「遅いよ。」62 | 1年だけ先輩。(基本お山)

1年だけ先輩。(基本お山)

やま。いちご。そうぶせん。

理解した方だけしか読まないでください(笑)
ごにんに心奪われ続け、眠る身体も起き出す状態です。

脳内妄想を吐き出す場として利用しようかなと思ってます。
ご気分害されたらごめんなさい。
※主軸は21です!

※妄想のお話です。


昨日ここまで上げようとしてたのに…
疲れすぎて無理でした。
昨日ね、広い公園で四つ葉のクローバー見つけたの🍀(*^^*)
で帰ったら電話地獄してたw
マジで疲れたw

皆様にもお福分け♡
息子「まぁーたママよちゅばのくよーばーさがしてるのー?!んもー、ママはー!しあわせ、ないのー?るぅくんがおってくえゆ(いてくれる)よ!ほや!ぎゅー!」
大きな声で言われて恥ずかしかった…笑
幸せに飢えた母親w







「Puis-je avoir un siège?(相席よろしいですか?)」


「…あ、どうぞ。」


突然かけられた声に顔を上げると、髪を明るく染めてるけどアジア人で。


思わず日本語で返してしまった。


スケッチブックをぱたりと閉じる。


「あ、やっぱ日本人ですか?嬉しいな、こんな所で会えるなんて。」


「んふふ、おいらも。」


明るい髪の色をした青年は柔らかい笑顔で、向かいの椅子を引く時甘い匂いがした。


「あなたよくここに居ますよね?通る度いるから、日本人かなって気になってて。」


「…待ってるの。人を。何年も、ここで…。」


「…恋人?」


「ううん。片想い…いや、両想いになったけど…うーん…とにかくまだ会ったことはない人なの。」


「何それ(笑)」


青年はクスクス笑う。


「俺はね、ずーっと好きな人がいて…。その人のためにパリに来たんだ。こっちに来て4年になるよ。」


「この近くにその好きな人がいるの?」


「いや、日本。しかも失恋済み。」


「何それ?」


思わず首を捻ると、青年はお互い謎だね、と笑う。


「…あ、これchocolat(ショコラ)?もしかして甘いもの、好き?」


指さされたのはテーブルの上の、日本で言うところのココア。


「そ、chocolat。うん、甘いの好きだよ。こっちのコーヒー苦くって。」


フランスで普通にコーヒーを頼むとエスプレッソが出てくる。


最初頼んで、あまりの苦さに驚いた。


「俺、近くのラトゥリエ・ド・ボネールって店でショコラティエの見習いしてるんだ。良かったらまた顔出してよ。」


店の名刺を渡される。


おいらでも知ってるチョコレートの有名店だ。


「わぁ、気になってたとこ!必ず行くね。」


「ありがと。俺は小動爽太。よろしく!」


「あ、大野智です。」


握手を交わし、ちらりとテーブルの閉じられたスケッチブックを見られる。


「本読んでたりもするけど…よく絵を描いてるよね。絵描き?」


「いんや…あー、まぁ、趣味に毛が生えた程度かな。隣の書店でバイトしながら描いてる。」


「へえ、だからいつもここらへんで見るんだね!俺本とか読まないから入ったことないや。何か有名な映画のロケ地なんでしょ?」


「んふふ、そうだよ。」



シェークスピア・アンド・カンパニー。


その書店はセーヌ川のすぐ側にある。


その隣に、テラス席のあるカフェ。


何とかその書店でバイトをすることが出来たおいらは、仕事終わりや仕事のない日は出来るだけカフェのテラスで過ごしている。


暑くても、寒くても、必ずテラス席。


いつの間にか、おいらの定位置みたいに店員さんがわざと席を空けといてくれるようになった。


『夕暮れ時の“坊ちゃん”』と呼ばれていることも知っている。



「見ちゃダメ?絵。」


「ふふ…ダメ。恥ずかしいから。」


「わかった、その待ってる人の絵でしょ?」


「…言うなよぉ。」


爽太くんはクスクス笑って、会えるといいねって言ってくれた。



それから見かけるたびに声を掛けてくれるようになった。


こちらで初めての日本人の友人。


フランスに来てからじーちゃん以外の日本人の友達なんていなかったから、すごく嬉しかった。




そして、じーちゃんは2度目の手術から1年後…


おいらの事故から7年後に無事退院して。


なんと、15歳も下のフランス人の看護師さんと結婚した。



じーちゃんに先に結婚されるなんて、夢にも思わなかった。


まぁ、おいらの恋は万が一上手く行ったとしても日本では結婚出来ないわけだけど。


それにしても、それはめちゃくちゃ予想外の出来事で。


すっかり元気になり若返ったじーちゃん曰く、「なかなか住みやすい街だから」とパリに住むことにしたらしい。


新しいフランス人のばーちゃん(…って呼んでいいのか分かんないくらい若いんだけど)は、日本での生活も厭わないと言ってくれてるからこの先は分からない。


だけど、今のところパリで楽しそうに暮らしてる。


日本の家は放置していいって言ってるけど、原っちのおっちゃん達が定期的に空気の入れ替えをしてくれてるみたい。


いつでも帰ってこいよ、って言ってくれてて、その気持ちが本当にありがたい。


だけど当のじーちゃんは、奥さんとラブラブ過ぎておいらが一人暮らしを始めた程。

(じーちゃんがあんなデレデレイチャイチャする人だとは全く知らなかった…。)



で、おいらはと言うと。


じーちゃんの入院中、病室で暇つぶしに描いてた絵が、たまたま同じ病院に入院してた画廊経営の人の目に止まって、絵描きとして僅かだけど生計を立てられるようになったのと、


…翔くんが来てくれるんじゃないかって期待してるから、書店でバイトをしながらパリに居座っている。



期待し過ぎちゃいけない。


だけど、手紙に書いてしまった。


期待を込めてしまった。


本当は書くべきじゃなかったんだ。



会いに来て、なんて。



翔くんは自由になれるんだから、おいらなんかを相手にするはずがない。


そう思ってるのに…



いや。


本当はそう思ってないから。


来てくれるって、心の奥底で信じてるから。


数文を付け足したんだ。


あれがおいらをこの地へ縛り付ける。


絵の件もあるし、ここでの暮らしも結構気に入ってるから、別にいいんだけど。



季節は巡り、


また、9/15がやってきた。


あの事故から8回目。


つまり、9年目の9/15。



映画で主人公の2人がすれ違い続けた年月だ。



翔くんは、Before Sunsetの意味に気付いたのだろうか。


仕事を終えて隣のカフェのテラスへ移動する。


空は青と赤が混ざり始めている。



いつもの、と注文し、当然のように届くショコラ。


何年もほぼ毎日来てるから、店員さんとも全員顔見知り。


ショコラはそのまんま、チョコレートの意味。


日本のココアよりもずっと甘い。


きっとあまり甘いものを食べない翔くんは、甘過ぎるって顔を顰めるだろう。



スケッチブックをいつものように取り出す。


だけど今回は白紙のない過去のもの。



忘れることの出来ない翔くんとの思い出を、ひたすらそこにぶつけている。


ノートパソコンで作業する後ろ姿。


イニシャルの刻まれた、ガラスの靴。


あの時溶けてしまったアイスクリーム。


お父さんに呼び出された時のスーツ姿。


花火を見あげる横顔。


ニノの手で、繋いだ手。


揃えた食器。


翔くんのだけ解(ほつ)れてきてしまった部屋着の裾。


独特なシャーペンの握り方。


笑っちゃうような撫で肩。


並んだ歯ブラシ。


力はそれほど無いらしい、翔くん曰く、見せかけだけの腕の筋肉。


掻きむしった荒れた肌。


無防備に眠る顔。


つられちゃうような誘い笑いの大きな口。


特徴的な形の眉毛。



優しい笑顔。



思い出をぶつけたスケッチブックの数は2桁を超えてしまった。


翔くんと過ごしたのは、たった2ヶ月だった。


だけど…



今のおいらにとっては、それが全て。




…来るかな。


流石に、来ないかな?


期待しちゃダメだ、自分。


翔くんは、飛行機に乗れない。


トラウマは…簡単に克服出来るものじゃない。


去年も来なかった。


それに、もう忘れてるかも。


その方がいい。


普通に恋して、普通に結婚して、子供ができて…


楽しい生活を送ってくれてることの方が、きっと、ずっといい。



「1冊目…懐かしいな。」


何冊続くかもわからず、だけど溢れる気持ちは多すぎて…No.1と表紙に書いたそれ。


何となく、今日はこれを持ちながら待っていたかった。


1番最初に描いた絵に、願いを、希望を込めて。


翔くんを待つって決めて、最初に描いた1冊…。



その時、スケッチブックに影が落ちる。



「あ、の…」

 


ドキリ、心臓が跳ねて、止まる。


顔なんて見なくたって、分かる。





「…もしかして…さと、し…?」





ずっと夢見てた、


大好きな人の気配や、声なんてものは。