「遅いよ。」52 | 1年だけ先輩。(基本お山)

1年だけ先輩。(基本お山)

やま。いちご。そうぶせん。

理解した方だけしか読まないでください(笑)
ごにんに心奪われ続け、眠る身体も起き出す状態です。

脳内妄想を吐き出す場として利用しようかなと思ってます。
ご気分害されたらごめんなさい。
※主軸は21です!

※妄想のお話です。


一挙出し第4弾★
結構頑張って一気に書いたでしょ?(笑)
この辺で一旦休憩~。
…ダメかな?( ̄▽ ̄;)
今回は、初のこの人視点です!








-A-

俺は

智に


ひとつだけ、嘘をついている。









父親の経営するのは、大きな総合病院だ。

親父は医師ではない。

経営者だ。

褒められた事業拡張ではない汚いやり方で、優秀な医師を囲い、都合の悪い個人病院や薬品会社を買収したり廃業に追い込んだり、色んな闇を抱えながら成功させた。

だから俺は跡を継ぐことには後ろ向きだった。

俺は元々、従兄のように教師になりたかった。

高校の時は反発しまくり、教育学部を受ける気でいた。

だが、今は経営学を学んでいる。

更に事業を拡大しようと、一人息子を政略結婚させるため、見合いを何度もさせられている。

それでよく親父に呼び出されていた。

大学生の身だ、色んな理由をつけて断ってはいたが、それもそう長くは続かないだろう。

因みに智についている嘘というのは、それではない。

この件は口にしていないだけだ。

ただ、いずれ俺は親父の言いなりに結婚するしかないと思っていた。

俺は、少年を身代わりにして生かされているのだ。

幸せな恋愛なんてする資格がない。

夢なんて追う権利がない。

生かされた人生は、せめて誰かの役に立つものでないといけないと思っていたから。


二宮を買ったのは、ストレスの捌け口がなく追い詰められたから。

幸福になってはいけはい。

最低な人間なら、最低な生き方をすればいい。

二宮に対しても、人として扱わないようにすればいい。

そうしたら自分を容赦なく軽蔑できる。

『こんな俺は自由に生きる価値なんてない』。

俺はそうやって納得させ、自分を保っていた。


智を認識したのは、そんな時だった。



広場に呼び出された当日。

智の答えというものが、どういう形で下されるのかは皆目見当がつかない。

今日は二宮のはずだ。

ならどうやって?

考えたって答えは出ない。

だから、少しでも早く待ち合わせ場所に行って、心を落ち着かせたかった。

ソワソワするのは、家でも広場でも一緒だ。

いつものようにタクシーで行きかけ…

少し手前で降りて、歩く。


ちょうど事故現場で、足が震える。

あの時の記憶が、フラッシュバックする。


──どうして彼は、あの時笑ったのだろう。

いくら考えても、今は亡き彼の意図はわからない。


二重人格の『意識』の智。

だから好きになった。

だから心を許してもいいと、勝手に自分のハードルを下げた。

俺は誰かに寄り添って生きる権利なんてないはずなのに。

心を許し合える友や恋人を作っていいような人間ではないはずなのに──。


だけど

どうしても歯止めが効かなかった。

純粋無垢にするりと俺の内側に入ってきた智は、心に強く残った棘を内側から温かい光で溶かしていくようだった。

『居ないから』好きになった智を

『居て欲しい』と思うようになった俺の罪。



時間は、すぐに訪れた。

昼頃から待っていたのに、あっという間に陽は赤みを増す。

『来る』のか、

『知らされる』のか、

それとも『来ない』という形でフラれるのか…

俺には予測がつかない。

そわそわと落ち着かない時間だけが、当然ながら心無く過ぎていく。


6時、7時を知らせる鐘が鳴り響く。

一向に何も起こらない。

これは…『来ない』ことでフラれたということだろうか?

それでも俺はその場を立ち去ることが出来ずにいた。

通行人は、それぞれの人生を自分の足で歩み、目の前を通り過ぎていく。


…なら、俺は?

俺はこの足で、ここから、どこに行った?


あの日から俺は

この場所からどこにも動けていない。




──智は実在している。


二宮が現れ、そう告げられ、わけもわからず田舎町へ移動した。

混乱した頭では到底理解できないような状態。

だけど、それが現実なのだと言われると妙に腑に落ちた。

細かすぎる智の記憶や、最新機器は知らないのにある程度の生活知識はあるところとか。

知らない情報に新鮮に驚く姿は、田舎町に住む高校生そのものだったから。

そう考えれば全て辻褄が合う。

だけど。


「櫻井さんっ……6年…っ時間が……!」

二宮に言われて、俺はひとつの可能性が頭をよぎった。

「6年…だって?」

元々、『大野智』と言われた時に頭のどこかに引っかかっていた。

嫌な予感が、した。

「どうしたのよ?」

「いや…気の所為だと、思いたい…だって智は今海外って……生きてるって……」

そうだよ。

分からないことだらけだけど、そう言ってたじゃないか。


そんなわけ、ない。

必死に自分に言い聞かせる。


『Before Sunset』というタイトルには、覚えがあった。

智と映画をレンタルしようとした時に、好きな映画の話になったのだ。

一緒に観ることはなかったけど、記憶に残っていた。

曖昧な空。

パリの風景。

智の技術が、丁寧に詰め込まれているような気がした。



二枚目の二宮宛の絵を見て、俺は心底驚いた。

そこに見覚えのある顔があったからだ。

「…知ってるって…相葉ちゃん?」

二宮が聞いて、その名に驚く。

「相葉…?こいつが?相葉くんには…弟は?」

「いないよ。一人っ子なはず。」


──死んだ。


確かに彼はそう言った。

弟じゃなかった?

なら、あれは……


目眩がした。

思いすごしであってくれ。

真っ青になったのだろう、二宮が心配そうに俺を覗き込む。

「ねぇ、大丈夫?どうしたの?」

「二宮…智の写真とか…ないか…?」

「写真?んなもん…俺の手持ちにはないよ。」

「そう…だよな。…どうしたら……あっ!」

やっと存在を思い出し、リュックから缶を出す。

智は自画像を描いていた。

その缶には4桁の暗証番号がついている。

「…それは?」

「智が…これ、持ってきてって…あの日……」

「…開けなよっ!託したってことは、見て欲しかったってことでしょ!」

しかし、暗証番号がついたそれに俺の手が止まる。

「俺、なんも知らない…誕生日も…大事な日も…」

「智の誕生日は11/26…」

1126…開かない。

「櫻井さんの誕生日は?」

「教えてない…」

「いいから!」

櫻井さんが0125と入れる…勿論、開かない。

相葉くんの誕生日を入れるも、開かない。

「…他、2人の記念日とかねーの?!あ、ディズニーいった日は?!」

「えーと、0…7……」

その日も違う……。

堅い錠は素知らぬ顔で唯一残る一筋の光を遮っている。


「…あの日…智は何を伝えようとしたんだろう。」

俺は手を止め、空を見上げる。

雲で覆われた空は、今にも降り出しそうだ。

どんよりと気分と共に暗くさせる。

「…その中身って、何?」

二宮が小さく尋ねる。

「…智の自画像。俺が頼んだんだ。二重人格の『記憶』の中と…顔が違うって言うから。…あの時も…俺は智を傷つけてたのかな…。」

思わず苦笑する。

何も知らずに、俺は実体がないから話せるだとか、何度も漏らした気がする。

「…開かない方が、いいのかもしれない。」

智は番号を俺に教えなかった。

それが答えじゃないか。

それに…怖いんだ。

俺の浮かんでいる可能性。

俺が──


もし、『6年前』に智に会ったことがあったとすれば。


その顔を、知っていたとすれば。



それは恐ろしく残酷な現実だ。



「…智は。始めようとしてたんだよ。」


二宮は6年前の事件を知らない。

意を決して口を開いたような二宮の声に、視線を向ける。

「櫻井さんと。新しい関係を。俺を通してじゃなくて、新しい自分で、櫻井さんと会いたかったんだよ。…意味、わかんでしょ。」

「………。」

始めようと、していた?

俺と……?

「本当に番号、分かんないの?櫻井さんにしか分かんないよ。きっと。」

俺は暫く黙って

そして、指をゆっくりと動かした。


カチリ。


錠が軽い音をして外れる。

二宮と顔を見合せ、中からスケッチブックを取り出す。



俺は智に嘘をひとつだけついている。


──夢見てた。智の。

──ほんと?

──うん…。高校生の智の夢。イメージの顔つき。



あの時の夢

本当は


智の顔は、事故で亡くなった子の顔だったんだ。


そんなこと言うべきじゃないと思って、嘘をついた。

俺の絵は元々下手くそだけど、イメージしているものから更に適当に描いたから、智に笑われたっけ。




スケッチブックをそっと開くと…



俺は、泣き崩れた。




「何でだよ…智まで……

嘘ついてたのかよ………。」




そこには、


細部まで丁寧に描かれ


愛情に溢れた、


智を見つめる智視点の


『俺』の笑顔と



「翔くん、だいすき」



の文字が、描かれていた。