
なのに絵の中の姿はすべて俺で。
智が知らないはずのそれで。
「うそ…」
視界がじわりと滲む。
「何で、うそ…ほんとに…?」
声が震える。
わかってる。
俺、わかってるんだ。
「智………っ」
この全てを、誰の手が作り出したのか。
「…呼んだ?」
優しい声が、室内に響いた。