僕たちの道2 | 1年だけ先輩。(基本お山)

1年だけ先輩。(基本お山)

やま。いちご。そうぶせん。

理解した方だけしか読まないでください(笑)
ごにんに心奪われ続け、眠る身体も起き出す状態です。

脳内妄想を吐き出す場として利用しようかなと思ってます。
ご気分害されたらごめんなさい。
※主軸は21です!

※妄想のお話です。

入園式でした。
見知らぬ女の子に「この子すきー!この子とお友達になるー♡」といきなり手を繋がれました。(私が。笑)
きゅんとしました(笑)














「よっ久しぶり。…すごいおにぎりだな…何、罰ゲーム?(笑)」


昼休み、ガランとしたオフィスで声を掛けてきたのは同期の翼だ。


同僚達は皆外食か、下の食堂で食べている。


俺はと言うと必死で残業を減らすべく、ガキんちょ共と同様、きりん仕様の卵焼きの入ったばくだんおにぎりを食べながら片手で仕事中だ。


職場でも憧れの櫻井さんのはずなのに…憐れで泣けてくるぜ。


「久しぶりだな。…ある意味罰ゲームみたいな生活送ってるよ…」


片手で書類にメモ書きをしながら、卓上カレンダーをちらりと確認し納得する。


そうか、今日は月イチの本社定例会議の日か。


普段翼は支社にいるから、顔を合わせることはない。


「なんだよそれ(笑)な、それより今日行ける?」


翼からの誘いは飲みではない。


所謂、女漁りのお誘いだ。


俺らはしょっちゅう良い女に出会うべく狩りの場に勤しむ。


「行けね。すげー行きたいけど無理。」


「んだよ、つれねーなぁ。最近付き合い悪ィじゃん。まさか治ったの?!」


「うるせっ!!!会社で言うな!!」


メールや電話で何度か呼び出されていた。


それでもこの数週間、俺は断り続けた。


理由を聞かれても、それを説明する時間も余裕もなかったのだ。


「……子どもだよ。」


「はっ?!?子どもっ?!?」


「ばっ、声でけぇ!」


翼の大きな声に慌てて口を塞ぐ。


「まてまてまてまて。お前………え……?」


「…ちげーよ!」


「じゃ、じゃぁどういう…」


「…ま、色々あったんだよ…。」


無理だとは思うが察してくれ。


もう俺は疲れたんだよ……。


説明する気力もねぇ……。


「…大丈夫か?」


「ああ、体は至って元気だから心配すんな。ただちょっと、精神的にな…。」


「だから気分転換しよーっつってんじゃん!すげーいい女見つけたんだよ。ほら、パチンコ屋の裏手の小さいクラブ!あそこによく出没する、清楚系なのに色気振りまいてる巨乳の女。どう?興味ない?」


「…ほんと、行きたいのは山々なんだけど無理なんだって…」 


勘弁してくれ。


ただでさえ溜まってるっつーのに、そんな申し出。


今の俺は、甘い誘いに乗る訳にはいかねんだよ。


可愛い甥っ子達を置いて外出なんてアリエナイ。


くそ生意気だけど…そこはね。


当然、可愛いし、大事にしたいと思ってっから。


怪訝な顔の翼の肩をぽんと叩いてお茶を買いに向かう。


…卵焼き、もう少し塩少なめで砂糖多めにしよう。


しょっぱい。


つーか焦げててにげぇ。




「櫻井さん!こう毎日毎日遅れられては困ります!」


必死こいて昼も仕事して、残業終わりに駆けつけて毎度これだ。


明らかに歳下の若い保育士に叱られるのは精神的に更にきついものがある。


『のぞむせんせい』と書かれた胸のバッチには花ときりんがついており大変可愛らしく、濃ゆい顔&高身長&関西弁とはかなり不釣り合いだ。


「すみません…今仕事が…」


「お仕事熱心なのはエエことや思いますけどね、子どもはずっとお父さんお母さんのお迎えを待っとるんですよ!それに…僕らも何時間も待てる訳とちゃうんですよ?!」


「…はい、すみません…」


「大体、お弁当も!もう少し野菜をお願いします!あんなん2人が可哀想です!」


ペコペコと頭を下げるも、毎日毎日あの粗末なおにぎりでは流石の保育士も堪忍袋の緒が切れたようだ。


事情が事情だからと黙認してくれていたが、もはや庇う余地がないと判断したのだろう。


というか庇う対象が代わったのだ。


確かにどう考えても可哀想なのは和と潤の方なわけで。


しかし頑として主張したいのは、俺のせいでは決してないということだ。


「雅紀くんも小学校帰りに園に駆け付けて一生懸命あやしてくれてますが…多分ああ見えて不安を抱え込んどると思いますよ。気遣ってやって下さい。


…親とちゃうのに、っていうお気持ちは分かりますが、あなたは今親代わりなんです。それがあの子達にとったら全てなんです。」


小瀧先生は痛いところをつく。


そんなこと、分かってる。


だけどどうしようもないんだ。


この状況に俺が一番戸惑ってるんだから。


「…とにかく、何か対策を。櫻井さんのご両親が他界されとるんなら、お姉様が別れた元旦那さんにでも…」


「アイツらの父親は海の底か海の向こうか知りませんが連絡がつきません。」


なんせヤクザに連れてかれたからな。


内臓が色んなところに旅行してる可能性が高い。


「…ほんなら…元旦那様のご両親は…」


「詳しくは知りませんけど、父親がアルツハイマーで施設にいて母親は亡くなっています。うちも向こうも、頼れる親戚もおりません。」


つーか、出来るならとっくに頼ってるわ。


「………そうですか…。…分かりました。ホンマはこんなこと勧めたくないんですけど。」


小瀧先生が戸惑いがちにエプロンのポケットから紙ペラを取り出す。



「児童施設に入れることを検討しては如何でしょうか。…きっと…櫻井さんもいっぱいいっぱいだと思うので。今よりはお互い良い暮らしが送れるかもしれません。」



…はぁっ?


児童施設……?


アイツらを、施設に入れろって…?


「そん…っ」


「子供達に一番良い選択肢を!…選んだって下さい。優先すべきことは、体裁や空回りする愛情ではないんです。」





ふざけんな


ふざけんなよ



そんなこと出来るわけねぇだろ…!



そう言ってやりたかったのに、何も言えなかった。


施設の案内をぐしゃりと握り締め、無言で頭を下げた。



今より良い暮らし。


施設に入ればきっとあんな焦げた卵焼き入りのばくだんおにぎりを食わなくて済む。


夕飯だって、ほか弁ではないだろう。


野菜たっぷりで栄養バランスの整ったもの。


皆と一緒の時間のお迎え。


雅紀の負担も減る。


子育てをしたことの無い人間が突然するよりもきっとずっと気が回り、環境もだいぶ整ってる。


俺の家には子供用の椅子もテーブルもないし。


…俺と一緒にいることで、アイツらの苦痛になってるのだろうか。


そういや、アイツらが俺と一緒にいたいはず、だなんて思い込んでいたけれど


俺は親ではない。


ただの思い上がりではないだろうか。


施設は…


アイツらの…ため……。



「…ちゃん…翔ちゃん!」


ハッと我に返ったのは雅紀の大きな声。


夕飯にコンビニで人数弁の弁当を買ったところだった。


「わり、何だっけ。」


「…おしごと。忙しいの?」


雅紀は心配そうに俺を覗き込む。


緑色のランドセルがカタリと揺れる。


何も入ってないことが丸わかりの軽い音に姉貴の血を感じて苦笑する。


「いや…まぁ、うん。そうだな。忙しいよ。だけど…遅くなって悪かったよ。」


「本当ですよ。せんせーだって帰る時間があるんだから。」


「…さーせん。」


返す言葉もない。


3週間だ。


そろそろ…限界かもしれない。


俺じゃなくて、こいつらが。


「…あのさ。俺と一緒にいても…大変か?」


「…え?」


「その…児童施設とか、さ。選択肢としてあるってことだよ。お前らが辛い思いするなら──」


言い終わらない内に、バシン!と投げつけられたのは園バックだ。


潤が俺を涙目で睨みつけ、ぷるぷると震えている。


「翔くんは…俺らがジャマなんだ。」


「はっ?だから、そうじゃなくてお前らのために…」


「…翔ちゃんのキモチは分かりました。なら、もういいです。」


和も珍しく涙ぐんで怒りに震えている。


誤解させてしまったことに慌てて訂正する。


「違うって!聞けよ!俺はただ…」


言い終わらない内に双子2人は


「「もういい!」」


と駆け出してしまった。


「待てって!」


追いかけようとすると雅紀が同じように止めようとして俺とぶつかり、転ぶ。


「いたっ!」


「ご、ごめん雅紀!」


ぐしゃりと買ったばかりの弁当が潰れる。


子ども用の弁当はキャラクターの入れ物で、見るも無惨な姿になっている。


上手くいかない。


仕事も。


料理も。


アイツらとの意思疎通も──。


「…くそっ…!」


ダメだ。


ダメだよ姉貴。


俺は何一つ上手くやれない。


5年もなんて、無理だ。


俺じゃ無理なんだよ…。


守りたいって、大切にしたいって、そんな気持ちだけじゃ……。


「翔ちゃん……俺ら邪魔?」


「…悪い、誤解させて。お前らのためになるかと思ったんだ。邪魔になるなんて全く思ってないから…ただ、俺が上手く出来ないから…。」


「…くふふ、そっか!ならよかった!和も潤も、ちゃーんと話せばわかってくれるよ!」


「…サンキュ。」


雅紀を起き上がらせ、汚れを払ってからふと気付く。


「……アイツら、何処行った……?」



見渡しても、暗闇に動く影は見当たらない。


サーっと血の気が引くのを感じた。