学校の教科では数学が好きだった。問題に取り組む度に、パズルを解けた時の喜びに似た満足感が得られたからだ。数学は性行動と同じ生理的反応を呼び覚ますとも言われている。ジュネイド・ムビーン著『AIに勝つ数学脳』は、AIが平然と人間の知性に取って代わることは当面ない。現実世界の重要な多くの問題には、人間の創意と監視が欠かせないという。▼著者は、数学的知性として5つの原則を掲げる。人間に本来備わった数の感覚の「概算」は、コンピュータの正確さを補完する。その「表現」法は二進言語よりも多様だ。「推論」は純粋なパターン認識システムによる疑わしい主張から守る。また「想像」により、論理的に導き出された結果を吟味する自由を持つ。そして何よりも「問題」を問うことさえできるのだ。▼上記の「考え方」に、「取り組み方」として2つの原則を加える。問題を解くスピードや、考慮する情報量をいかに制御するかに注視する「中庸」。そして、機械が人間を補完するように、人間の集団的知性を利用する「協力」だ。コンピュータは明確に指定された手順ならば間違いなく実行できる。だが漠然としすぎた概念を処理できる言葉(記号)に書き換えるのは難しい。▼ロボット工学者のハンス・モラヴェックは、「知能テストやチェスのゲームで、大人の能力を発揮するコンピュータを作るのは比較的容易だ。だが知覚や移動に関して、1歳児のスキルを持たせるのは困難であるか、または不可能である」と論じた。著者は、「人間は木を見ると同時に森を見ることが出来る。だが、コンピュータにはそれができない」という。