【Side 大野】
ニノもすぐに合流して、岡田と侑李に自己紹介をして。
正式に、岡田と侑李も手伝ってくれることになった。
新チームを組むことは企画書では提案していないから、今の仕事を抱えながら、ということになる。
それでも2人は快諾してくれた。
岡田は施設企画の社内の立ち回りを松潤と担ってくれることになった。
俺が細かい打ち合わせとか現場との架け橋に集中出来るように、ということで。
侑李は実はシステム組むことが出来るみたいで、ゲームの方を手伝うと名乗り出てくれた。
あと、櫻井さん曰く…山際さんもゲームの方を手伝ってくれるみたい。
山際さんに用があって遅れたのは、これだったのか。
パソコンに関してはプロだと思うから、山際さんは百人力だって言ってた。
ちゃんとは話してないけど、ざっくり簡単に計画のことを説明してくれたみたい。
後日きちんと俺の口から話すことになってるから、本当にざっくりと。
…それにしては櫻井さんが来るの、遅かったような気がするけど。
俺ら、寄り道してからここに来たんだけどな。
とにかく
少しずつ、少しずつ。
皆のおかげで、人の輪が広がっていく。
クビになり、捕まる覚悟すらあったのに。
侑李と山際さんのおかげで免れて。
ダメだと思ってた企画も、東山さんや松岡さん、零治おじさん、色んな手助けがあって首の皮1枚繋がった。
佐藤くんが、実はまぁくん達とも繋がっていて。
まぁくんと岡田は、付き合っていて…だから岡田も素早くフォローしてくれて。
嘘みたいな奇跡が、俺達の背中を押す。
それと……。
「…え?」
「当たり前でしょうが。潤に今日のこと全部聞いたよ。もう拒む理由、ないんでしょ?」
色々話して、帰ろうとタクシーを捕まえたところで、ニノがニヤッと笑う。
「そりゃそうだな。さっさと済ませちまえ。また襲われても俺や松岡さんが助けに入れるとは限らねぇんだぞ。」
岡田が意地悪く笑いながら、まぁくんになぁ?と同意を求める。
「そーだよ!一生に一回のことじゃん?それにね、」
まぁくんが俺の耳に口を寄せる。
「項 噛まれんの、めちゃくちゃ…気持ちいいから!」
「ま、まぁくん!!」
真っ赤になってる俺を、皆が不思議そうに見る。
番になれ、だなんて…。
ずっと「ダメー!!!ダメですよ!!!絶対ダメです!!!!」って侑李が止めてるけど…。
「でも…こんな迷惑かけておいて…」
今日の出来事は全部俺のせいで、ひたすら皆に迷惑をかけてしまったわけで。
そんな状態で、月曜に能天気に噛み跡つけて出社なんて…皆に合わせる顔がない。
松潤が俺に微笑みかける。
「言っときますけど、この期に及んで『申し訳ない』とかやめてくださいよ?」
「…松潤…」
「俺のためにオメガだってバラしてくれたんでしょ?なら、俺の名誉回復のためにもさっさと番になって下さいよ。」
「松本の言う通りだな。馬鹿みたいに意地張ってないで、幸せになれよ。」
──ったく、頑固はこれだから…。
そう言いながら笑う岡田の腕に、まぁくんがぎゅっと絡み付く。
「智。次は智の番だよ!今まで…本当にありがとう!俺のことでずっと縛り付けてて、本当にごめんね。誰より幸せになって?それが俺の一番の願いだから!!」
明るい笑顔のまぁくんに、泣きそうになるのをぐっと堪える。
「もう観念しなさいよ。ほれ。」
トン、とニノに押されて、櫻井さんの腕の中によろめく。
櫻井さんに抱きとめられて、至近距離で櫻井さんの顔を見上げる。
「………いい、の、かな…?」
「…何がです?」
「俺なんかが…俺だけが、幸せになって……」
「バカなんですか。」
櫻井さんがふわって、マリア様みたいに笑う。
「あなたが幸せになれば、皆が幸せになるんです。そんな風に…あなたは皆から好かれてる。」
見回すと、皆が、うんって頷いて。
「…知念も。もう諦めろ。」
岡田が笑って背中を叩く。
「……わかりましたよっ。」
侑李が不満そうな顔をして、ゆっくり近付いてきて…
「侑李…?」
突然襟元引っ張られて、ほっぺたちゅってされて。
「!」
「てめっ…!」
櫻井さんが侑李を捕まえる直前にひらりと身を躱す。
侑李、めっちゃ身軽!
流石元体操選手!←
「大野さん泣かせたら、俺、櫻井さんのこと一生許しませんから!!地の果てまで追いかけて八つ裂きにしますからね!!大野さん、何かあったらすぐ俺に言ってくださいね!!」
八つ裂きって…(笑)
でも……嬉しい。
「侑李…ありがと。」
「大野さん…誰より…幸せに、なっ…てくだっ…!うっ、グス…うわーーーん!!!!」
侑李が泣きながら走り去っていく。
「え?!何で泣くの…?どうしたんだろ?」
呆然としてたら、櫻井さんが溜息をつく。
「佐藤くんあてがった俺が言うのも何ですけど、流石に可哀想になってきました。」
「ね、可哀想だよね?何であんな泣いてるんだろ。。」
同調すると、うわっ、とニノ。
「天然こわっ…。」
「…お前、すげーな…血筋だな…。」
ニノと岡田が変な目で俺を見る。
何?何その目??
「まぁいいから。お前らはさっさと帰ってやることやれ。アイツは俺らがフォローしとくから。」
岡田が苦笑してしっしっ、と追い払う仕草をする。
「やることって…」
思わずかあって赤くなるけど、皆の目はからかうものじゃなくて、優しいそれで。
「大野さん……俺、今日噛み跡シール捨てますから。月曜からはちゃんと本物つけてきてくださいね?」
「くふふ、そりゃ今夜ちゃんと番契約しないと!…いい加減許してやって?智が、智を!」
まぁくんが優しく俺の背中を押す。
「……ありがとう。皆。」
涙ぐんだのを悟られないよう頭を下げたら、早く乗らないと運転手さんに迷惑だよ!と笑われる。
タクシーに櫻井さんと乗せられて、バタンと扉が自動で閉じる。
「侑李に伝えて!…ありがとうって!」
窓を開けてそう言うと、岡田がやれやれとでも言いたげに肩をすくめる。
「わかったよ。ちゃんと伝えるから。…明日からもいつもどおり話してやれ。」
勿論、って頷いて、静かにタクシーは動き出す。
「………。」
「………。」
櫻井さんと俺は、タクシーで終始無言で、
でも、握られた手はすごく力強かった。
やっときたー☆