「遅いよ。」20 | 1年だけ先輩。(基本お山)

1年だけ先輩。(基本お山)

やま。いちご。そうぶせん。

理解した方だけしか読まないでください(笑)
ごにんに心奪われ続け、眠る身体も起き出す状態です。

脳内妄想を吐き出す場として利用しようかなと思ってます。
ご気分害されたらごめんなさい。
※主軸は21です!

※妄想のお話です。















-A-


あなたは


何も悪くない



悪いのはいつだって



巻き込まれる人をお構い無しに、


うねりを作り出す運命の方だ









数学を教えて貰って、ビックリ。


翔くんめちゃくちゃわかりやすい!!


いや、ビックリしたのは翔くんかも。。


「二宮は…金の計算とか得意そうに見えたけど…」


「あ、ニノはすごく頭いいみたい…。」


「身体は一緒でも脳は別なんだね?ていうか智…精神的には17…なんだよね?」


「……ハイ……。」


うぅぅ…恥ずかしい。


でも一番嫌いなんだよ。数学。


いや…英語も。あ…歴史も…国語も……。


「大丈夫。やり甲斐あるよ。俺さぁ、実は教師になりたかったんだ。」


「教師?」


うん、って、翔くんが内緒話を打ち明けるようにしーっと人差し指を口に当てる。


「親父の会社継ぐって使命が無けりゃね。一応教職も取ってるんだけど。」


流石と言うべきか、国語の教職を取っている翔くんは、数学なのにすっごい解説が分かりやすくて。


あっという間に時間が過ぎた。


翔くんの携帯が突然鳴って、時計を見ると16時。


ごめんと一言入れて翔くんが電話に出る。


「…は?いや…今日は無理。マジで……はあぁ?ふざけっ…!………切りやがった…。」


携帯をぼすんっとソファのクッションに投げる。


「大丈夫?おいらのことは気にせず行ってきてね。」


「でも…」


「おいら、17だけど…身体(ニノ)は22だよ?」


確かに、と翔くんが笑う。



「じゃぁ、智…自画像描いててよ。」


「え?」


翔くんは楽しそうにスケッチブックとえんぴつ数種類を取り出す。


「買っといたんだ。描いてもらおうと思って。記憶の中と顔違うんでしょ?」


「ええ~!自画像は恥ずかしいよ。」


「お願い!」


パン!と手を合わせる翔くんに、苦笑する。


「そんなの描いたことないし。あんま覚えてないし。」


「ざっくりでいいよ!…本物にはどうしたって会えないから……。」


翔くんが悲しそうに言う。


…そうだよね…


会えるけど…会えない……。


そんな風に言われると、何だかおいらも悲しく、苦しくなってきて…。


「…分かった。でも…途中見ないでね?」


そう言うと、翔くんが嬉しそうに視線を上げる。


「やった!!!」


「いない時に少しずつ書くね。だから、気にせず行ってきて。」


「…うん、サンキュ。なるべく早く帰るから!」


翔くんはカッコよくスーツを着て出ていった。


多分、お父さんからの電話で…会社の件だろうな、と思った。


おいらは新品のえんぴつを自動の鉛筆削り機で削って、記憶をめぐらせる。


真っ白なページに、一瞬迷って、決意を決めて…。


シャッと黒鉛を滑らせた。





「ただいま。」


ガチャっと開く扉の音と、翔くんの声にはっと顔を上げる。


慌てて夢中になっていたスケッチブックを閉じる。


時計を見ると、19時半。


いつの間に電気がついたんだろう?


窓の外はすっかり暗い。


「あ、描いててくれたの?」


「うん…何か夢中になってた。」


翔くんが嬉しそうにジャケットを脱ぐから、それを受け取る。


あ、なんか…


「ふふ、奥さんみたい。ありがと。」


「!」


思考を読まれたみたいで、恥ずかしくなる。


「…って、ごめん、ご飯何もしてないや!」


慌てて買ってもらったばかりのエプロンを手に取ると、翔くんがそれを止める。


「いや、大丈夫。かぶんなくて良かったよ。一応電話入れたけど出なかったから…。」


ニノの携帯だし、ニノもあんま見られたくないかと思って触らなかったんだ。


全然聞こえなかった。


「ありがとう~!ごめんね…おいら集中すると時間の感覚なくなるんだ…」


「ふふ、好きなことなら集中するタイプなんだね。勉強もコツ掴めばきっと大丈夫だよ。」


はっ…。


勉強教えてとか言っといて予習ゼロとか超失礼じゃん…。


「あ、これ、智に。」


「へ?何?」


四角い大きめの缶を渡される。


受け取って色々見ると、暗証番号を入力出来るようになっている。


「スケッチブック、ここに入れとけばいいよ。そしたら、俺も二宮も勝手に見れないだろ?」


「えっ…」


「途中は見られたくないんでしょ?」


うわあ、助かる!!


何も考えてなかったけど、確かにおいらがいない時誰でも見れる…


あぶなー!恥ずかし過ぎる!!


もう。。翔くんて、天才?


「…っ、ありがとうっ!!」


嬉しくなって、また飛び付いた。


今度は我に返る前に、翔くんがぎゅーってしてくれて、身体を離す暇がなかった。




お寿司は何食べても美味しかった。


スケッチブックもぴったり入って、忘れないように暗証番号はおいらの誕生日にして。


洗い物をして、順番にお風呂に入って。


少し勉強して…寝よっか、ってなって。


ずっと気になってたことを聞いてみた。


「…トラウマって…聞いていいの?」


「ああごめん、途中だったね。忘れてたわ。」


翔くんがベッドに腰かけるおいらの横に座って、笑いながらこほんと咳払いをする。


「…智はさ、交通事故、身近であった?」


「交通事故?ないよ。轢かれたことも、轢かれた人も。」


「そっか。俺は…高校の時。6年前の、9月15日。目の前で…中学生位の子が俺の代わりに轢かれたんだ。」


「えっ…」


「俺がボーッと歩いてて。飲酒運転の車がアクセルとブレーキ踏み間違えて、歩道に乗り上げてきて…。中学生くらいの子が突然、とっさだろうね。俺を突き飛ばした。


轢かれる瞬間、その子と目が合ったんだ。それを…まだ覚えてる。俺に手を伸ばしかけて…俺はその手を取ればよかったのに…呆然としたまま。目の前で吹っ飛ぶ命の恩人に、何も出来なかった。


血塗れのその子が、俺に手を伸ばす夢を何度も見た。何故かいつも微笑まれるんだ。いっそ責めて欲しいのに…。それ以来事故が怖くてさ。飛行機も乗れねぇの。」


翔くんが情けないだろ?って笑いながら鼻をかく。


おいらは首をぶんぶんと横に振る。


情けないわけがない。


「…その子は…?」


「あまりに恐怖で暫くお見舞いも行けなかったけど…数週間後 意を決して入院してる病院に行ったら、たまたま病室から出てくる人がいて。事故った奴の兄貴かな、俺と同じくらいの人で。


死んだって。言われた。

何で今更来たんだって…泣かれた。」


翔くんは俯いて、はぁ、とため息を漏らす。


「当たり前だよな。俺がボーッとしてなければ、もうちょい運動神経良ければそいつは助かったのに…。俺のせいでそいつは轢かれたのに…何も……。それなのにすぐに見舞いに、謝罪に行かなくて…。


…とにかくそれ以来、俺は短い距離もタクシー使うようになった。金持ちならではのトラウマ克服法でしょ(笑)」


わざと嫌味っぽくお金のサインを指で作る翔くんに、胸が痛む。


翔くんの心に潜むのは、罪悪感?


助けられなかったから?


救われたから?


お見舞いに行って、謝れなかったから?


「その当時から一人暮らししてたし、俺、別に誰からも愛されてねぇし。独りの俺が轢かれたら良かったんだけどね。その兄貴の泣いた顔見て…すげぇそう思った。まぁ今更こんなこと言ったって何も変わんねーけどさ。」


翔くんがハハッて痛々しく笑う。


…そんなの…おかしいよ。


翔くんは何も。悪くないじゃん。


翔くんが轢かれたら良かったなんて、そんなの。


おかしい。


「…智?何で…」



──何で智が泣いてんの?



そう言われて、初めて泣いてることに気付く。


慌てて目を擦ると、翔くんがふっと笑う。


「優しいな、智は。」


優しくぽんぽんってされて。


ボロボロ涙は溢れてきて。


おいらは翔くんを抱き締めた。


…ううん。


抱きついた、のが正しいだろう。



「翔くん。」


「ん?」


翔くんの優しい声と、優しく頭を撫でる手は、すごくすごくあったかい。


「翔くんは悪くないよ。」


おいらが感じるはずのない温度。


「翔くんは、何も罪に感じること、ない。」


ぎゅっとくっついた胸から聞こえる、鼓動。


「大丈夫だよ。」


震える手でそっと背中に回された手。


「…翔くんは、何も、悪くないから。」


翔くんの背中を優しく撫でる。


「翔くんが生きててくれて良かった。」


翔くんが、ごく…と唾を飲む音が聞こえる。


「ニノとしてだけど…会えてよかった。」


背中に回された翔くんの指に力が入る。



「独りじゃない。おいらがいるよ。」



「……っ……」


多分、泣いてる。


声を殺してるけど、息遣いとか、震え方とか。


おいらも、何故だか涙が止まらなくって。


自分だってほんの少し前まで独りだと思ってたから、余計に…翔くんの想いに泣けてきて。



ああ、こんなこと、亡くなってしまった子に申し訳ないけど。


轢かれたのが翔くんじゃなくて。


翔くんが生きててくれて。


良かった。



出会えたわけでもない翔くんを、二度と離さないという気持ちでぎゅっと抱き締める。


ニノより大きいはずなのに、


この時の翔くんは何だかとても消えてしまいそうだった。