生物の定義とは、外界と膜で仕切られている。物質やエネルギーの流れである代謝を行う。自分の複製を作ることの3つだ。細胞膜があることで、代謝や複製のための、いろいろな化学反応を効率的に行うことが出来るという。シッダールタ・ムカジー著『細胞』は、ヒトを含むあらゆる生物が、細胞という「初歩的な粒子」で成り立つという発見をめぐる物語、年代記だ。▼旅の始まりは、細胞の発見、細胞の構造や生理機能、代謝、呼吸、細胞内部の器官の発見だった。それが医学を大きく変え、抗生物質の開発に導いた。その後、既存の細胞から新しい細胞が生まれる過程と、生殖のための細胞に遭遇し、がんの治療法や体外受精に変革をもたらした。更には、ヒト胚の操作という倫理的に見慣れない風景を知るようになる。▼細胞や遺伝子は根本的に一体となって協力し合う単位、ともに生物の個体を作り、維持し、修復する。たとえば、体内の広いスペースを移動するために使うがん細胞の仕組みは、可動性の正常細胞が使う仕組みを乗っ取ったものだ。従って、その攻撃の対象も変異から代謝へ変わりつつある。厄介なのは、がん細胞だけを殺す方法を生み出せないことだ。▼現在は、細胞工学や人工臓器、ゲノム編集などの技術で「ニューヒューマン」を誕生させることが可能だ。だが遺伝子治療や編集、遺伝子選択は、倫理学者や医師、哲学者の心を悩ませているという。私たちは自分が引いた籤を贈り物として受け入れなければならない。なぜなら、その畏敬の念が失われたなら、私たちの道徳のあり方が変わってしまうからだ。