欧州の植民地支配、米ソを盟主とする冷戦、中国・インドの経済的躍進。大規模な移民や難民、ソ連の崩壊、英国のEU離脱。これら歴史上の発展と衰退は、人口動態と切り離しては語れない。ポール・モーランド著『人口は未来を語る』は、人口動態のうねりが過去を形成したように、現在と未来をも形成するという。そして世界各地の10のテーマについて論じる。▼乳児死亡率、人口の増加と減少、都市化、出生率、高齢化、民族構成の変化、教育機会の拡大、食料入手可能性の向上などだ。各テーマはいずれも孤立した現象ではない。互いに因果の連鎖で繋がっている。乳児死亡率の低下は人口増加をもたらし、都市化へと波及する。出生率の低下は高齢化し人口が減少、移民の流入と民族構成の変化へと繋がる。▼世界は飢餓を克服しつつある。教育水準の向上や女性の社会的進出などが人口動態に影響を与える。多くの国が多産多死から多産少死、そして少産少死へ向かっている。サハラ以南のアフリカの人口は、2100年には世界の3分の1以上になるという。これは16世紀にヨーロッパ人によってアメリカ大陸が征服され、先住民の人口が急減した時以来のことだ。▼先進国の多くは、合計特殊出生率が2.1を割り込み、超高齢化社会が予想される。わが国は、そのリーダー的存在だ。これが、経済成長の足かせとなることは間違いない。だがその対策は未だ見えていない。大規模な移民を受け入れる準備もない。仕事と子育ての両立への理解も欠如し、多くの女性が結婚や子育てより自立を優先しているのが現状だ。