2年ほど前、「親ガチャ」という語が、流行語大賞にノミネートされた。親次第で、家庭環境により人生が左右されるという意味だ。キャスリン・ペイジ・ハーデン著『遺伝と平等』は、人は誕生する時、2種類のくじを引かされる。一つは、親の経済力や地域の環境という「社会くじ」、もう一つはゲノムという「遺伝くじ」だ。この結果が所得や教育格差などに関係するという。▼著者は心理学者で行動遺伝学の専門家。長年の双子やここ数年のDNA測定の研究から、遺伝的な差異は社会的不平等を引き起こす。それは、学歴のみならず、身体的、心理的、行動上の違いや生殖能力の不平等にも関係する。従って、人々が異なる遺伝子を受け継ぐと、その人生は違ったものになる。だが遺伝の影響は決定論的なものではないという。▼遺伝子と結びついた不平等は、人々の人生における運の問題。自分の力ではどうしようもない。社会的に価値づけられた成り行きを、人間の価値と混同してはならない。社会政策によって社会を変化させる可能性を諦めてはならない。だが環境の運に根差す不平等を憂慮すべき不公平と考えるなら、遺伝的な運に根差す不平等も憂慮すべき不公平だと言える。▼米国の哲学者、ジョン・ロールズの『正義論』には、「生まれつき恵まれた立場に置かれた人は誰であれ、運悪く恵まれなかった人たちの状況を改善するという条件の下でのみ、自らの幸運から利益を売ることが許される」とある。著者は、もっとも弱い立場にあるのは誰か。社会としての選択がその人たちに及ぼす影響を知り得る社会でなければならないという。