小峰隆夫著『私が見てきた日本経済』は、ニクソン・ショック、石油危機、貿易摩擦からバブル生成と崩壊までの40年間の日本経済を振り返る。氏は旧経済企画庁(現内閣府)出身の官庁エコノミスト。政策は国会議員が決め、庁として分析・判断・他省との調整に徹する。人事を始め多彩なエピソードと共に、景気判断や経済白書作成の興味深い舞台裏を見せる。▼例えば貿易摩擦。米国から、コンテナの大きさが障壁と指摘された。日本では高さ制限があり、港で小さいコンテナに積み替えなければならない。米国ではその判断は運送業者だ。だが日本では、キリンの輸送のように、その都度、建設省・警察庁に許可が必要になる。この話には落ちがある。その許可事務を上記省庁のOBにすれば喜ばれるだろうと言う。▼氏は正論を旨とする。例えば自動車のシェア。日本車の米国でのアップは、米国車の日本でのダウンと矛盾しない。品質の問題だからだ。例えば地域振興券。有名な解説者でも、貯蓄に回らないようにするためと誤解を与える。貯蓄意識の高い人は、振興券を日常の生活に回し、手元資金を貯蓄に回すに過ぎない。結局のところ、減税と同じ効果しか得られない。▼氏は、「白書」の過去の評価を顧みて、日本の経済論議は情緒的だ。間違った時でも、頭を下げ謝ると相当程度批判が収まることが多い。本当に必要なことは、間違いの原因を分析・究明し、その因果関係に即して再発防止策を講じることだと言う。本書は文章が平易で読みやすいが、ただあえて不満を言うなら、米国の影響力が希薄ということだろうか。