「次は君の番。約束守ってよ。」
「俺…?」
「忘れちゃったのー?酷いなぁ(笑)…君の前なら、俺は…無理して笑わなくても、泣いてもいいんでしょ?」
──俺の前では…無理して、笑わなくていいから。
──笑うのに疲れたら、俺のとこ来て泣いていいから…。
智の身体で言った、俺の言葉。
相葉ちゃんの目には…初めて見る涙。
パレードの光を受けて、キラキラと輝く。
…俺の涙も、そんな風にあなたに映っているのだろうか。
ぼんやり働かない頭で考える。
「本当の俺は…短気で、結構嫉妬深くて、蛇みたいにしつこくて、めっちゃくちゃ意地っ張りで、結構煩くて鬱陶しいと思うけど。それでも、本当の自分を君の前でさらけ出していい?」
…何、それ、キモ。
すげー怖いんですけど。
…って、憎まれ口を叩きたいのに、嗚咽を飲み込むのに必死で何も出ない。
何なの、それ。
いいかな、なんて
聞くまでもないだろ。
…この馬鹿っ!
返事を口にすることなく、ぎゅうっと目の前の人を抱き締める。
伝わってよ。
伝えきれるわけがない程の感謝の気持ちを。
受け取ってよ。
形になんて、口になんて出来るはずのない位 重たい俺の大きすぎる想いを。
「ねぇ…もう1つ約束、覚えてる?」
「……。」
「俺さ、誕生日なんだ、今日。」
── 誕生日…約束。一緒に行こう。ポップコーン持って、また耳もつけてさ。
──…今度は二人きりで。ね?
知ってる。そんなこと。
だから入ってるんだ。
あなたを感じたこの場所に。
あなたと過ごしたこの場所に。
きっと隣に綺麗な恋人を連れてくるって、覚悟してたけど。
『メリー、クリスマース!』
ネズミのキャラクターの乗ったフロートが通り、その声が周囲に響く。
思わず相葉ちゃんと振り返る。
客席を…たまたま俺らの方を指さし、手でハートマークを作ってる。
相葉ちゃんが嬉しそうにぶんぶんと手を振る。
「くふふ…。ずっと探してた好きな子を、自分の誕生日、クリスマスイブに、しかも雪が降ってる中見つけられるなんて…俺ら超ロマンチックじゃない?!ミッ〇ーまで祝福してくれてるし!」
相葉ちゃんがあの頃と寸分たがわぬ無邪気な笑顔を向ける。
寒さと涙で真っ赤な、トナカイみたいな鼻で。
「…バカじゃないの。」
涙を拭うのも忘れ、思わず笑う。
おそらく俺も…トナカイみたいな鼻で。
ああ、何も変わってない。
ほんとに。
9年だよ?
お前26でしょ?
俺の1個上なんでしょ?
でも…
そういうとこ、やっぱたまらなく好き。
大好きだわ。
「ね、プレゼントくれる?」
「…まさか、会えるなんて…思ってなくて…。何も…用意、してねぇもん……」
鼻を啜りながら、後悔する。
会いたいとは、そりゃ思ってたけど
こんなの予想してなかった。
奇跡が起こることを望んでたくせに、そっちの覚悟は出来てなかった。
「用意なんて要らないよ。俺の欲しいものは決まってんの!ね、いっこ、聞きたいことあるの。」
通りをゆっくりと走る、色とりどりのパレードのフロートが目に入る。
そこには、オレンジ色の魚。
──ニノっ!
奇跡から始まった友情。
奇跡で生まれた恋心。
奇跡で…いや。
相葉ちゃんの努力で。
風間の優しさで。
智の気持ちで。
やっと出会えた、愛する人。
真っ暗だった。
夢なんてものも、希望なんてものも。
俺の人生にはなかった。
ただ、毎日目の前のことに必死でしがみついて生きていた。
身寄りのない俺に残された道は、そもそも選べるものでもなかったから。
死ぬ勇気も無ければ、いっそ楽しもうというポジティブな転換も出来ない。
ただ、漠然と生きるだけだった。
だけど、その先には
智がいた。
風間がいた。
そして、あなたがいた。
暗闇に突然現れた一筋の光は
やがて2つ、3つと雲の割れ目から太陽が射し込むように
いつの間にか真っ暗だった俺だけの世界に、燦々と降り注いだ。
あなたがいない間だって、不安はあったけど、ずっと寂しくなんてなかったよ。
だって俺は太陽を知ったから。
愛を、知ったから。
ああ、
やっとスタートラインに立てた。
あなたとの関係の。
なぁ、智は?
愛する人に、会えた?
気持ちを、伝えられた?
…俺はまだだよ。
何にも言えてない。
俺の想いの何億分の一も、伝えられてないよ。
でもさ。
見つけてくれたから。
約束通り、探してくれたから。
今からでも、遅いなんてことはないよね?
どんな関係でもいい。
あなたと一緒なら。
「聞きたい、こと…?」
「もうね、ず~~~っと知りたかったの。」
相葉ちゃんは少ししゃがみ、
俺の顔を真正面から覗き込み、
俺の目尻の涙を拭いながら優しく笑う。
「──君の名は?」
さぁ、始めよう。
今、ここから。
END
ご愛読、ありがとうございましたー♡
あとがきをまた後でアップしまーす!