【Side 大野】
何とか定時前に見積書を作成して、岡田に持っていった。
遅いと嫌な顔で言われたけど、午後イチ、想定外に2時間を超えるシステム管理会議に出席していたのだから、頑張った方だ。
…という言い訳はぐっと呑み込んだ。
知らねぇよ!と言われて終わりだろうし。
実際岡田には関係の無い言い訳だ。
「…っし、問題無さそうだな。じゃこのまま通すから、明日にでも取り組んでけよ。急いでんだろ?」
「うん、ありがと。助かるよ。」
その時タイミングよく、定時の音楽がフロアに鳴り響く。
「…あ、やべ早く帰んねーと。お前も残業ばっかしてねぇで帰れよ!」
ビシッと指さされ、慌てて帰り支度をする岡田。
どんだけ定時で帰りたいんだよ。
「またジム?」
「おう。お前もたまには来いよ、折角本社には無料のジムや温泉があるんだから!」
「こっから30分かけてまで行きたくないし。つーか、そんな鍛えて何になりたいんだよお前は?」
苦笑して尋ねる。
「心身共に鍛えることに理由が要るか?」
そう言った後、少し考えてからニッと笑われる。
「まぁ…強いて言うなら、大切な奴をいざと言う時に護れるように、かな。じゃーなっ!」
…岡田らしい。
(恐らく)筋肉質な背中に、思わず笑ってしまった。
「あっ!大野さんっ」
岡田を見送り階段に向かっていると総務課の中から俺を見つけたらしく駆け寄ってくる侑李。
「おま…、定時になったとはいえ大丈夫?仕事終わったのかぁ?」
「大野さんとお話する方が大事です。」
「こら(笑)」
さらっと変な冗談言うから、肝座ってるよなぁ。
自分の上司もすぐ近くだろうに。。
「あ、そうだ。岡田に俺が休みだって言ったんだって?何で岡田に俺のこと??」
「あっ…」
キョロ、と周りを見渡すので、非常階段の方へと促す。
岡田を気にしてるなら帰ったから気にしなくていいんだけど、総務課の前でこのまま喋るのも気が引ける。
薄暗いそこへ2人で移動すると、侑李が頭を下げる。
「勝手にすみません!でも…大野さんに何かあればすぐに教えてくれって言われてまして。僕が大野さんばかり見てるんで、お目付け役として買われました。」
予想外の答えに呆気に取られる。
お目付け役って何時代だよ。
「俺ばっか見んな!」
「見ますよ!憧れですから!」
バカ、と顔を背ける。
何でコイツは、こうも恥ずかしいことを平気で…。
「…てゆーか、え?何で岡田がそんなこと?」
気にかけると言ったって、わざわざそんなことを普通するだろうか。
同期とは言え、岡田がどうして俺の言動を気にするのか皆目見当がつかない。
「とても…心配されてるようでした。眠気が続いてるような時や体調が悪そうな時は特に『観察しとけ』って。」
観察って…。
俺は希少動物か。
「松本さんにもちょこちょこ話しかけてるところ、見ました。聞き耳立てるつもりはなかったんですが、大野さんの話をしてることが多かったです。もしかしたら松本さんからも情報を得て何かあったらフォローしようとしていたのかもしれませんね。」
「松潤にまで…?」
「特に最近は…僕も大丈夫かなって心配でしたけど。」
副作用で眠かったから…
侑李にまで心配かけてたのか。
岡田から何度かタイミング良く凹んだ時に電話が来てたことを思い出す。
軽口叩かれて、文句言われて…
いつも、沈んだ気持ちを忘れてしまうんだ。
あれが偶然じゃないとしたら…?
…んだよ、根回しかよ。
岡田のむっつりスケベバカ。
そもそも元気づけたいなら、もう少し優しく話せないもん?
いっつも怒鳴り散らしやがって…。
っとに…不器用で、素直じゃない奴。
「…心配かけてごめん。」
ポンと頭に手を載せる。
侑李がえへへ、と笑う。
「大野さんが誰より大好きな憧れの人なんで。」
屈託ない笑顔に恥ずかしくなって、またバカ、と小突いた。