『日本経済新聞』の「サイエンス」によると、日本の研究力の低迷が指摘されて久しい。殆ど引用されない論文が全体の半数を占めているという。また、論文の捏造・改ざん・盗用も増加傾向にあることも事実のようだ。スチュアート・リッチー著『あなたが知らない科学の真実』は、なぜそうしたことが起こるのか、欠陥と瑕疵の実例を示しつつ、その原因と対処法を示す。▼そこには科学の理想とは根本的に異なる科学の実践の姿が浮かび上がる。具体的には、STAP細胞にも見られた画像やデータの捏造などの「詐欺」、都合の悪い結果を隠ぺいし、自分の思い込みに無理やり適合させる「バイアス」、間違いの確認を怠り、居眠り運転する「過失」、システム的に正しさよりも優先する結果の「誇張」が、当然のように行われている。▼著者は、科学的なインセンティブのシステムは、論文出版そのものに強迫観念を生んでいる。科学者に自己の歪んだ欲求を満たすよう動機づけている。だが論文の指数関数的な増殖、出版物や引用、助成金をめぐる学術の世界の淘汰、新しくて刺激的な結果への執着、ハゲタカジャーナルのような現象は、科学者本人にも責任が無いとは言えないという。▼社会学者ロバート・マートンは、科学の4つの価値観を示した。いわゆる「マートルの規範(ノルム)」だ。科学者は、「普遍性」「無私性」「共有性」「組織的な懐疑主義」に従い、この世界に関する真実と知識を誠実に追及するべきだと。それには、現実のシステムを破壊し改革を強制的に押し付けてもいけない。だが変革の必要に迫られていることは間違いない。