「ねーねー、大ちゃん知ってる?うちの地域の花火大会の伝説!」
「伝説…?分かんない、何それ?」
焼却炉にゴミを投げ入れる作業は、夏場は地獄だ。
汗がダラダラ流れるから、首にかけたタオルで拭いながら振り返る。
髪を明るくした女子生徒は汗ひとつかいてないから不思議だ。
「あのねー、ハートの花火が上がった瞬間にぃ、好きな人とチューするとぉー」
「一生ラブラブで暮らせるんだってー!♡」
キャー♡とスカート翻して盛り上がる生徒達。
一生って……。
若いっていいなぁと思わず笑みが漏れる。
「ハートの花火かどうか、キスしてたらわかんないじゃん。」
「だから毎回してないといけないんだよ~♡」
なるほど、大義名分ってやつね。
伝説なんてものは大概誰かの欲から作られてる、と苦笑する。
「大ちゃんは好きな人とか居ないのー?!」
「んー、内緒。」
人差し指を唇に当てる。
「えーー!可愛いんだけど何そのポーズ?!女子力高っ!w」
「はぁ?ただの内緒のポーズだろ(笑)」
「いやめっちゃ可愛い!」
「ねー大ちゃん、うちらと花火大会…」
「こらっ!また智くんの邪魔してんのかお前ら!!」
生徒の言葉を遮るように、毎度おなじみ白タオルを頭に巻いた翔くんが現れる。
(主にイケイケグループの)生徒に話しかけられていると登場するのも、毎度おなじみ。
コイツちゃんと仕事してんのかな?
「きゃー!また来たサクショー!w」
「大ちゃん独り占めしてずるいんですけどー!」
「バカ、独り占めしてねぇ!智くん困ってんだろ!いいからお前らさっさと帰れ!あと大ちゃんとか馴れ馴れしく呼ぶな!」
「ヤキモチは嫌われますよ、しょーおくーん?」
「お前らが翔くん言うな!!」
「じゃサクショー」
「櫻井さん、だろ!!」
「きゃー♪マジこわーうけるーw」
「大ちゃん、気をつけた方がいいよ?サクショー大ちゃんのストーカーだからw」
「てーめーえーらー?!」
「うっわ口悪っw」
きゃははは…と走り去る彼女達は、多分翔くんと話したいだけだ。
なのに翔くんは
「ったく…気をつけなよ!アイツらだけじゃなく、ほとんどの女子生徒はぜってー智くん狙ってっから!!いや男子生徒も危ねーから!!」
なんてバカみたいなことを言う。
「狙われてんのは翔くんだって。」
「んなわけねーじゃん!あの口の利き方、ほんと俺のこと馬鹿にしてる!」
「んふふ。翔くんと仲良く話せて嬉しいんだよ。可愛いね。」
そう言うと、翔くんの眉が情けなく下がる。
「…智くんもやっぱ、若い女の方がいい?」
「アホか!」
笑いながらぽかんと肩を殴る。
残りのゴミを焼却炉にざっと流し入れた。
「…あの、さ。花火大会の日…あ、8/11なんだけど。…暇?」
「ん?あー、多分暇だと思うよ。去年は実家に帰ってて見れなかったし、見たことないんだよなぁここの花火大会。」
「(知ってる。)じゃぁさ、一緒に見ない?俺すげーいい場所知ってんの。」
「いいけど…生徒にバレたらまた何か言われるよ?(笑)」
「見られない所だから、大丈夫。」
翔くんが、ニッと笑った。
「え……まさか。」
「うん。学校!」
いやいや、何その誇らしげな笑顔?
わざわざ俺んちまで迎えに来たのに、何でまた学校??
しかも…
「生徒いそうじゃん!」
「うちには優秀な警備員がいるから大丈夫だよ!」
その優秀な警備員の死角を狙って裏門から入ってんのに…本当に大丈夫なんかぁ?
「いいから、早く!見つかっちゃう!」
柵をモタモタ越えようとする翔くんを見て、ふっと笑う。
隣をひょいと乗り越えると、翔くんが唖然とする。
「ほれ。」
手を差し出すと、片眉下げて照れくさそうに笑った。