何日くらい経ったのだろうか。
お風呂も1人で入れるようになった。
どこを洗いどう過ごすのか、翔くんに教わって学んだ。
1人は少し寂しいけど、『普通』大人は1人で入るらしい。
(僕の年齢は分からないがいわゆる『1人で入る年頃』の見た目らしい。)
雅紀くんに言われた。
人間に馴染むためだ、仕方ない。
だけど…寝るのは一緒でもいいらしい。
これは翔くんに言われた。
人間の生活というものは線引きが難しい。
「人間が板についてきたな。」
ベッドで勉強がてら簡単な本を読んでいると、カラスが突然寝室に現れる。
翔くんが入れ替わりに風呂に行ってからだ。
《板について…?》
手で四角を表し、板を表現するとカラスはくつくつ笑う。
「バカ、慣れてきたってことだわ(笑)お前本当に人間かよ!」
《僕は死神なんだから分からなくて当然だろ!寧ろ人間と関わりない監査官が何でそんな難しい言葉知ってんだよ?》
「あぁ…そうだったな。ま、細かいことは気にすんな。」
苦笑するカラスに違和感を覚えつつ、そういえば、と思い出す。
《悪魔がどうとか言ってたけど、大丈夫なの?》
「あぁ…」
カラスは小さく溜息をつく。
「まぁ…ぼちぼち、って感じかな。今ターゲットになってる奴は救えたけど…どうも本気じゃないと言うか。違う目的がありそうでさ。本命は他にいるような…」
《違う目的…本命…?》
カラスは眉間に皺を寄せ、じっと何かを考えて、はたと我に返ったようにコホンと咳払いする。
「お前は今そんなこと気にしなくていーんだよ!櫻井翔のことだけ考えてろ!」
元々は僕の担当地域なんだから!
まぁ、人間になってるんだから確かに今悪魔対策が何か出来るとは思えない。
《…櫻井翔はどうして自殺したんだろ。》
ぽつりと、独り言のように呟く。
優しく、お金持ちで、整った顔をしていて…
何不自由無く生きているように見えるんだけど。
時折見せる寂しい顔。
何かを諦めたような、見てるだけで何故だか胸が締め付けられるような顔。
あれは一体、なんなんだろう…。
「…それを考えるのが調査なんじゃねーの?」
ぽん、と頭に手を置かれる。
《さりげなく聞くって難しいよ。》
「仲良くなりゃ自然に教えてくれるだろ。それまで、自分の気持ちに素直になってればいいんじゃねぇか?」
《気持ちに素直に…って。僕は死神なんだから、気持ちも何も…》
「触りたい、とか。キスしたい…とか…ねぇの?そういう、人間の欲望的なの。」
触りたい?
キス…?
《それって、確か男と女のやつでしょ?》
「いや…最近は同性も多いみたいだぞ。この前悪魔が取り憑いてた奴も同性のこと好きで…げ、やべ!そろそろ戻るわ、ターゲットが仕事終わる時間だわ!」
死神代行のカラスは、ふわりと身体を浮かせて消える。
何か申し訳ないな…忙しそうで。
にしても、そういう関係が男女だけでないとは。
勝手にそうだと思い込んでたから驚いた。
触れたい、とは正直思う。
翔くんの手はスっと僕の腰に回りいろんな場所へ誘導してくれる。
その度にむず痒い気持ちになる。
手を繋いでくれることもある。
優しく、妙にあったかい。
もっと触って欲しい。
もっと触りたい。
服越しなんかでなく。
人肌、というやつは気持ちがいい。
風呂で洗ってくれた時も、初日の裸でおんぶしてくれた時も…生身の生きてる人間は温かく、肌が触れ合うと酷く安心する。
あと、キスとか言ってたっけ。
キスって…口と口当てるやつ、だよね?
よく死の間際に夫婦間や恋人同士で見るやつだ。
口当てて何が楽しいんだろって思ってたけど…
見ていて、特別な行為ということは分かる。
そっと自分の唇に指を当てる。
ふにゃりと凹むそこ。
ここに、櫻井翔の…唇が……?
てことは必然的に顔がアップになって、あの円な瞳が目の前に………
──サトシ……
翔くんの低い声が耳奥に響く。
ずくんっ…!
な、な、何これっ……?!
今何が起きた?
おしっこ行きたくなったような、そうじゃなくてもっと奥がムズムズ……
ちらりとパジャマとパンツを引っ張ってみると、そこにはまるで庭で取った人参みたいなものが!
え~っ!!!
なにこれなにこれなにこれ!!!!!
ツン、と触ってみると、ビクッと身体が勝手に跳ねる。
か、硬い?
そして身体に直結している…!
も、もしかして毒とか…病気…?
てことは…病院に入院して……
もう、翔くんと会えなくなっちゃうの…?
やだ~~~~~~~~~~っ!!!!
誰か助けて~~~~~っ!!!!!!!