「おーい!始まる…よ…」
トイレのドアを勢いよく開けた櫻井が瞬時に張り詰めた空気に気付き、語尾を弱めた。
「あれ…大丈夫だった?」
「あ、うん、大丈夫!ごめんごめん、話し込んじゃった。」
大野は明るく返す。
視線は泳ぎ、細い指が首を仕切りに触っているのを見て、櫻井は松本を睨む。
(お前、、何しやがった。)
松本はバツが悪そうに足元を見ながら、「今行くよ」と呟いて櫻井の横を通り抜けた。
眉毛が下がった大野を見て、櫻井は背中をさする。
「…翔くん?」
「何か言われたの?」
…言われた?言われてはないな。
ふるふると頭を振る大野を見て、櫻井は言い方を変える。
「…何か、された?」
ビクッと肩を揺らす大野を見て確信した。
ビンゴか。
あいつ…。
服装が乱れていないことから、何となく状況を理解した。
しかし大野はゆっくりと首を振り、
「何でもないよ。大丈夫。」
そう言ってふにゃんと笑った。
櫻井は怒りと共にどうしようもない感情に支配される。
気付くとぎゅっと抱きしめていた。
「え、しょ、翔くん?」
「あのね、俺はいつでも智くんの味方だからさ。何でも言ってね。我慢したり無理しなくていいよ。フォローするからさ。」
櫻井の言葉があまりに優しく、大野は少し泣きそうになった。
「…ありがとね。翔くん。」
ぎゅっと抱き返したところで、
「…あんたら何してんですか…」
そっと様子を見に来た二宮の一言に飛び上がり、櫻井は慌てて離れた。
「いや、あの、これは慰めようと…いや…その…あ、怪しい関係ではないというか…!!な、なんもしてねぇよ!!ほんとにっ…ゲホッケボッ!!」
慌てふためく櫻井に大野は耐えきれなくなってぶはっと笑い出した。
苦しそうにお腹を抱えて笑っている。
その様子に安心した二宮が、
「浮気してんじゃないよ!」
と、にやっと冗談めかして大野のお尻を触り、
「ごめんなさぁ~いアナタ♡」
と大野はオカマっぽく言って笑いながら二宮の首に抱きついた。
「早く行きますよ!」
手を引いて先導する二宮に続いてトイレを後にする時、こっそり振り返って櫻井に(ありがと!)と口パクで伝えた。
櫻井は情けない程嬉しそうな顔で笑って応え、慌てて楽屋に戻った。