昔の呼称について | ことのは学舎通信 ---朝霞台の小さな国語教室から---

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 前回のこのブログで「曲水の宴」について書いた。

 平安時代には「ごくすいのえん」と呼ばれていたが、後に「きょくすいのうたげ」という呼称が流布している。

 このように、昔の物事や建物・人物などが、当時とは異なったかたちで後世に伝わっている、ということが、しばしばある。

 昔の物や言葉は、当時の呼称のままで呼ぶのが適切である。

 そのような例をいくつか挙げてみる。

 

1 「殿上(てんじやう)」

 「殿上」とは、皇居の清涼殿(天皇の日常の居所)の南廂の、上流貴族たちの控室である。

 天皇から認められた者(殿上人)だけが昇殿できる。

 この「殿上」「殿上の間」としている参考書や辞書が、多く見られる。誤りである。

 実際の文献に見られる用例はすべて「殿上」である。「殿上の間」という語は見られない。

 この場所は「殿上」と呼ばれていたのであり、「殿上の間」とは呼ばれていない。

 多くの図録類の出典となっている『大内裏図考証』(1797年 裏松固禅著)でも、「殿上」となっている。

 「殿上の間」という呼称は、後の時代の人が呼んだものである。

 昇殿という行為も「殿上」というので、区別するために「殿上の間」と呼んだのだろうか。

 「殿上」の現代語訳として「殿上の間」という表現を使うのはよいが、当時の呼称として使うべきではない。

 参考書、辞書、資料集などの信頼性を確かめるとき、わたしはこの語をチェックすることにしている。

 「殿上の間」としているものは、きちんとした考証をおこなっていない、信頼性の低い書物である。

 「殿上」が正しい。

 

つづく