【Side 櫻井】
俺は今までこんなにも自分の欲に 負けそうになったことがあっただろうか。
智くんに関してそんな風に思うことなんて普段はないんだ。断じて。
…いや、稀にあるけど。稀にね。
でも、今日はどうだ。
一挙手一投足に翻弄されている。
自宅という安息の頂点とも言えるロケーションと、普段なかなかない、しかもプライベートでの二人きりというシチュエーションが相まって俺の脳が完全に浮き足立っているということだ。
落ち着け櫻井翔。(2回目)
大丈夫だ。
智くんはただタコを切ろうとしてくれてるだけだ。
料理だ料理。
俺は上沼恵〇子。
……よし。インプット完了。いざ!
「ごめんねどんくさくて。。」
「こっちこそ、見てたのにごめん。痕にならないといいけど…」
こんなことを言ってくれる天使に対して俺は何考えてたんだ。。
よし、もう絶対邪な考えは捨てる!
そうタコに誓った。(←何故タコ)
……のに……
「…んっ、こら、やめれって」
……のに……
「もぉ、逃げんなって…」
……のに……
「ぅわっ、そんなトコ吸 うなっ…」
智くんのタコ切る時の独り言、きちぃーーー!(泣)
タコってさ、ほら、仕留めても動くじゃん。ね。
それはもう自由気ままに智くんの指を犯 していくわけだよ。(←言い方)
もうやめてほしいマジでタコ動くな。早くくたばれ。
いっそ俺が切りたい。でもあんなんぜってぇ無理。
「んふふ、くすぐってぇ。」
その声に目をやると切られたタコの吸盤が智くんの指股 に吸い付いている。
あーーーーータコになりてぇ。
あーーーーー末期だな俺。
俺は虚ろな目で、タコと戯れる智くんの隣で本わさびをひたすらすった。
「はい、完成。食ってみ?」
智くんがにっこり笑う。
箸を出して智くんにも渡し、ひと口。
「…うんめっ!!!!!!」
「ほんとぉ?!よかったー!うまいっしょ?」
ぱぁっと華やぐ智くんの顔。
「めちゃくちゃ美味いよ!今まで食べたどのたこわさより美味い!むしろ今までのどのタコ料理より美味い!!」
「んふふ…それはどうかな?」
ニヤって笑われたから、どういう意味かわからずたこわさを頬張りつつ首を傾げる。
すると智くんはぷっと吹き出した。
「何?何で笑うの?」
「ごめんごめん。何かめっちゃ可愛くて。」
急にそんなこと言うもんだから、俺の顔は茹でたこみたいになってしまった。
「な、何言ってんのあなたは。」
慌てて視線を逸らすも、何かすげぇ恥ずかしいやら若干嬉しいやら……。
「向こうでこれ食べながら先に飲んで待ってて。俺残りのタコで適当に作るから。翔ちゃんのさっきのセリフ…今までのどのタコ料理よりも美味いってやつ、更新してやるよ。」
男前にそんなこと言うもんだから、心臓がきゅんって音立てた。
乙女か。
俺が可愛いんじゃなくてさ、智くんがかっこよすぎなんだよ。
今更だが、ウチはカウンターキッチンだ。
つまり隣合ったリビングからは智くんの様子がうかがい知れる。
俺は少し迷って、基本死角になってて、でも首を伸ばせば智くんが見えるローテーブルの前に腰掛ける。
食卓はカウンターの目の前だから、目が合ったりしそうで何か恥ずかしくて。
こっそり携帯を取り出す。
櫻井『今たこわさの残りのタコで色々作ってもらってる』
相葉『えーいいな、俺もお腹すいちゃったなー』
櫻井『そんなんいいからアドバイス早く頼む。』
相葉『そんなんて失礼な!アドバイスねぇ…生のタコなら刺身がいいと思うよ?』
櫻井『ちげぇよ!誰が料理のアドバイス求めた!いい雰囲気にさせるアドバイスくれって言ってんだよ!!』
相葉『あぁ、そっち?(笑)』
あぁ…俺は何をやってるんだろう…。
思わず携帯を置いて遠い目になる。
これがニノとか松潤だったらさ…きっといいアドバイスくれるんだろうな…。
あーマジで相談相手ミスった……。
テーブルに突っ伏していると、またバイブが鳴った。
相葉『それならね、昨日の撮影の時、翔ちゃんのバッグにこっそりDVD忍ばせといたから、その映画観るといいよ!恋愛ものなんだけど、普通のあまーいロマンチックなだけのやつではないから、きっと自然にいい雰囲気になれると思うよ♪』
相葉パイセンーーーーーーー!!!
俺としたことが映画とは盲点。
しかもただの恋愛ストーリーはヤロー二人で見るのは気まずいけど、そこも考慮した上でとは。
見くびってすみませんでした、パイセン!!
慌ててカバンを見ると確かに入っている。
コピーしてあるらしく白盤で、相葉ちゃん手書きのタイトル。
そのタイトル見ても全然ピンと来ないマイナーな感じ。
相葉『観る前に、どうしても大ちゃんと観たいと思って、って言ったら告白しやすくなるんじゃない?』
櫻井『なるほど…!あざっす!一生ついてきます!!』
相葉『苦しゅうない』
さりげなくそのDVDを棚の一番手に取りやすいところに置く。
そんなこんなしている内に智くんが色々持ってきてくれた。