-A-
蒸気する頬
不自然に高鳴る鼓動
合わせられない視線
あなたといると
自分が自分じゃなくなっていく
それがたまに
堪らなく恐怖に感じることがある
心が身体を追い越す感覚に
想いが気持ちを置いていく感覚に
ただただ、怯える。
二重人格ってことにして、おいらは色んなことを話した。
高校のこと
オソイヨのこと
海老シューのこと
相葉ちゃんのこと──。
どうせ相葉ちゃんとおいらに、翔くんは会わない。
それに…
まだ、夢の中な感じで。
現実味がないから、色々素直に話せた。
相葉ちゃんのことなんて、誰にも言ったこと、無かったのに。
「ふぅん…それが智の『記憶』……。」
翔くんは真剣な顔で聞いてくれて。
勿論、おいらに実態はないって話になってるから、『記憶』としての話だけど。
「…男が男を好きって…気持ち悪いって、思わない?」
「何で?俺二宮買ってるんだよ?」
「買うって、瓜の話?」
「うり……って…………
あーーー!そういうこと!!」
櫻井さんが腹を抱えて笑い出す。
「な、何?」
「いや…はは、なるほどね!!二宮に…直接は聞けないだろうから、日記でも見たの?ウリで生きてる、みたいに。」
「うん…どうして分かるの?瓜で生計立ててるって書いてあったの。」
目を丸くすると、クスクス笑われる。
「それで律儀にスーパーでね…ふはっ、ウケる(笑)」
「ウケる…?おいら変なことした?」
不安になって聞くと、いやいや、と首を振られる。
「でも次から瓜はいいよ。智が来る時は俺んちの冷蔵庫から適当に飯作ってよ。ダメ?」
小首を傾げる翔くんにドキッとする。
だって、あまりに綺麗で。
なんていうか…イケメンと可愛いって、同居するんだ!みたいな。
ドキドキしながら頷くと、やりぃって無邪気に笑う。
「とにかく、そんな偏見無いよ。俺はどっちかっつーと、同類。女もいけるけど、男のが楽かな?」
さらっと笑顔でこういうこと言っちゃうとことか。
ああ、相葉ちゃんっぽい。だなんて。
変なこと考えちゃうよ。
「いつ智になるの?それは智の意思?」
「分かんない。起きたら急にニノの身体にいる時があるの。今日で2回目なんだけど。」
あ、と翔くんがベッドの横の棚を漁る。
「これ…智でしょ?」
「あっ!」
ぴらっと出されたのは、夢の中で描いたこの部屋からの景色だ。
「そう、おいらの!どうして分かったの??」
「さっき美術部って言ってたからさ。あまりに上手いから捨てられなくて。」
不意に褒められて、頬が緩む。
「へへ…ありがと。東京の風景なんて、初めて見たから。」
「これであの日二宮の様子が変だったのも合点がいったよ。この部屋で1日過ごしたのが、二宮の身体で過ごした1日目ってことだろ?」
「そう!!そうなの!!すごいね翔くん!!!」
興奮してぱっと両手をとってしまい、不意に縮まった顔の近さに慌てて離れる。
「智?」
な、なんか綺麗すぎて芸能人みたいでドキドキする。
なんか話さなきゃ!
えーとえーと…
「翔くんは…ニノの恋人?」
こんなこと聞いて大丈夫かなぁ…?
そっと見上げると、曖昧な顔で笑う翔くんが視界に入る。
「違うよ。恋愛感情は微塵もない。お互いにね。」
ホッ…。
ん?ホッて何だ??
「でも…ちゅーしてた……。」
無意識に口が尖る。
「…あれ?もしかして智、ヤキモチ?」
翔くんがニヤニヤしながらおいらの顎をクイッと上げる。
「ち、ち、違うよ!」
慌てて手を払いのける。
うー、絶対顔赤い!!
恥ずかし過ぎるこの人!!!
「ふふ、巡り巡って自分(二宮)にヤキモチ妬くとか(笑)」
「違うってばっ!!!」
「相葉ちゃんとかいう想い人いんのに、案外浮気性?(笑)」
「うるさいっっっ!!!!!」
「はいはい。黙りまーす。」
翔くんは両手の人差し指でバッテンを作って、口に当てる。
ミッフィーみたいで可愛いんだけど、ニヤニヤしてて憎たらしい…。
おいらは相葉ちゃんが好きなんだ!
こんな初対面の笑ってばっかの変な大学生のオニーサン、好きなわけないじゃん!!
「もうっ!えーと…そろそろ帰る感じ…でいいのかな?ニノって何時に帰るの?」
外は明るいが、何だかんだ夕方の時間だ。
「ん?んー…二宮はいつも俺ン家泊まってるよ。」
翔くんが何となくニヤッとしてるのは気の所為?
だけど…よかったぁ。
暑すぎて死ぬかと思ってたから。
あの部屋クーラーないし。
「あ、だからこの前ここにいたんだね?」
「そうそう。だから、今日は色々教え……いや。教えるのは追々で…今日はとことん話そう?俺、智に興味ある。」
ウィンクされて、また心臓が跳ね上がる。
東京の人ってこういうこと平気でするの~?!
「…おいらも。翔くんのこと知りたい!」
翔くん、良い人だし…仲良くなれる気がするんだ。
「…いーよ?じゃいっぱい話そう。智が眠くなるまで、隣にいてやるから。」
優しく翔くんが笑っておいらの頭を撫でるから、またドキドキした。
おいらの周りにこんなお兄さんっていないから…どこか緊張する。
おいらにも相葉ちゃんにも風間にもお兄ちゃんはいない。
長男トリオ。
だから、だからだよね?
翔くんにドキドキする理由は、それだ。
それしか有り得ない。
そうでしょ、相葉ちゃん?
翔くんが、「また『相葉ちゃん』のこと考えてんだろ?」と笑う。
翔くんのことが派生して相葉ちゃんのこと考えてただけだけど、
うん、
って頷いた。